今回は、スタート直前のガンプ鈴木さんに、プロフィールやこれまでの旅について話を聞いた。
なぜ人力車を引いて世界を旅しているのか?
ガンプ鈴木さんの本名は鈴木悠司さん。1990年に京都府で生まれた。幼い頃から走り回り、泥だらけで帰宅するような活発な子どもだった。小学校3年から大学までサッカーに没頭、大学3年の時、キングカズに憧れてブラジルへ渡った。
しかし、現地ブラジルで分かったことは、サッカーより人との出会いや新しい世界を知る楽しさだった。ブラジルからの帰りには早くも「旅人になる」と決めていた。帰国後、旅の資金を集めるために始めたのが、人力車バイトだった。23歳で人力車に出会ってからは、持ち前のコミュニケーション力を活かして、浅草で世界中の人々を案内してきた。
旅資金が溜まった26歳の時に、世界5大陸制覇の旅を計画。その頃には人力車への愛着が深くなり、旅か人力車のどちらかひとつを選ぶことはできず、人力車と共に旅に出ることにした。ガンプさんは「誰も挑戦しない事をやってみたかった」と語る。
人力車で走った2万kmの軌跡
現在まで以下の4地域を人力車で走った。
- 2016~2017年 アジア横断 約5,000km
- 2017年 ヨーロッパ縦断 約2,500km
- 2018年 オーストラリア旅 約1,000km
- 2019~2023年 アメリカ横断 約7,600km
日本での走行も含め、トータル距離は2万kmを超えたという。何年もかけ、人力車を引いて、この距離を駆け抜けたことに驚かされる。
旅の途中では人力車の故障などのハプニングと苦境の連続だった。アメリカ横断中、ルート66の道が果てしなく感じ、砂漠の道を走る意味を見失ったこともあった。また、アジア、ヨーロッパ、オーストラリアは仲間と一緒に走ったが、アメリカでは初の単独走行。今までの仲間が離れてしまったことをネガティブに感じて苦しく思った。
その都度、体力と気力の限界に立たされたが、気がつけばまた多くの人々が、彼の進む道を応援し続けていた。その様子はドキュメンタリー映画『JUST FOR FUN 一期一会。人生を走る男の物語。』にまとめられた。全国27ヶ所、アメリカ1カ所で上映され、総動員数約6,000名であった。
アフリカ縦断の旅へ
そして2024年6月24日、ついにアフリカへ出発。今回のメンバーはガンプさん、3人のカメラマン、ケニア人の現地コーディネーターの5人だ。ゴールは約半年後の南アフリカ。カメラマンの3人はなぜガンプさんに同行したのか聞いてみた。
ハルノスケさん「ガンプさんの強烈な刺激と魅力、日本では決して味わうことができない経験をするためです」
パトさん「アフリカ縦断のチャレンジに声をかけてもらった時、すぐに行きます!と返事をしました。ここで参加しなければ、一生アフリカの地を踏むことはないと思ったからです」
関大基さん「アフリカ直前の四国お遍路旅にも同行したのですが、ガンプさんはまだまだこんなものじゃない、アフリカ縦断のプロジェクトを多くの方に届けたいと思いました」
これまでも、どこかのルートでガンプさんに同行経験がある3人だが、共通して答えてくれたのは「アフリカでのドキュメンタリー映画をまた作成する」という高いモチベーションだ。
「RUN FOR FUN」プロジェクト
ここで、今回の「Run for fun」プロジェクトについて説明したい。
「ランニングを通じて、心身ともに健康で、楽しいと感じることを目指します。年齢や身体的スキルに関わりなく、ひとりひとりが喜びを持ってRUNし、それを共有する機会を持つことで世界をFUNにしていく」
また、実現したい3つのことが掲げられている。
- 南アフリカでゴールまでにガンプさんがSNSなどで呼びかけて、世界中の10万人が同時に走る現象を起こす。
- 楽しみながら走るイベントを開催し、参加費や関連グッズの販売で生み出した利益の5%を、世界をfunにするための基金に寄付する。
- 国を超えてフラットにつながるSNSを通じて、活動を広げていくため、Run for funのインスタグラムのフォロワーを3万人に増やす。
みんなを巻き込む力
最初は「楽しい旅をしたい」という自分ひとりの思いから始まったガンプさんだったが、世界を8年間走り続け、たくさんの声援を受けるなかで、「みんなと一緒に笑顔になる」という気持ちが芽生えたという。
ガンプさんを応援する京都市在住の女性に話を聞いた。
「ガンプさんを知ったきっかけは、コロナの時期でした。同じ京都出身でもあり、私も行ったことのあるアメリカからインスタで発信されていたので興味を持ちました。そして人力車?なんでこんなことをやっているのか?とだんだん目が離せなくなってきて。
当時まだ日本ではコロナ禍で、人との接触も制限がありました。でもアメリカのローカルからは直接差し入れをされたり、家に泊めてもらったり。人の温かみをリアルに感じることができました」
「今度はアフリカで、ガンプさんが自然とどう向き合うのか、その世界をどう見せてもらえるのかに注目しています。人を分け隔てしないガンプさんの包容力で、また世界中の人を巻き込んでほしいです」
This is Kenia=ケニアの今
6月25日、ガンプさん一行はエチオピアを経由してケニアに到着。するといきなり街のあちこちで、国政に対するデモ隊と警察の衝突という、緊迫した光景を目の当たりにした。彼らのインスタグラムではこの写真とともに、「This is Kenia」という文字があった。これからの旅でも、どんなことが起こるか未知だが、彼らの目線でそのままの状況を伝えてくれるだろう。
不安と楽しみ
ガンプさんに、これからの旅に対する”不安”と”楽しみ”の割合いを聞いてみた。
「楽しみが100%で、不安は0%です」
ガンプさんらしい回答だ。これが彼の意気込みでもあり、たくさんの人を巻き込んでいる責任感もあるだろう。
カメラマン3人に同じ質問をすると、
「不安を挙げればキリがありません」「たくさんあります」「色々あります」と一様に不安は隠せない。食事、動物、感染症、機材トラブル…。
一方、「長旅への不安を乗り越えてアフリカに順応する自分への期待」「すべてがドキュメンタリーのコンテンツとして重要な役割を担ってくれると思うので、不安要素も楽しんで乗り切りたい」という内容も語ってくれた。
ケニアにて、現地コーディネーターのRagwar Wandere(レギー)さんと合流。
そして、ガンプさんはアフリカ縦断にかける思いをこう話した。
「It’s my dream going to different parts of the world and also it’s the right way to test my limits」
~世界のさまざまな場所に行くのは私の夢であり、自分の限界を試す正しい方法でもあります
ガンプさんの夢が、カメラマンやレギーさんの夢になったように、この輪がアフリカでも広がるのか、彼らが進む道のりを見守りたい。
ガンプ鈴木さんの関連リンク
写真提供:Just For Fun
同行カメラマン=ハルノスケ、関大基、パト