
1 高速道路は避けて、一般道を走る。
2 1日の移動距離は200km以内とする。
3 宿泊は原則キャンプ。
SAやPAでしか停まれない高速道路の走行は、旅とはいえない。マルとセンポに移動のストレスをかけないためにも休憩をたくさんとって、2頭の犬連れキャンプを楽しみつつ、徳島をめざすことにした。
1日目|御前崎のキャンプ場をセンポとマルで独占

N-VANに乗車中のマルとセンポ。すっかりリラックスして、自分の居場所だと思い込んでいるようだ。
初日は八ヶ岳山麓の自宅から静岡県の御前崎まで移動。予約した御前崎のキャンプ場は、15年ほど前にアウトドアのイベントに招かれて来たことがある。その日は次第に風が強くなって、キャンプ場は大荒れとなった。当時の僕はキャンピングカーに乗っていたから問題なかったけど、いくつものテントが風に吹き飛ばされて海に浮かび、現場は右往左往した。
この日も風が吹いていたが、キャンプ場のスタッフは「一昨日は風が強くてキャンプ場を閉鎖しましたが、この程度なら大丈夫ですよ」という。
晩秋の平日だからだろう。利用者は僕らだけで「どこでも好きな場所を使ってください」とのことである。
誰にも迷惑がかからないから、センポとマルをフリーに走らせた。そして僕はテント泊、犬たちはN-VANに車中泊して快適な夜を過ごした。

日が暮れると御前崎周辺に吹いていた風も治まった。1区画のテントサイトが広いオートキャンプ場だった。

センポとマルはキャンプ場内を自由に歩き回った。犬がクルマに乗って旅する場合、適度な運動が不可欠となる。

御前崎のキャンプ場は1泊4,000円だった。僕らで独占できて、広大なドッグランが使えたことを考えればお得といえるかも。
2日目|フェリーに乗って伊勢志摩へ
翌日は太平洋に沿って西へ向かい、渥美半島の伊良湖から伊勢湾フェリーに乗船して鳥羽に渡った。
伊勢志摩周辺にはオートキャンプ場がいくつもある。選んだキャンプ場は、鳥羽港から十数kmほど離れた場所にあるオートキャンプ場だ。グランピングの施設があるおしゃれなキャンプ場で、バックパッカーの僕には不向きなんだけど、ドッグランがあって犬連れには都合がいい。
オフシーズンの料金設定で1泊4,500円だが、犬1頭につき900円が別途にかかる。計6,300円は高い。でも付近のキャンプ場も同じような料金設定だろうし、女性スタッフがセンポとマルに好意的だったので、そこに決めた

トレーラーハウスやグランピングの広いテントなど、さまざまなスタイルが用意されたオートキャンプ場だった。

バックパッキング用のテントと軽自動車のN-VANでは持てあまし気味の広さのテントサイト。各サイトにベンチとテーブルがある。

ドッグランがあって、犬を自由に遊ばせられる。犬の排泄物を捨てるゴミ箱も設置されている。

各サイトに焚き火台も用意されていて自由に使える。薪も販売されているが、細い針葉樹の束で質はイマイチ。
3日目|島旅の思い出を胸に優雅な寄り道を楽しむ
3日目は少し寄り道をした。
伊勢湾には離島があり、鳥羽から市営定期船が就航している。約15年前、僕は黒ラブのサンポと娘のトッポを連れて答志島を旅した経験がある。犬連れの僕らに対する市営定期船の応対も答志島の人々のホスピタリティーも良好で、印象に残る島旅となった。あのすばらしい島旅へ、センポとマルを連れて出かけたかった。

2008年3月。中学生の一歩、小学生の南歩、妻とともにサンポとトッポを連れて答志島を歩いて、海辺でキャンプした。
鳥羽からは答志島、神島、坂手島、菅島の4島に船が出ている。その4島の中から最も近くて、運航時刻の都合もいい坂手島へ行くことにした。
乗船案内には「ペットはケージ類に入れてください」と書いてあり、「小荷物サイズ(30kg)を超える動物は料金が発生します。窓口係員にお申し付けください」と追記されている。
指示どおりに市営定期船の窓口へ行き、「犬を連れて坂手島へ行きたいんですが」と声をかけ、「あの2頭の犬です」と、建物の外に待たせてあるセンポとマルを示した。
センポとマルを確認した窓口の女性は、事務所で上司らしき男性と話をして窓口に戻った。
その回答は「リードにつないで乗船中はデッキにいてください」とのこと。サンポとトッポのときもそうだった。ケージに入れなくてもいいし、2頭の合計が30kgを超えるから荷物料金を払うと僕が提言しても、必要ないという。15年経っても変わらない、市営定期船の良心的な対応がありがたかった。

坂手島へ渡る市営定期船に乗る。音も振動も大きいけど、センポもマルも動じなかった。

約10分後に坂手島へ上陸。周囲約3.8kmの小さくてのどかな島だ。
鳥羽の沖600mに浮かぶ坂手島までの乗船時間は、わずか10分程度だ。
でも鳥羽とは別世界だ。島にはクルマが走っていない。クルマの通行が前提にない集落だから、家と家の間隔が狭くて、路地裏を歩く感覚で島のメイン通りを歩ける。
出会った島民は3人のお年寄りだけである。島に犬は見あたらない。でもあちらこちらに猫がいる。センポとマルの姿に驚いた猫は、サッと逃げたり、威嚇したりするが、センポとマルは気にする様子もなく、悠然と島を歩いた。
集落を抜けた先に小さな浜辺がある。誰もいない静かなビーチだ。犬たちのリードを離してビーチを走らせたあと、海を眺めてボーッと過ごした。
何をするわけでもない。センポとマルのそばで流木に座って海を眺める。それが優雅な時の流れに感じる。
のどかな島のショートトリップだけど、センポとマルのおかげで別の風景が見られた気がした。

クルマが通れない狭い通路が島のメインロード。山で暮らしている僕は、こういう風景が新鮮に感じる。島民の密接な生活が想像できる。

坂手島に犬の姿はなかったが、民家の前に犬の置き物が並んでいた。マルもセンポもとくに反応せず。

島のビーチで自由な時間を過ごした。何もないからこそ、心豊かな風景に感じる。

「賢いコやなあ」と、センポもマルも島民に褒められた。
4日目|徳島へ到着! そのときマルは……
4日目は和歌山から南海フェリーに2時間乗船して徳島に渡り、日和佐に向かってN-VANを走らせた。
野田さんの家には直行しない。日和佐駅に近い23番札所の薬王寺の駐車場にN-VANをとめ、そこから数km先の野田さんの家まで歩くつもりだ。
わずかな距離だけど、センポとマルとともにお遍路道を歩く旅を味わいたいし、マルが地元に帰ってきたことにどこで気がつくか、マルの反応を楽しみたいと思ったからだ。
マルがどんな反応を示したか、最後がどうなったか、ドラマチックな旅の結末はBE-PAL4月号の『シェルパ斉藤の旅の自由型』を読んでもらいたい。
あの場面を思い浮かべると、僕はいまでも胸が締めつけられる。犬連れバックパッカーでいられることに誇りを持てる旅だった。

日和佐の薬王寺から野田さん宅に向かって、歩きはじめた。マルもセンポもドッグパックがよく似合う。

2頭は僕をリードするように、並んで先頭を歩いた。このままどこまでも歩いていきたい思いに駆られた。
