シェルパ斉藤、1日1ℓの燃料でスーパーカブと中山道を旅する
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    2023.12.07

    シェルパ斉藤、1日1ℓの燃料でスーパーカブと中山道を旅する

    スーパーカブで旅をするシェルパ斉藤

     抜群の燃費を誇る愛車で中山道の宿場をめぐる

    中山道をスーパーカブで旅した。普通のツーリングではない。1日に使えるガソリンは1ℓのみ。タンクに1ℓのガソリンだけを入れて中山道を走り、ガス欠になったらそこで1日の移動を切り上げて寝場所を探す。スーパーカブの『行きあたりばっ旅』である。

    きっかけは、5月に参加したSSTR(サンライズ・サンセット・ツーリング・ラリー)だ。SSTRは自分で定めた東海岸の地点から日の出以降にスタートして日の入り前に能登半島の千里浜にゴールするオートバイのイベントで、抜群の燃費を誇るスーパーカブで参加した僕は、無給油完走をめざした(「旅の原点はオートバイだった! シェルパ斉藤、ラリーで能登をめざす」)。

    惜しくも残り約20kmの地点でガス欠となって無給油の完走は果たせなかったが、わがスーパーカブはリッター80kmを超える燃費を記録した。

    その驚異的な燃費にも感動したし、ガソリンの残量が1ℓ以下になって、メーターの燃料残量警告ランプが点灯してからのスリルにも興奮をおぼえたものだから、1日1ℓのスーパーカブ・ツーリングを思い立った。

    SSTRのゴールシーン

    SSTRのゴールシーン。三重県桑名市の伊勢湾台風殉難の碑から、ゴールの石川県羽咋市の千里浜までの走行距離は約280km。わがスーパーカブはタンク容量が3.4ℓしかないため無給油完走は果たせなかったが、燃費はリッター80kmを超え、ガソリン4ℓ以内で完走できた。

     旅先として中山道を選んだ理由は、江戸時代の面影が残る旧街道は適度な間隔で宿場町があるからだ。テントを張れる広場や旅館など、寝床を確保できる場所が短ければ数km、長くても十数kmの間隔で点在すると思う。

    約1年前に松本盆地から佐久平まで歩いて途中から中山道に合流したので(「シェルパ斉藤の信州バックパッキング2泊3日!松本から佐久平へ」)、その反対側、甲州街道の終点でもある下諏訪町から中山道の終点の京都三条大橋をめざそうと決めた。

    1日どの程度の距離をスーパーカブで移動できたのか? 寝場所はどうなったのか? 旅の様子はBE-PAL1月号の『シェルパ斉藤の旅の自由型』に記したので、そちらを読んでもらいたい。BE-PAL.NETでは印象に残った中山道の宿場を少し紹介しようと思う。

    乗用車の駐車場が遠いイベントにもスーパーカブならすぐ行ける

    スーパーカブへの給油

    左/1日1ℓツーリングに欠かせない装備がガソリンの携行缶。道中で燃料を補給しないことには旅を続けられない。右/燃料を使い果たした翌朝にガソリンを給油して旅を再開するのだが、1ℓのガソリンを給油しても燃料計はレッドゾーンを示している。

    まずは中山道ではなく、甲州街道の台ヶ原宿。八ヶ岳山麓の自宅から中山道の下諏訪宿へ向かうために甲州街道を走ったら、旧白州町の台ヶ原宿で、クラフト市と骨董市などの露店が軒を並べる「台ヶ原宿市」が開催されていた。

    3日間で約5万人が訪れる盛況ぶりで、旧甲州街道と並行する国道20号は渋滞が発生。乗用車の駐車場は台ヶ原宿からかなり離れた場所にあってシャトルバスを利用しなくてはならなかったが、50ccのスーパーカブは台ヶ原宿の中心地に設けられた駐輪場に駐輪可能だ。スーパーカブで走る利点を中山道の旅がスタートする以前の甲州街道で体感できた。

    台ヶ原宿

    台ヶ原宿に立ち寄る。食べ物の露店もたくさん並んでいて、たこ焼きを買い食いしてしまった。

     下諏訪宿は中山道と甲州街道の合流点であり、分岐点である。中山道で唯一の温泉がある宿場町であり、急ぐ旅でもないし、汗をかいて歩く必要もないエンジン動力の旅だから、何度か利用している菅野温泉に入った。11ℓの旅は時間に余裕が持てる旅でもある。

    中山道と甲州街道が交わる地点

    下諏訪宿になる中山道と甲州街道が交わる地点の石碑。東は和田峠を越える中山道、西は甲府方面に向かう甲州街道と表示されている。

    スーパーカブの横でコーヒーブレイク

    1日1ℓの燃料分しか走らない旅だから時間に余裕がある。趣のある木造駅舎の外でヘリノックスのイスを出してコーヒーブレイクを楽しんだ。

     自転車の延長だから押し歩きも楽しい

    山に囲まれた木曽路に入ると、重要伝統的建造物群保存地区に指定された奈良井宿など、江戸時代の建物が並ぶ趣のある宿が続く。

    奈良井宿は観光客の乗用車は通りに進入できないが、エンジンを切ったスーパーカブは押して歩くことができる。50ccのオートバイは原動機付自転車と呼ばれるが、押して歩けるスーパーカブが自転車の延長であることを実感し、風情ある通りをゆっくり歩いた。

    朝の奈良井宿

    スーパーカブを押して朝の奈良井宿を歩く。昼間になると観光客でにぎわうだろうが、朝は行き交う人も少なく、のんびり歩ける。

    古い建物が並ぶ町並み

    奈良井宿ほどまとまっていないが、福島宿も古い建物が並ぶ町並みが残っている。この通りの表側は小さな商店街がある。

    山村のような宿場にも多数の外国人旅行者が!

    木曽路の中山道といえば、妻籠宿と馬籠宿だ。海外からの観光客でにぎわっていて、オーバーツーリズムという言葉が頭をよぎった。妻籠宿と馬籠宿をつなぐ旧中山道は歩道としての整備状況が良好で、外国人旅行者が多数歩いていた。

    ちなみに妻籠宿は長野県。馬籠宿も長野県だったが、平成17年に長野県山口村が岐阜県中津川市に越県合併したことにより岐阜県となった。妻籠宿は深い山に囲まれた山村の風景だが、馬籠峠を越えた先の馬籠宿は山が開けた明るい印象を持った。

    妻籠宿

    日本人よりも多いかもしれない。妻籠宿は多国籍の外国人が通りを行き交っていた。

    馬籠峠

    妻籠宿と馬籠宿の間に立ちはだかる馬籠峠。車道は勾配がきついワインディングロードを走ることになる。ガソリン残量がわずかだったため、途中で止まるのでは……とハラハラドキドキしてスーパーカブを走らせた。

    午後の妻籠宿

    地形的に開けているからだろう。妻籠宿は日が翳りつつある時刻でも馬籠宿は陽射しが注いでとても明るかった。

    落合の石畳

    全長830mある落合の石畳。車両は通れず、歩行者のみが通行できる。往時の面影が残っている風情ある石畳の街道だ。

    滋賀県の醒井宿

    滋賀県の醒井宿は地蔵川に沿った、落ち着きのある町並みが続く。澄んだ地蔵川には水中花の梅花藻が生育している。水に揺らめく光景が風流。

    さて、スーパーカブの11ℓ中山道ツーリング。1日にどのくらい行けたか、どこでどう泊まったか、自分でもワクワクする痛快な旅となったので、ぜひ『シェルパ斉藤の旅の自由型』を読んでもらいたい。

    ガソリン価格が高いとはいえ、1170円程度の移動費でドラマチックな旅が楽しめるスーパーカブはやっぱりすごい、とあらためて惚れ直した旅となった。

     

    シェルパ斉藤
    私が書きました!
    紀行作家・バックパッカー
    シェルパ斉藤
    1961年生まれ。揚子江の川旅を掲載してもらおうと編集長へ送った手紙がきっかけで『BE-PAL』誌上でデビュー。その後、1990年に東海自然歩道を踏破する紀行文を連載して人気作家に。1995年に八ヶ岳の麓に移住 し、自らの手で家を作り、火を中心とした自己完結型の田舎暮らしを楽しむ。『BE-PAL』で「シェルパ斉藤の旅の自由型」を連載中。『シェルパ斉藤の行きあたりばっ旅』ほか著書多数。歩く旅を1冊にまとめた『シェルパ斉藤の遊歩見聞録』(小学館)には、山、島、村、東海自然歩道などの旅や、犬と歩いたロングトレイルの旅を収録。

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