生涯に1500種類以上もの植物を命名した不世出の植物分類学者・牧野富太郎。彼の人生は文字どおり花に彩られていました。そんな牧野の足跡をたどりながら、今こそめくるめく植物観察の世界に入門!"令和の牧野富太郎"への第一歩は、植物園からスタート!植物の面白さがギュッと詰まっているから、初心者こそ楽しめるのです。
高知県立牧野植物園で植物世界の歩き方を知ろう
高知県立牧野植物園
住所:高知県高知市五台山4200-6
電話:088(882)2601
開園時間 9:00~17:00(最終入園16:30)
入園料 一般730円(高校生以下無料)
教えてくれた人・田邉由紀さん(右)
習った人・編集カジハラ(左)
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田邉さんは植物研究課主任。標本管理の傍ら、県内の植物相の調査、外来植物の防除などを中心に活動する。 カジハラはビーパルのチャレンジ企画担当。「植物にはとんと疎いけど、キャベツとレタスと白菜は見分けられます!」
本来の生育環境に合わせて再現
植物学の巨人・牧野富太郎は高知県に生まれ、94歳で永眠するまで精力的に研究を続けた。
彼の悲願が、多様な植物を集めた植物園を持つこと。そんな牧野の夢を実現させたのが高知県立牧野植物園だ。
「実は、受付手前のこのエントランスが当植物園の特色が出ているエリアです。道の左右で違いがあるのですが、おわかりになりますか?」
そう話すのは植物研究課所属の田邉由紀さん。編集部カジハラは一生懸命見比べているが、まるで見当がつかない様子。
「答えは林の様子です。向かって左側が低山の林、右側に標高が高い山の林を再現しています」
なるほど、そういわれると左側に葉の厚い常緑樹、右側には明るい色の落葉樹が生えている。
「林床に生える草木も本来の生育環境に合わせています。それどころか、地面に落ちた木々の葉もそれぞれ違うエリアに混ざらないよう、管理しています」
と、驚くまでの徹底ぶり。それでいて、どの株も天然林に生えているかのように自然だ。
「当園は目に楽しい園芸品種も植栽しつつ、牧野富太郎にゆかりのある植物を数多く保有しています。スマホで解説を読めるQRガイドも展開していますから、手ぶらで訪れても楽しめます。入門者にこそ足を運んでいただきたいですね!」
Check Point 1
高知の代表種が勢揃い!
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「無料で観察できる『土佐の植物生態園』エリアが実はアツい!」と田邉さん。高知県の海岸部から山間部までを再現したエリアで、牧野が高知県の横倉山で発見したヨコグラノキなど高知を代表する草木が植えられている。
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ヨコグラノキ
Check Point 2
生育地を再現した生体の展示
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太平洋に面した高知県は海辺の植物も豊富。「海岸の植物は塩や風などに耐えられるよう葉が厚いものが多い。このエリアでは本来の姿を維持できるよう、ブロアーで風を当てたりしています」。土佐の植物生態園は渓流や湿地などの環境も再現。今では少なくなった湿地の姿を見られる。
生きた標本
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植物名を記した植物ラベルには識別番号が。「番号はどの地域からいつ導入した株か管理するもの。地域的な変異を比較研究するときに役立ちます」
Check Point 3
牧野博士ゆかりの植物が集結
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1500種類もの植物に和名や学名をつけた牧野。サギゴケのような普通種や、園芸品種のサクラソウも博士と縁が深い。亡くなるまで毎年、知人に花を送ってほしいと頼んだオンツツジや、妻の名前をつけたスエコザサなどの植物も植えられている。
オンツツジ
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花も葉も3つがひと組になるのが特徴。高知の里山に多いという。
スエコザサ
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その名を妻・壽衛からとったスエコザサ。葉の片側が裏側に巻き込まれるのが特徴。
サクラソウ
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江戸時代から栽培が楽しまれた本種を牧野は「大いにわが邦の誇り」と評した。
サギゴケ
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本州以南ならありふれた種。サギゴケの和名は牧野が1902年に提唱した。
シコクチャルメルソウ
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果実が楽器のチャルメラに似ていることから名付けられた。奥山の渓流沿いに多く、牧野の書いた精緻な植物図は代表作のひとつ。
バイカオウレン
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牧野が特に愛した花として知られ博士の郷里の佐川町には今も大群落がある。早春に梅のような白い花をつけることからこの名がある。下の写真は実をつけた状態。
Check Point 4
海外の植物を見て感じる大温室
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「当園は牧野の名を冠していますが、植物に明るくない一般の方にも楽しんでもらうことも心がけています。温室には熱帯〜亜熱帯の植物を植栽し、カカオやバニラなどの馴染み深いのに実物を目にする機会がない木や、バオバブなどを植えています。5月中旬はバニラの花が見られますよ!」
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鮮やかな赤い花をつけるアンスリウムの和名「オオベニウチワ」は牧野による命名。
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本当にバニラのにおい!
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アマゾン原産のオオオニバス。夏季には子供が乗れるイベントを開催(要予約。体重15㎏まで)。
Check Point 5
牧野博士の蔵書と標本を収蔵
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牧野が青年期に自身に課した勉強の心得『赭鞭一撻(しゃべんいったつ)』には「書籍の博覧を要す」とある。この一説のとおり、牧野は膨大な数の本を収集した。4万5000点の蔵書は牧野文庫として大切に保管されている。このほか、標本庫には牧野が集めた5500点の標本も収蔵する。
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「ものすごい読書家だったんだなぁ……」(カジハラ)
(BE-PAL 2023年6月号より)