東日本大震災の翌年の秋。BE-PAL.NETでもおなじみのシンガーソングライター・東田トモヒロさんが中心になって立ち上げたのが「CHANGE THE WORLD」。東田さんが被災地に支援に行った際に立ち寄った福島県南相馬のよつば保育園に、安心で安全な熊本の野菜や果物を届けることをミッションとしたこの活動は、大震災から時間を経過するにつれ被災地への支援活動が少なくなっていくなか、今も継続して行われている。
「CHANGE THE WORLD」の活動を始めるのとほぼ同じ時期に、東田さんは近所の田んぼを借りてお米つくりもスタートさせた。当初は一緒にお米つくりをする数家族の仲間たちと家族が食べていく程度の収穫量だったのだが、徐々に耕作する田んぼが増えていった。無農薬でお米つくりをするスタンスが、田んぼを耕している農家さんたちに認められていったのだろう。
そして2019年に、KEEN JAPANと熊本ののはら農研塾と共に「RICE FIELD FES」を立ち上げた。自分たちで作った無農薬のお米を、自分たちで南相馬に届ける。コロナ以前の初年度には、活動をフェスと名付けたように、みんなで楽しむことを根底にしたフェス的な場つくりも行われていた。
ワークショップのように、多くの人が集まって田植えや稲刈りをする。そして作業が終わってからは東田さんのアコースティックライブも田んぼで開かれていた。
笑顔や元気をもたらしてくれるものとは
「RICE FIELD FES」4年目のお米つくりとなった2022年。6月に田植えをして10月に稲刈りをする。このお米が今年1月に東田さんとKEEN、そしてこの活動に賛同するフタバフルーツによって、よつば保育園に届けられた。
よつば保育園では東田さんによるミニライブとKEENによる缶バッジへのお絵かきワークショップなどがコンテンツの交流会も行われた。
「10年以上も通っているわけじゃないですか。震災後に子どもたちに会いに来たときには、やっぱり全体的に暗かったんですよ。子どもたちに笑顔がないときもあったし。たぶん当時は子どもたちの周りの世界がそうさせていたんだと思います。
今日、一緒に遊んだ子どもたちって、震災の後に生まれた子なんだよね。子どもたちを見ていたら、今は大人の方々も元気なんだろうなって思いました。みんな弾けていたし、元気だったから。自分が暮らす熊本地震のときもそうだったけど、一番勇気づけられるのってみんなの支え合いなんですよね。誰かが支えてくれているからこそ、元気になれるし、暖かい気持ちになれる。結局、復興の力って、そこから生まれるものなんだと思う」と東田さん。
被災地の福島と熊本をつなぐ活動
東日本大震災から今年で12年が過ぎた。南相馬のよつば保育園は、福島第一原発の30キロ圏内に位置し、緊急時避難準備区域に指定された。この緊急時避難準備区域とは、簡単に言えば「残って住み続けるか避難するかを自己判断で決める地域」であり、事故当時は「基本的に子どもは住まないほうが望ましい」とされた場所だ。
震災の翌年9月に避難準備区域が解除され、よつば保育園は再開した。当時から保育園の給食は県外産の食材にこだわり、それは今も継続している。子どもたちに安全で安心な食べ物を出すこと。そんなよつば保育園の思いが、東田さんが「CHANGE THE WORLD」や「RICE FIELD FES」をスタートさせた大きなきっかけになっている。
「みんなで一緒になって歌に合わせて遊ぶ。年齢も違うし、それまでは知らないもの同士でも、音楽と体を使って一緒に遊んだら、あっという間に友だちになるじゃん。こういう体験って、子どもたちもずっと忘れないと思うんです。これが熊本のお米ですよって教えてもらったり、プレゼントしてもらったイチゴを食べる。そのときに、あのときは楽しかったってまた思い出してもらえればいい。
暖かいものが心のどこかに残ると思うんですね。お米つくりをして思ったのは、なんかあったとしても、子どもたちだけは守れるっていうこと。だからこれからもお米はつくっていくし、できる限りよつば保育園への支援は続けたいと思っています。子どもたちが元気で笑顔でなくちゃ、世の中は暗くなっちゃうばかりだから。笑顔にするっていう部分では、音楽と食べ物って似ているかもね」
福島の子どもたちに熊本のお米を届けること。それは元気と笑顔をつなぐ活動でもある。「RICE FIELD FES」は5年目の今年も動き出している。
取材・部分/菊地崇
フェスやオーガニック、エコロジーなど、カウンター・カルチャーで掲げられたテーマを、紙媒体をメインに多角的に発信し続けている編集者・ライター。フリーペーパー『DEAL』発行・編集人。フェス界隈では「フェスおじさん」と呼ばれている。