鷹匠が大集合!ドキュメンタリー映画『Game Hawker/鷹匠』公開記念トークイベント | キノコ・ハンティング 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2022.05.02

    鷹匠が大集合!ドキュメンタリー映画『Game Hawker/鷹匠』公開記念トークイベント

    左から谷山宏典さん、松原英俊さん、石川和也さん。

    アウトドア企業「パタゴニア」が制作したドキュメンタリー『Game Hawker/鷹匠』が完成。ファルコナー(鷹匠)のショーン・ヘイズを追ったこの映画のプレミア上映&トークショーが、先日開催されました。登壇したのは東北の出羽地方に伝承されるクマタカとともに、鷹匠として半世紀ほど暮らしてきた松原英俊さんと、パタゴニア日本支社に勤務しながら25年以上をファルコナー(鷹匠)としても活動する石川和也さん。聞き手は、『鷹と生きる。鷹使い・松原英俊の半生』著者である谷山宏典さんです。

    ハヤブサやクマタカと狩りをする鷹匠

    ――同じ鷹匠の目線から、この映画の感想を教えてください。

    松原「素晴らしい映像でした。広い草原のなかでハヤブサを飛ばすショーンの姿は格好いいなと。ショーンは幼い頃、飼っていたハトをクーパーハイタカに襲われて辛い思いをしたそうですが、私も同じような体験をしました。幼いころから生きものが好きで小学生のときにヤマガラという野鳥を飼っていて、よくなついていました。虫を捕まえて与えたり、部屋の中で放し飼いにしたり。丈夫な金網の檻に入れていましたが、ある日学校から帰るとそれが破られ、そこにヤマガラの1枚の羽根がついていて。ネコにやられたのだなと、とても悲しい思いをしました。ショーンの言葉のなかで『鷹がケガや病気をするのは全て鷹匠のせいである』と言っていますが、私も日本で鷹を扱ってきていろんな失敗をしてきて、この言葉が深く刺さりました」

    ――パタゴニアはなぜこの映画をつくったのでしょうか、その背景は?

    石川「創業者のイヴォン・シュイナードは十代のころに鷹狩をしていて、ロッククライミングと出合い、そのギアやウェアをつくって現在に至ります。この映画は人間と野生動物の共生が大きなテーマで、猛禽類の、鷹狩のすばらしさを感じてもらえるはず。そうしたテーマについて考えるきっかけになればうれしいですね」

    ハヤブサとともに狩りをするファルコナーのショーン・ヘイズ。(映画『Game Hawker/鷹匠』より。Ken Etzel (c)2022 Patagonia, Inc.)

    ――映画に登場するショーンはハヤブサを使って鷹狩をしますが、ご自身はどんなタカを使っていますか?

    松原「大型のクマタカとイヌワシで、ハヤブサに比べると数倍は大きいタカです。ハヤブサほどスピードはないのですが、力が強い。握力は人間の二倍ほどあります。それで大型のキツネやタヌキ、テンなどの野生動物を捕まえます。訓練中のタカは家の中、お茶の間の止まり木にとめておくのですが、ウチの子どもが赤ちゃんのころにハイハイをしていたら、それを獲物だと思ったクマタカがなんども襲いかかろうとしたんです。だから絶対に目を離せませんでした。この会場では(と客席を見渡し)、前列に座った赤い服と赤い靴下をはいた子に襲いかかる恐れがいちばん高いです(笑)。タカは色がわかるんですよ。それで赤は血の色、肉の色ですから。それで大きさによって獲物と判断して攻撃します」

    ――獲物は、主にどんなものを?

    松原「キツネやタヌキやテンも捕まえますが、それらは夜行性で。日中、雪山に出てくることはほとんどないんです。だから獲物の9割は野ウサギ。自然界の餌動物と呼ばれ、キツネやテンやタカに襲われても戦うための武器を持たない、弱い動物です。でも自分を守るための『武器』は備えているわけです。敵が近付いてきたらすぐ逃げ出せるように耳が大きく、冬になると敵に見つからないように雪と同じ真っ白な毛皮になる。保護色ですね。また野ウサギは後ろ足が特に大きく、14cmくらいあります。すると雪の上をぴょんぴょん逃げるときに雪に沈まない、かんじきの役割をして、速いスピードで逃げることができます。それからウサギは夜行性のため、夜が明ける前に木の下の雪穴に入って寝るんです。そのとき、ただ雪穴に入っていくと、嗅覚のいいキツネやテンが足跡を嗅ぎつけて見つかってしまう。そこでウサギは穴に向かう途中でひょいっと回れ右をして、自分が走ってきた足跡通りに戻る。それをなんどか繰り返したあと、ようやく自分の穴に大きくジャンプして入っていきます。するとキツネなどが足跡の匂いを追いかけてきても、途中で匂いが途絶えてしまうわけです。そうした習性を〝止め足”と言いますが、私はそれを熟知しています。だからそれを見つけたら必ず野ウサギは近くの穴に隠れているなと思い、捕まえることができるのです」

    ハヤブサの飛ぶ姿にほれぼれ。(映画『Game Hawker/鷹匠』より。Ken Etzel (c) 2022 Patagonia, Inc.)

    「私の鷹狩は非常に泥臭いもの」

    ――獲物を見つけると、クマタカはどんな反応をするのでしょうか?

    松原「腕にとめているときは一瞬、腕に緊張したタカの力が加わり、間髪を入れず獲物に向かって飛んでいきます。タカは目がいいので、私が獲物を見つけられなくても、自分で勝手に飛んでいきます。腕にかかる圧力で、いま飛んだのが獲物を見つけてなのか、遊びで飛んだのか?わかるんです。私に姿の見えない200m300m先でも遠くの獲物に向かってゆきます。遠くの小さい野ネズミでも見つけて捕まえます」

    ――タカが獲物を捕まえたら、そのあとはどうするのですか?

    松原「タカは獲物を仕留めたらそれを持って鷹匠のもとに戻ってくるかというと、まったくそんなことはなくて。タカが捕まえた獲物のところまで駆けつけなければなりません。出来るだけ早くいかないと、タカは空腹ですから食べてしまいます。だから雪の中でかんじきを履いて、一生懸命に山を登ったり下りたりしながらタカのところへ駆けつける。雪山を歩く大変さは、経験した人でないとわからないでしょう。

    私の住む月山(がっさん)は、日本でも有数の豪雪地帯で。積雪が5m6mにもなります。かんじきを履いてもまるで泳ぐように、目の前に空間をつくって一歩一歩踏み出します。国道から自分が住む山小屋まで400mくらいですが、慣れているはずの私でも1時間くらいかかります。今回の映画のように広大な草原のなか、時速300キロにもなるハヤブサを使った華麗な鷹狩に比べて、私の鷹狩は雪の中を一日中登り下りして獲物を探し回る非常に泥臭いものです。ですから若い方で鷹匠になりたいという方はみなさん、ハヤブサとかオオタカの鷹匠の方に…(笑)。いや私のところにも若い人が〝鷹匠になりたい”と直接訪ねてきたり、手紙を書いてきたことがありました。その人たちと話してみると、覚悟とか情熱がものすごく足りないなと。なかにはこんな人もいました。話していて、生き物が好きなことはよくわかりました。それで最後に〝生きもの以外に好きなものはありますか?”と聞いたんです。そしたら、その答えは驚愕すべきものでした。一言で、〝ロレックスです”と言ったんです! 高い時計をたくさん集める人かと思ったら、〝(持っているのは)ひとつだけですけど、それを見ているのが好きです”と。それを聞いて、鷹匠になりたい人は……うん、ロレックスはないよなと。お断りしました」

    雪山で鷹狩をする松原さん。 (C) 2022 Patagonia, Inc. .jpg

    首の無いウミネコの死体、犯人は!?

    ――猛禽類であるタカと信頼関係は築けるものですか?

    松原「タカはイヌやネコのように、人間にべたべたすることはまずないんです。だから自分の気持ちをタカに寄せていく。いつもタカを腕に据えて、出来るだけ長い時間一緒にいることによってタカとわかり合えるというか信頼し合えると。師匠も常にタカと一緒にいて、訓練が始まるとできるだけ家族の一員と同じように長い時間一緒にいた。長い時間の果てにタカは初めて認めてくれる」

    石川「ハヤブサでも同じです。ドライに聞こえるかもしれませんが、信頼関係という言葉が先走らないようにしています。慣れたから僕を好きになってくれるわけではなく、ハヤブサがしてほしいことをどんどんするのがトレーニングなんです。その結果に得られるものが信頼関係と呼べるのかもしれない、という感じですね」

    ――タカと共に半世紀を過ごしてきたからこその、生きものとの珍しい体験などが?

    松原「その話をすると1時間2時間では足りません…。山形県の日本海側に飛島という小さな島があって、そこは春と秋にたくさんの渡り鳥がやってきます。300種類くらいの野鳥が観察される島で、ある年の春に訪れ、海岸伝いにトリを観察して歩いていました。ひょいっと見たら海面上に大きな鳥の死体が浮かんでいました。近くから棒を拾ってきてそれを引き寄せると、それはウミネコでした。まだ死んでまもないような、羽根も損傷していないキレイな死体でしたが、不思議なことに首だけがなにかに切られたようになくなっていました。

    なぜ首なし死体が海に浮かんでいたのか? 推理したんです。それはハヤブサの仕業でした。ヒナのエサとしてウミネコを襲い、巣に持っていこうとして途中で落としてしまったんですね。ハヤブサは、捕まえた獲物をまず真っ先に首をくちばしで切り落とす習性があります。それを鷹匠は〝首おとし”と言い表すんですけど。そのウミネコの死体をタカの餌に持ち帰ろうとリュックに入れてさらに海岸伝いに歩くと、岸からそう遠くない海面上に大きなトリが羽ばたいているんです。それもタカの仲間ミサゴで。とった獲物が大き過ぎて持ち上げられずにいました。岩に隠れて近寄ると私に気づいて逃げていったんです。でも脚には何も持っていない。もしかしたら? と靴を脱ぎ、ズボンをたくしあげて海の中にじゃぶじゃぶ入っていきました。幸い遠浅の海で、飛び去ったあたりまで行って探してみると、やっぱり捕まえた獲物が残されていました。40cmほどのクロダイでした。シッポを持って持ち上げてみたらまだ生きていたので、持ち帰って刺身にして食べました。新鮮なクロダイですから、すごく美味しかったです」

    映画『Game Hawker/鷹匠』

    40年もの間、ハヤブサと狩りをするファルコナーのショーン・ヘイズ。カリフォルニア州リバーサイドからオーウェンズ・バレーの平原、猛禽類保護と強く結びつくアメリカの鷹狩を代表する存在へと導かれたショーンの旅路をたどるドキュメンタリー。

    https://www.patagonia.jp/gamehawkerにて公開中
    Ken Etzel (c) 2022 Patagonia, Inc.

    取材・文/浅見祥子

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