
絶滅危惧種に指定される海鳥パフィンの女の子ウーナ、エトピリカのイザベルらによるカワイイ大騒動と友情の物語。パフィンを導くリーダー的存在であるウーナのママを演じる上野さんに、本作の魅力を教えてもらいました。
自然保護、多様性、調和がテーマ

「ふだん俳優業をやっていて、動物を演じることはなかなかありません。しかも声だけでキャラクターに息吹を吹き込み、しっかりと表現する。まずはそこに興味が湧きました」
『パフィンの小さな島』への出演の決め手を、上野樹里さんはそう振り返る。物語の舞台は、アイルランドの島々にインスパイアされた‟トンガリ島”。行方不明になったパフィンの卵を探すというシンプルなお話のなかに、自然保護、多様性、調和などのテーマが織り込まれる。
「今回、俳優という立場で参加させていただいたのは私だけでした。なぜ私が?と思ったのですが、自然や動物に対してどこか神秘的なものを感じたり、環境問題に興味を抱いていたり。そんなところが伝わったのかもしれません」
天然素材や資源の循環を意識したファッションブランド「TuiKauri(トゥイカウリ)」を手がけ、オーガニック給食を取り上げたドキュメンタリー『夢みる給食』のナレーションを務める。そんな彼女自身が、まずこの映画に心惹かれたそう。
「植物を描くにもその生態系の裏付けをしっかり取るとか、自然に対してリスペクトある姿勢が貫かれています。そもそも、絶滅危惧種であるパフィンの暮らしに触れたくてもドキュメンタリーでは限界がありますよね。
それをカートゥーン・サルーンが、アニメーションとしてどう描くのだろう?動物の世界をどう想像するの?観る前はそう思っていました。
ハリウッドのメジャー作品のようにスター性のある主人公が最後に大きなことを成し遂げるようなお話ではなく、映像も日本のアニメーションとも異なる独特の個性があります。人間社会を投影しているところもあって、人間の想像力ってスゴイな、大人も子どもも楽しく観られる作品だなと思ったんですよね」
ひとりぼっちのエトピリカが主人公

上野さんが演じたのは、パフィンたちを導くリーダー的存在であるウーナのママ。その声は落ち着いていて包容力があり、俳優として画面を通して聞く上野さんの声とはまるで違っている。
「声優さんのように声を変えられるかと言うと、そこは自分に求められていないはず。俳優として演じるなら?と考えていきました。モデルにした人がいるわけではありません。
それで画面に登場したとき、声でちゃんとわかるようにキャラクターを立てたい。他とバランスを取りつつ、等身大の女性として親しみを持ってもらえるキャラクターにしたい。そんなことを考えながら演じました」
もともとウーナを主人公にしたテレビシリーズがあり、映画化にあたってはエトピリカのイザベルが主人公に。故郷を失い、トンガリ島にやってくるも、ひとりぼっちのイザベルは新しい環境になじめない。そんなとき、上野さん演じるウーナのママはタンポポの綿毛を例にあげ、「そこがどんな場所でも、自分のおウチにするの」と優しく教え諭します。
「トンガリ島は開放感のある孤島だけれど、嵐が来たら一巻の終わりという厳しさをはらんでもいます。そうした環境を背景にしながら、やっぱりほのぼのした世界観で。
そこで人間ではなく、トリをはじめとした美しい生き物たちが素敵なセリフを口にします。それでいて優しさや癒しと、子どもたちが好きになれる要素がたくさんあるんです。そうして世界中の夢を抱けない子、居場所を失った子、生きづらさを抱えた子どもたちに希望を与えるような、安心させてあげられるようなメッセージが込められています」
上野樹里/うえの・じゅり●1986年生まれ、兵庫県出身。主な出演作は「のだめカンタービレ」「江~姫たちの戦国」「監察医 朝顔」などのテレビドラマ、『スウィングガールズ』『隣人X―疑惑の彼女―』などの映画、「ヒヤマケンタロウの妊娠」などの配信ドラマがある。
『パフィンの小さな島』
(配給:チャイルド・フィルム)
●監督/ジェレミー・パーセル ●原案/トム・ムーア、リリー・バーナード、ポール・ヤング ●脚本/サラ・ダディ ●出演/チョー、新田恵海、田所あずさ、高野麻里佳、上野樹里、大橋彩香、降幡愛、平山笑美、船戸ゆり絵 ●5月30日~ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
©2023 Puffin Rock and The New Friends
*構成/浅見祥子 スタイリスト/古田千晶 ヘアメイク/清家いずみ