キャンプ場でクマに遭遇しないためには?本当の対策をプロに聞いた
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    2021.02.13

    キャンプ場でクマに遭遇しないためには?本当の対策をプロに聞いた

    私が書きました!
    山岳ライター
    吉澤英晃
    群馬県生まれ。登山用品を扱う会社の営業マンを経てフリーランスとして独立。幼少のころ家族で楽しんだキャンプでアウトドアが好きになり、大学で探検サークルに入ってから山に登り始めました。現在は山岳会に所属して、春から秋は沢登りとテンカラ釣り、冬は主にラッセル山行とアイスクライミングを楽しんでいます。

    冬が終わり暖かい季節になると、人がクマに襲われたというショッキングなニュースを、必ずどこかで耳にします。昨年(2020年)は長野県のキャンプ場で、女性がクマに襲われる事件が発生しました。同じキャンパーとして、同様のトラブルには遭遇したくないですよね。

    そこで今回は、クマの生態を調査し、キャンプ場にクマ対策のアドバイスなども行う「特定非営利活動法人ピッキオ」のスタッフ玉谷宏夫さんに、クマ対策でキャンパーが知っておきたいポイントを、7つ教えてもらいました!

    ※今回の記事で特別な記述がない場合、「クマ」は「ツキノワグマ」になります。

    1.山中のキャンプ場は、クマの生息地の中にある

    まず気になるのが、クマが生息している地域について。

    「日本には、北海道にヒグマ、本州と四国にツキノワグマが生息しています。九州のツキノワグマは、2012年に環境省によって絶滅が宣言されました」。

    ちょっと残念な話ですが、九州のキャンプ場は安全と言えそうです。

    国内に棲んでいるクマの生息地について、もう少しミクロな視点で質問してみました。クマは山奥で暮らしている動物なのでしょうか?

    「人が山を利用しなくなった結果、四国などの一部の地域を除いて、クマの生息地は拡大傾向にあります。そのため、近年は人里とクマの生息地が接近したり、重複したりするようになりました。キャンプ場が山の中にある場合、そこはクマの生息地に含まれていると考えられます」。

    2.春から秋はいつでもクマに出会う可能性がある

    クマに遭遇しやすい時期についても気になります。よく、秋になると活発に活動するので出会う確率が高くなると耳にしますが、これは本当なのでしょうか?

    「クマは自分が生きるために、春も夏も食べ物を探して動き回っています。そのため、秋に限らずクマの食べ物がある場所に行けば、クマに出会う確率は必然的に高くなります」。

    クマが春に好むのは、広葉樹の新芽や落ちているミズナラの実(ドングリ)など。そして、初夏にかけては草などを食べ、中には高山植物の実を求めて山に登る個体もいるのだとか。

    「秋になると、再びミズナラやブナの実を大量に食べますが、カキやクリの実を求めて里へ下りてくることもあります」。

    ドングリはクマの大好物。一心不乱に食べているときは、人間の気配に気付かないときもある

    似たような内容で、発情期や食い溜めの時期に出会うと危ないという話もよく聞きます。

    「クマの発情期は6〜7月、冬眠に向けた食い溜めの時期は秋になります。この時期を避ければ安全ということはなく、どの季節であってもクマに出会えば危険です」。

    山の中では季節に限らず、ある程度の緊張感を持ってキャンプ場を利用した方が良さそうです。

    3.キャンプ場でクマに遭遇する可能性は低い

    なんだか、山の中にあるキャンプ場を利用するのが怖くなってきました。私たちは常にクマに怯えながらキャンプをしないといけないのでしょうか?

    「過度に怖がる必要はありません。クマは基本、臆病な動物なので、意識しても野外で出会うことは難しいです。万が一、距離が近づいても、クマの聴覚と嗅覚は人間よりもはるかに優れているので、クマが先に私たちの存在に気付いて、遠ざかるか、隠れてやり過ごしてくれます」。

    さらに、キャンプ場という場所自体、クマにとっては近づく必要がないエリアなのだとか。

    「キャンプ場は人の気配がして、さらに開放地や見通しのよい林内につくられていることが多いので、森林に棲むクマにとって、食べ物がなければ利用価値が低い場所だと考えられます」。

    山の中にあるキャンプ場でも、よほどのことがなければ、クマが出没することはなさそうです。

    4.全員が当事者意識を持ち、徹底して食料などを管理する

    しかし現実には、キャンプ場でクマに襲われた人がいます。それはなぜなのでしょう。

    「クマは大きな体を維持するために、栄養が高いものをたくさん食べなければなりません。さらに人間と同じく植物繊維を消化できない胃腸を持っているので、人の食べ物や残飯はごちそうになります。そして、食べ物に強く執着する動物なので、いったん人間の食べ物の味を覚えてしまうと、キャンプ場は“森の中の餌場”として利用されかねません」。

    昨年、長野県のキャンプ場で女性を襲ったクマは、事件の前日までに、人間が残したカレーライスを食べたことが調査から分かっています。しかし、最初からクマが人間の食べ物を好む訳ではありません。落ちているゴミや食べかすなどから味を覚え、徐々にエスカレートしていくと考えられるそうです。

    ピッキオが開発した、クマには開けられないゴミ箱。長野県軽井沢町の公共ゴミ収集場所に導入したことで、年100件を越えていたクマによるゴミ漁りが一桁台まで激減した

    「徹底してクマに食料や残飯、ゴミを触れさせないことが、基本的なクマ対策のひとつです。自覚、無自覚に関わらず、食料や残飯やゴミの管理を怠り、その結果、クマが人間の食べ物に執着すると、後から来るキャンパーが襲われる可能性が高まるだけでなく、人間と共存できないと判断されて、駆除される不幸なクマを生み出してしまいます」。

    クマの命を奪わないために、徹底して食料や残飯、ゴミを管理しましょう。

    5.ルールに従い、車やチャック付きビニール袋を活用する

    では、どのように食料や残飯、ゴミなどを管理すればいいのでしょう。

    「食料やゴミを建物内やコンテナの中で保管するキャンプ場があります。まずは、それぞれのキャンプ場のルールに従ってください」。

    ただし、すべてのキャンプ場がこうとは限りません。

    「食料保管庫がない場合、いちばん簡単にできる対策は、夜寝るときに食料や残飯やゴミをすべてクルマに保管する方法です。できるだけにおいを漏らさないという観点から、チャック付きビニール袋も重宝します。ちなみに、クーラーボックスはクマが本気を出せば開けられてしまいます。食料の保管や運搬をされるのであれば、インターネットで入手できる、クマに開けられないフードコンテナの利用がおすすめです」。

    さらに北米では、木に生える枝を利用して、食料を幹から離して高さ5mに吊り下げることや、寝る場所、食事をする場所、食料・残飯を保管する場所をそれぞれ100m離し、テントは風上に張ることが推奨されているそうです。

    6.現地に問い合わせて、クマの動向を把握する

    ピッキオでは、軽井沢町からの委託を受け、クマを捕獲して電波発信器を装着し、行動を追跡。被害を出す可能性があるクマを特定して、追い払いなどの対策に活かしている

    キャンプ場を利用する全員が食料や残飯、ゴミの管理を徹底すれば、過度にクマを恐れる必要はなさそうです。しかし、どこかでほころびが生まれている可能性は否定できません。そういった不安要素を解消するには、どうしたらいいのでしょう。

    「“◯◯キャンプ場 クマ”などとインターネットで検索すると、いろいろな情報が出てきます。山の中にあるキャンプ場なら、クマ対策をどれだけ行なっているか、直接問い合わせてみるといいでしょう。周辺のヤブを刈って見通しのいい環境を作っているか、食料を保管する場所とテントサイトを離しているかなどを聞いてみてはどうでしょうか」。

    さらに心配なら、キャンプ場の周辺にも目を向けるといいと言います。

    「キャンプ場の周辺でクマによるゴミ荒らしなどが起きていないか調べてみましょう。地域の役所に問い合わせて、クマの動向を聞きたいと訊ねれば、担当者に繋いでくれるはずです。それでもまだ不安が残るようなら、キャンプ場や予定の変更もやむを得ないでしょう。クマに出会わないことが大切です」。

    7.ソロキャンパーにはクマ鈴もおすすめ

    最近流行りのソロキャンプ。人気のない場所で静かにキャンプを楽しむ方も多いはずです。ソロキャンパーは、さらに注意が必要と玉谷さんは言います。

    「ひとりで黙々と作業していると、クマがこちらの存在に気付かずに近づいて来る可能性があります。クマ鈴などを使い、音を鳴らして人間の存在を知らせましょう。ほかに、これはキャンパー全般に言えることですが、テントは動物の通り道や、クマが身を潜めることのできるヤブから、できるだけ離れた場所に張った方が安全です」。

    巷でよく聞く、クマスプレーの効果についても聞きました。

    「クマスプレーは、こちらに向かってくるクマに対して効果があります。ただし、威力はあるものの、いざというときに使えないと意味がありません。そのため、クマと出会いそうなときは、すぐに発射できるようにしておきます。クマスプレーを使いこなすには、まず、クマとの遭遇を具体的に想定することが必要です」。

    使用方法は簡単ですが、実際にはテクニックよりも心構えが大切な道具なのですね。

    クマとの共存をめざして

    学習放獣をしている様子。電波発信器を装着したクマを森に戻し、人やベアドッグの大声、ゴム弾などで威嚇しながら放獣することで「人や犬に近づくと怖い」とクマに覚えさせている

    キャンプ場を利用する私たちも、山の中で暮らすクマたちも、同じ自然を利用しているという点で、密接に繋がっています。お互いが良好な関係を保つために、最後にクマとの共存について考えを聞きました。

    「クマは私たちと同じく体温を持ち、山のルールにしたがって生きている隣人です。彼らの危険な側面を引き出さないために、繰り返しになりますが、クマに食料や残飯、ゴミを触れさせてはいけません。自分も対策の一端を担っているという当事者意識を持ち、ほころびをつくらないように努めましょう」。

    これからのクマ対策は、「出会ったらどうしよう」から、「出会わないためにできることを徹底して行なう」に、考えをシフトする必要があるようです。教えてもらった対策を実践して、愛すべき隣人と共存しながら、これからも安全にキャンプを楽しみましょう!

    教えてくれた人

    玉谷宏夫さん
    1973年生まれ。大学院の頃からツキノワグマの調査を始め、2003年ピッキオに入社。クマには開けられないゴミ箱の導入に関わり、長野県軽井沢町のクマ対策の初期段階を担ってきた。

    特定非営利活動法人ピッキオ
    長野県軽井沢町で1998年よりクマ保護管理に取り組み、クマの生態調査や対策に着手。クマの匂いを察知する特別な訓練を受け、大きな声でクマを傷つけることなく追い払うことができるベアドックを、2004年に日本で初めて導入した。
    https://npo.picchio.jp/

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