首都リスボンからも行きやすい世界遺産の街、シントラには魅力的な宮殿やトレイルがたくさんあります。これまでもいくつか紹介してきましたが、今回は、自然と同化する神秘的な「カプーショス修道院(Convento dos Capuchos)」を紹介します!
「神の造形」を活かした16世紀の修道院

1560年に建造されたカプーショス修道院は、フランシスコ会系の修道士たちが暮らし、修行した場所です。「世俗から離れ、物質的な快楽を捨てることによって精神的完成を求める」という修道士たちの姿勢を反映した簡素な建築物で、以前こちらで紹介した豪華なペーナ宮殿やモンセラート宮殿とは対照的です。

これらの有名な宮殿では、自然が作り手のロマン主義的な美意識に沿って演出されているのに対し、カプーショス修道院では、そこにある自然をそのまま「神の造形」として捉え、人間の方が自然に従う形で建造されています。
例えば、自生する植物はもちろん、花崗岩の岩塊が取り除かれず、建物の一部になっていることにもその思想が現れています。

チケット売り場を過ぎて修道院へと向かっていくと、入り口への階段が大きな岩の裏に隠れていたり、噴水の庭へとつながるゲートが巨岩でできていたりと、最初から発見の喜びと驚きが続き、冒険心がチリチリとくすぐられます!

ゲートをくぐれば、何百年も前から修道士に来場を告げるために使われてきた岩の上のベルを鳴らすことができます!

教会から台所、バスルームまで、あちこちで巨岩が存在感を放っています。その合間を縫うように走る狭い通路、細い階段、小さなドアをくぐって修道士の寝室やチャペルを訪れるのは、なんだか秘密基地を巡るような楽しみがあります。

また、この修道院でもうひとつユニークなところは、ポルトガルの名産品でもあるコルク。天井、壁、窓、また椅子の上のクッションなど、修道院内のあちこちにコルク樹皮が使われていることから、「コルク修道院」とも呼ばれていたそうです。

ポルトガルが誇るコルクには、保温、防音、緩衝材などさまざまな特性があります。例えば、コルクで囲まれた会議室では小さな声で話してもよく聞こえたそうです。また、コルク樹皮で覆われたベンチは、直接石に座るのに比べて、柔らかくて温かく、かなり快適でした。
原生林と祈りのための空間

建物を取り囲む森は、ここで暮らしていた修道士たちによって手つかずの状態で守られてきました。現在では、シントラに残る原生林の姿を伝える最も貴重な例のひとつなんだそうです。

この原生林には、古いオーク類(carvalhos)、コルクガシ(sobreiros)、セイヨウヒイラギ(azevinho)、ツゲ(buxos)、イチゴノキ(medronheiros)、クリ(castanheiros)、ハシバミ(aveleiras)をはじめ、数多くの在来植物が残っているそうです。

回廊に囲まれた中庭から階段を上り、「シントラの原生林の面影を今に伝える森」へと入ることができます。

私が訪れた9月後半は、たくさんの栗やどんぐりが落ちていました。

苔むした岩の階段を歩いていくと、「エッケ・ホモの庵(Ermida do Ecce Homo)」、「磔刑の主の庵(Ermida do Senhor Crucificado)」、「フレイ・オノリオの岩窟(Cova do Frei Honório)」など、修道士たちが祈りを捧げた空間が現れます。

なかでも注目したいのが、「磔刑の主の庵(Ermida do Senhor Crucificado)」。この庵を構成する巨岩が実は展望台になっているのです!

オーディオガイドで「瞑想にぴったりの岩の上の展望台を訪ねてみて」と案内があるものの、原生林の中に看板は出ていません。けれども、巨岩をよく見ると、先人が上ったと分かる、手や足をかけるくぼみがありました。
「馬鹿と煙はなんとやら」なんていうことわざもありますが、絶景が待っているかもしれないと思うと、登らずにはいられません……!

独り、巨岩にへばりつくように上っていくと、一気に視界が開けて、原生林の先に海まで見渡せるのです!風も気持ちがいいです。

しばし、静かに修道士たちに想いを馳せました。

原生林から戻ったあとは、この場所で発掘されたアイテムを展示する資料館や今もコミュニティが野菜を育てている菜園をのぞいて帰路につきました。
当時の面影を残しつつ、今もひっそりと原生林の奥に佇む修道院。シントラでぜひ訪れてほしい穴場です!




