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初めての苗は日本で見ない「ルンゴ」と「ズッカ」
サントリーの苗ブランド「本気野菜」が発売されたのは2008年のこと。販売元は正確にはサントリーではなく、2002年に設立されたサントリーフラワーズ株式会社です。現在およそ70品種もの野菜の苗を販売し、同ブランドの野菜も販売しています。サントリーの苗、サントリーの野菜。みなさん、ご存知でした?
「本気野菜」ブランド発起人で現在サントリーフラワーズ執行役員の阿部寛さんに、サントリーが野菜の苗づくりを始めた発端から伺いました。
阿部寛さん:サントリーは元々ウイスキーやビール、ワインなどのお酒を礎業としていますので、その原料である麦やブドウなどの植物の基礎研究を行なっていました。その研究チームが花の研究もしてみたいと言い出したのが始まりです。いわば植物研究からのスピンアウトです。1980年代のことです。

——はじまりは花の研究。そういえば、サントリーの「青いバラ」は1995年に開発されていますね。
阿部さん:そうですね。ただ、サントリーグループはお酒と食品の会社です。花は鑑賞するもので食べるものではないので、やはり食べておいしいもの、感動できるものを追求したいという気持ちがありました。そこで野菜の研究が始まったのです。
2008年に発売した「本気野菜」の初めの苗は「ルンゴ」という細長いトマトです。当時は日本のマーケットにほとんど流通していない、イタリア産の缶詰でしか見ないようなトマトでした。

——他の苗会社が扱っていない野菜だったんですね。
阿部さん そうですね。サントリーグループとして、単においしいだけでなく、調理して楽しい、食生活を豊かにする野菜であることを意識しました。
もうひとつの苗が「ズッカ」です。カボチャのような形をして、ゼリー状の部分がほとんどないトマトです。モッツァレラチーズとバジル、オリーブオイルで食べるイタリアのカプレーゼ(サラダ)に欠かせないトマトです。

——変わった形ですね。自分で栽培しようとは思わない……こんな変わったトマトを育てられるとは思えません。
阿部さん:はい、だからこそ家庭菜園で作っていただきたいと思いました。野菜にはその土地の気候風土や文化が表われます。それを栽培し、調理することで、これまで知らなかったおいしさや食感を味わい、その土地のことをちょっと知ることができます。家庭菜園を通して新しい食体験を届けたいというのが「本気野菜」の根っこにあります。
——やはり既存の種苗会社とは目の付けどころが違います。お酒と食品の会社サントリーならではの視点で品種選びがされていることがよくわかりました。
水のやり過ぎ、肥料のやり過ぎにも耐える苗
筆者も現在、自宅の猫の額のような庭で「本気野菜」のミニトマトやキュウリを栽培中です。ホームセンターの苗売り場で、「病気に強い」「疫病に強い」「丈夫で多収!」などと書かれた「本気野菜」のPOPに吸い寄せられるようにして購入しました。
——家庭菜園は農家の畑と違い、栽培する環境がバラバラです。土質や日照時間もマチマチなら、栽培する人の手のかけ方もマチマチです。それでも「丈夫」、それでも「多収」なのはなぜでしょうか。
阿部さん:そこはとても重要なポイントで、私たちも「しっかり収穫できる」ことを目指して品種の選出試験(スクリーニング)を行なっています。日本の夏はヨーロッパより高温多湿ですし梅雨もあります。これらに耐えられて、かつ他にはないユニークなおいしさが失われていないかを評価しています。
たとえば「ルンゴ」や「ズッカ」はヨーロッパで食べられているトマトを商品化したものですが、当時30種類くらいをスクリーニングして、日本でも丈夫に育って収穫に至るかどうかの試験を入念に行なって選びました。
——「本気野菜」は“育てやすさ”もアピールされています。どんな点で育てやすいのでしょうか?
阿部さん:家庭菜園は、ともすれば水のやり過ぎ、肥料のやり過ぎになりがちです。ついつい多めにあげてしまうのですね。しかし、肥料のやり過ぎはトラブルの原因にもなります。たとえば、トマトやキュウリで花は咲くけれど実がならないとか、はじめのうちは実がなるけれど中盤からパタッとならなくなる、といった現象が起こります。
そこで肥料が多すぎる環境でも育つかどうか、家庭菜園特有のトラブルを乗り越えられるかどうかの試験も行なっています。家庭菜園で起こりがちな環境条件を考慮した評価を加えることで、一般の家庭菜園でも長く愛用いただける品種が育っています。
——やはり実がたくさんなるってうれしいです。
阿部さん:家庭菜園の喜びはそこですよね。「ルンゴ」や「ズッカ」のようなユニークな品種を商品化するのも私たちの役割ですが、メインユーザーから一番求められることは、安定して確実に収穫が得られることです。
その点を重視して開発したキュウリの「本気野菜 強健豊作」という品種は、一株で何十本も収穫できます。中には70本収穫できたという方もいらっしゃいます。毎年のベストセラーです。

おいしさへの飽くなき探究心を家庭菜園にも
サントリーフラワーズの花や野菜の商品開発や試験は、滋賀県東近江市にあるイノベーションフィールドで行なわれています。

——苗はどこで生産されているのですか?
阿部さん:生産地は北海道から沖縄の、各地の農家さんたちに委託生産という形で生産していただいています。
苗は生き物ですから、できるだけ輸送に時間をかけたくありません。気温差の大きさも要注意で、たとえば、まだ寒さが残る4月の北海道に、南で育てた苗を持って行ってもしおれてしまいます。そのため、園芸店やホームセンターの近くで生産して販売する、域内生産、域内消費が基本です。
——サントリーのお酒づくりの、たとえば発酵技術や醸造技術などが花や野菜の研究に活かされることはありますか?
阿部さん:お酒づくりの技術が直接連動することはないのですが、おいしいものをお届けしたいという理念は通底しています。食べることへの楽しさ、尽きないワンダー、食への探究心はお酒のチームも我々のチームも同じように大事にしているものです。
また、サントリーは「水と生きる」をグループのテーマに掲げています。お酒にしても食品にしても水や植物の力なしではつくれませんので、自然に対するリスペクトが大前提にあります。「本気野菜」もその一翼を担えているかなと思います。
——家庭菜園にも新しいワンダーが生まれそうです。ありがとうございました!
サントリーというと、ビールやウイスキーなどのお酒がまず頭に浮かびますが、同じ食卓にビールと「本気野菜」のトマトやキュウリで作ったつまみを並べることも可能です。お酒とつまみのメーカーがおそろいなんてオシャレじゃないでしょうか。
さて、「本気野菜」の本気がわかりました。私も、自宅の猫の額で栽培中の「本気野菜」を本気で育てて食べてみたいと思います。




