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WIND from ONTARIO~森の海、水の島~ #23 言祝ぎの朝
by Tomoki Onishi
撮影・文/尾西知樹
トロント在住のフォトグラファー、マルチメディア・クリエイター、カヌーイストでサウナー。オンタリオ・ハイランド観光局、Ontario Outdoor Adventuresのクリエイティブ・ディレクターを務める。カナダの大自然の中での体験とクリエイティブを融合させたユニット magichours.caを主宰。

アルゴンキン州立公園の早朝、原野の中のロッジから出ると、眼前に天空の世界のような神々しい光景が広がっていた。天空の雲の中に迷い込んだような錯覚。地上の雲海……。
眩い太陽光に照らされた湖面に、帯状の濃い朝靄が漂う。春先や秋の初め、よく晴れた夜の放射冷却が生んだ朝のスペクタクル。無風の広大な湖に、まるで巨大な白龍が悠然と横たわっているかのような鏡面だ。湖に龍が棲むという言い伝えは、きっとこんな事象から生まれたのかもと思い至って、感じ入る。白い龍の体は、太陽の光に照らされて、刻一刻と変化し蠢く。
とても自然に感謝の念が心に浮かぶひととき。特定の時期と条件が重なったときにだけ訪れる、目を疑うような異景との出会い。それもまた一期一会。思いがけない祝祭的なギフトを地球からもらった気分の言祝ぎの朝だ。朝から静かにテンションが爆上がり、凛と澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込んだら、多幸感に包まれた。
素敵な日のはじまりの予感、もしくは既に完成された日……。
雨を連れてきた重い低気圧が強風と共に過ぎ去り、これまでが嘘だったかのような透明な空気が奇跡的なグラデーションでトワイライトを彩る。朝には光の中に白龍が姿を現わす。この惑星は、ひどくゴージャスだ!

まるで雲を泳ぐ船。レイクトラウトの棲む湖、朝まずめに最高の出会いはあったのか……。

幻想的なひととき。風はなく、靄が太陽に照らされて立ち昇る祝祭の日がはじまる気配。

(BE-PAL 2026年5月号より)




