今回は東京都台東区にある上野恩賜公園の近辺をめぐる「裏上野公園GREEN WAY」です。
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34th ルート:裏上野公園GREEN WAY
●前回はこちら
今回のターミナス(=トレイルの起点や終点となるアクセスポイント)は、前回歩き終えた不忍池の近くの東京メトロ千代田線の根津駅。今回は、ここから上野恩賜公園の周辺をめぐる「裏上野公園GREEN WAY」です。
早速、根津駅から再び不忍池のそばまで歩きます。池の対岸には前回訪れた辨天堂、そして東京スカイツリーが望めます。不忍池周辺には高い建物がほぼないので、とても抜けの良い空が広がっています。ぱっと目を向けたときに気持ちいい光景が広がっていると、妙に得した気分になります。

道を挟んだ池の反対側に振り向くと、なんとも僕好みの渋い建物が目に留まりました。近くまで行くと、横山大観記念館であることが判明。この建物は、もともと横山大観の旧宅だったそうです。
実はこの前を何度も通っているのですが、池の方ばかりに目を向けていて、記念館の存在に全く気づきませんでした。「人は見たいものしか見ない」といわれるのは本当だなと実感しつつ、もっとキョロキョロしようと気持ちを新たにするのでした。

ここでいったん上野恩賜公園に背を向け、坂道を進みます。すぐにレンガと石垣を組み合わせた立派な壁が見えてきました。ここが次の目的地の旧岩崎庭園なのですが、入り口はもう少し先のようです。そこで、ひとまず壁沿いの坂を登っていきます。
無縁坂
坂を進んでいくと、案内板がありました。この坂は「無縁坂」といい、森鴎外の小説「雁」の舞台にもなった場所だそうです。調べると、さだまさしさんの曲や里中満智子さんの漫画にも「無縁坂」という作品があることが分かりました。

ごく普通の緩やかな坂道だと思って登っていましたが、何だかありがたい場所のように感じられてきました。ちなみに坂の名前は、近くにある無縁寺(現・講安寺)から付けられたそうです。

無縁坂から旧岩崎邸庭園を回り込むように道を進んでいくと、気品ある建物が見えてきました。三菱経済研究所付属三菱史料館です。
三菱経済研究所付属三菱史料館
岩崎彌太郎からはじまる岩崎家や三菱の史料を保存・公開している施設です。三菱の歴史が時代背景も含めて解説されているので、広く日本の近現代史を学ぶことができます。
立派な建物なのでつい腰が引けそうになりますが、無料で見学できます。こんなタメになる場所に行き当たるのも、散策の楽しさのひとつですね。

三菱資料館の前の道をそのまま進んでいくと春日通りに当たり、道を渡った先に湯島天神があります。姪の合格祈願でささっと立ち寄り、春日通りに戻って旧岩崎邸庭園の入り口に向かいます。
旧岩崎邸庭園
1896年(明治29年)に、岩崎彌太郎の長男で三菱第3代社長でもある久彌の本邸として建てられた旧岩崎邸。往時は約1万5,000坪の敷地に20棟の建物が並んでいたそうですが、現存しているのは洋館・撞球室・和館大広間の3棟のみ。洋館と撞球室は、鹿鳴館なども手掛けたイギリス人建築家のジョサイア・コンドルの設計だそうです。
建物内も見学できますが、細かな意匠も凝っていて見どころがたくさんあります。建築に詳しくないので「映画のセットみたい」というベタな感想が浮かんでしまいましたが、素晴らしい場所であることは確かです。あと、この連載は建築探訪ではなくGREEN WAY散策なので記しておくと、庭園で春夏秋冬の植物に親しむこともできます。

旧岩崎邸庭園は不忍池のすぐ近くにあります。ということで、上野恩賜公園の園内に進み、不忍池のほとりを歩いていきます。前回も通った辨天堂の参道入り口の近くに変わった形の碑がありました。「駅伝の碑」と記されています。
駅伝の碑
1917年(大正6年)に、日本初の駅伝が京都〜東京間の東海道で行われました。そのゴールが不忍池で、記念につくられたのがこの「駅伝の碑」だそうです。ちなみに、その駅伝のスタート地点である京都の三条大橋のたもとにも、同様の記念碑があるとか。変わった形だと思ったのですが、たすきがモチーフになっているのかもしれません。

駅伝の記念碑のすぐ近くには、清水観音堂があります。
清水観音堂・月の松
寛永8年(1631年)、京都の清水寺に倣って建立された清水観音堂。不忍池の眺望を楽しめる舞台があり、江戸時代から名所として親しまれていました。
また、前回も触れたように歌川広重は不忍池をいくつもの作品で描いています。このうち、「名所江戸百景」において「上野清水堂不忍ノ池」と「上野山内月のまつ」という作品で描かれた松があります。それが、清水観音堂の境内にあった「月の松」です。

出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-10569-7379?locale=ja) 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
月の松とは、江戸時代の植木職人が松の枝を月に見立ててつくったといわれるもの。オリジナルは明治初期に台風の被害にあってしまいましたが、現在は復元された月の松を目にすることができます。
松の枝が満月のように丸く造形されているのですが、個人的にこの月の松を目にすると妙にテンションが上ります。再現とはいえ、歌川広重も同じものを見ていたと思うと、何だかありがたい気持ちになるのです。

月の松に高揚し、清水観音堂のすぐそばにある有名な西郷隆盛の銅像の前で足を止めることなく、そのままJR上野駅に向かいました。今回の「裏上野公園GREEN WAY」は、これでフィニッシュです。
そう思ったのですが、原稿を書くにあたっていちおう西郷隆盛像について調べてみました。この像は有志の寄付金によって制作され、西郷隆盛の没後20年以上経った1898年(明治31年)に除幕式が行われました。
銅像の制作は、彫刻家の高村光雲です。そして、西郷隆盛が連れている犬は高村光雲の弟子、後藤貞行が手掛けたのだとか。後藤は馬など動物の彫刻に定評があったといいます。それにしても、西郷隆盛と犬が別々に制作されていたなんて知りませんでした。

前回も書きましたが、僕は山形に暮らしていて、上京した際はよく上野近辺に宿を取ります。なので、不忍池の周辺は何度も足を運んでいます。でも、慌ただしく移動することも多いし、(繰り返しますが)見たいものしか見ていません。
今回あらためてじっくり丁寧に歩いてみて、いろいろ発見がありました。すでに分かった気になっていた西郷さんの銅像のことも、新たに知ることができましたし。
知ったかぶりをせず、なじみ深い道も初めて通るように新鮮な気持ちで歩くと、思いがけない発見や意外な楽しさにめぐり合えるのかもしれません。そんな散歩の基本であり醍醐味を感じるGREEN WAYでした。
■今回歩いたルートのデータ
|距離約3.0km
|累積標高差約21m
今回のコースを歩いた様子は動画でもご覧いただけます。
●裏上野公園GREEN-WAY
●東京GREEN WAY FILE.33 to 34






