期せずして、ヴィンテージ。

2020.05.07 (閲覧数) 873

 昨年の夏、もうすぐ8歳になろうとしていた娘がついに「キャンプに行ってみたい」と言い出した。いよいよ来たか。愛する娘の要求に私の身は引き締まる。

 貧乏学生の時分から毎年、夏休みになると私はモーターサイクルの後部に大きな荷物をくくり付け、ひとり北海道をキャンプ・ツーリングして周ったものだった。
 先輩に譲ってもらった中古の2人用テントはしかしながら、振動や横風に連日耐えた体を癒すには十分すぎるスウィート・ホームであり、勝手気ままな滞在を可能とするまさに夢の移動式住居であった。
 フライシートを叩く雨音に覚めてもまた眠りに誘われるだけの安心感。通りがかりの野営場にやにわに落ち着き、幅広の天の川をいつまでも眺めたものだ。

 結婚してほどなく、一度だけ妻とキャンプしたことがある。ソロの自由度や、存分に孤独に浸るあの形容しがたい感傷の流れを失った反面、パートナーと過ごす幸せを私は得た。新婚夫婦にもまた、お古の2人用テントが狭すぎるということはなかったのだ。

 だが寝相の良いとはいえない小学二年生が加わるとなれば、そうはいかない。私にとっても実に10年ぶりのキャンプである。
 これを聞きつけた義父が連絡をよこしてきた。曰く「昔張り切って購入し、一度も使わなかったテントが物置にあったから孫のために出してきたぞ」である。
 妻には2人の弟があるが、どうもそれらの反抗期が始まったちょうどその境目に入手したようで、実に30年もの間、未使用で眠っていたいわばニュー・オールド・ストックの代物だったのだ。

 子どもの反抗期が理由とは実に切ない。いつか他人事ではなくなるのであろう。しかも先立つものに乏しい我が家、愛する娘の期待に応えるにはすがるほかない。
 かくして、ママじいじに礼を述べ譲り受けた旧式テントを携え、我が家は初めてのファミリー・キャンプに出掛けた。

 天気に恵まれ、選んだキャンプ場も、与えられたサイトも文句なし。
 太く重たい鉄製の骨組みをがしゃんがしゃんと運び出し、劣化した樹脂製のペグをハンマーで叩くとバナナのように反ったりしたが、追加で持ち込んだポールとロープの工夫も上々でついに我が家の、まさに夢の別荘は完成した。

 コーヒーをすすり、落ち着いてあたりを見渡すとしかしながら・・・・・・。
 うちだけ異様に、青い。自然に敬意を払おうという意思がみじんも感じられないではないか!

 こうして娘にとっての初キャンプは期せずして、ヴィンテージなテントでこだわりをみせるマニアック・キャンパー一家の様相を無駄に呈しつつ、大成功のうちに幕を閉じたのであった。

 娘よ、今年も行こうね。せめて反抗期が訪れるその日まで。

独身時代の北海道ツーリングの一幕。
テントさえ積んであれば、何も怖くなかった。

妻と二人でのキャンプ。
テントはソロの頃と同じだが、愛があれば狭くはない。なんちって。

娘と初めてのファミリー・キャンプでついにテントが変わるも、なぜか昭和50年代のギアに逆行する。

浪マ楽団長さん

幼少期は父に連れられ、物心ついてからはモーターサイクルでソロ、結婚し子どもを授かってからはファミリーで。キャンプとは縁の切れない人生、悪くありませんよね。

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