【写真家・丹葉暁弥さんに聞く:後編】 極北の自然の中で生きるシロクマたちの素顔と、彼らの未来について | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル - Part 2
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  • 【写真家・丹葉暁弥さんに聞く:後編】 極北の自然の中で生きるシロクマたちの素顔と、彼らの未来について

    2016.02.10

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    ――うっかり町の中まで入ってきちゃったシロクマは、どうされるんですか?

    丹葉:人間に捕まると、お仕置きをされるんですよ。空港の近くにジェイル(牢屋)と呼ばれる収納施設があって、麻酔を打って眠らせたシロクマをその施設内の狭い部屋に数週間閉じ込め、ストレスを与えることで「人間に近づくと嫌な目にあう」と覚えこませます。それからヘリコプターで吊り下げて、2、30キロ離れた場所まで連れていって、解放します。頻繁にヘリコプターで運んでいるとコストもすごくかかるので、なるべく海が凍るギリギリまでジェイルに入れておいて、凍ったらすぐ海の近くまで運んで放すという工夫もしています。でも、最近は確信犯というか、毎年のように捕まるやつもいるんですよね。シロクマは頭がいいので、人間には結局何もされないとわかっちゃうんですよ。

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    ――人間との共存という面でも、いろいろ課題があるんですね。最近では、地球温暖化などの影響もかなり深刻だと聞いていますが……。

    丹葉:実際に、海の凍る時期が遅くなって、溶ける時期が早くなっています。冬の間に氷の張っている時期が1週間短くなると、シロクマ1頭の体重に約10キロもの差が出ると言われています。仮に1カ月短くなると、相当な影響が出ますね。数年前、チャーチルよりももっと北にあるイヌイットの村を訪れた時にみんなから聞いたのは、「シロクマの身体が小さくなっていると感じる」という話でした。シロクマのお母さんはだいたい3年に一度くらい、2、3頭の子供を産むんですが、彼らが子グマを育てられる確率は今、50パーセントくらいなんです。お母さんに栄養が行き渡らず、子グマにも食べさせられないから、2頭産んでも1頭しか育てられないような状態です。お母さんの身体が小さくなっているので、最初から1頭しか産まない場合も多いんです。

    ――丹葉さん自身の目からも、シロクマたちの置かれている状況に変化は感じますか?

    丹葉:以前は、海が凍る寸前にシロクマが一番チャーチル近辺に集まってくる時期だと、のべ頭数で4、50頭見ることのできた年もありました。今はだいぶ減ってきていますね。実際に見ていて明らかにわかります。自分がチャーチルに来るよりもっと前に、ナショナル・ジオグラフィックが撮影した映像には、本当に信じられないくらい、「こんなにいたんだ?!」と驚くほどの数のシロクマが映っていました。自分が知っている同じ場所で一番多い時でも、その映像に映っていた数の5分の1くらい。逆に言えば、それだけ急激にシロクマの数が減ってきているということですね、間違いなく。

    ――そうしてチャーチル周辺でシロクマをずっと見続けてきた丹葉さんだからこそ、理解できること、伝えられることがあるのかな、と思いますが。

    丹葉:そうですね。伝える義務が僕にはあるのかなと最近思っています。自分の目でこれだけ見てきて、彼らがそういう段階にさしかかって数が減っているのを間近で感じていると、これは伝えないといけない、それが自分の使命なのかなと思うことはあります。そのことだけを意識して、あそこに行っているわけではないんですけど。

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    ――チャーチルのあたりにいるシロクマたちに対して、何か特別な思いを抱いている部分もあるんでしょうね。

    丹葉:以前、別の場所でシロクマたちを見た時、それほど親近感は湧かなかったんです。でも、チャーチルのあたりにいる連中には、どこかで会ったことのあるやつかな、という親近感が自分の中で勝手にあるんですよ。自分の仲間みたいな。

    ――「どうしてそんなにシロクマにこだわるんですか?」と聞かれたりしませんか?

    丹葉:よく聞かれますね。聞かれるたび、どう答えるべきかずっと考えていました。でもある時、何気なく「好きだからです」と答えたら、自分の中で腑に落ちて、そんなに考える必要はないんじゃないかな、と。それが自分にとって当たり前だからというか、特別な理由はないんですよね。音楽鑑賞が趣味の人に「どうして音楽が好きなんですか?」と聞いたら困るみたいなもので。周囲からはシロクマ大好き人間だと思われているみたいなんですけど、別に、そこまでマニアックにこだわっているわけではないです。自然にシロクマが好きだからいろんな情報や知識を得たいだけなのと、自分自身の目で見た感覚が一番確かだと思っているからなので。

    ――最後に、写真家として、いつか撮ってみたいと思っているシロクマの写真はどんなものですか?

    丹葉:自分は「こういう写真を撮りたい」とあらかじめ狙って撮ることはほとんどしないんですけど、頭の中には「いつか、こういう写真が撮れたらいいなあ」というイメージはいくつかあります。いつか撮りたいのは、オーロラの下にいるシロクマですね。

    ――もしそんな写真が撮れたら、本当に言葉を失いますよね……。いつの日か、その写真を拝見できるのを願っています。どうもありがとうございました!

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    丹葉暁弥 Akiya Tamba
    北海道釧路市出身。自然写真家、シロクマ写真の第一人者。幼少の頃から釧路湿原の大自然の中で、風景や野生動物を撮影していた。1995年、どうしても野生のペンギンに逢いたくて南極へ渡航。以後、1998年にカナダ北部で野生のシロクマに逢って以来、その魅力に取り憑かれて、ほぼ毎年彼らに逢いに通いはじめる。自然保護活動をしながら、地球や動物たちの未来について、メディアや雑誌などへの寄稿や、全国で講演などを行っている。
    『HUG! friends』『HUG! earth』『HUG! today』(小学館)
    Facebook https://www.facebook.com/photographer.tamba/
    Blog http://akiya.blog.so-net.ne.jp/

    【写真家・丹葉暁弥さんに聞く:前編】

    聞き手:山本高樹 Takaki Yamamoto
    著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。2016年3月下旬に著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々』の増補新装版を雷鳥社より刊行予定。
    http://ymtk.jp/ladakh/

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