サンゴ礁文化を育む、石垣島・白保と喜界島の取り組み
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    2020.06.30

    サンゴ礁文化を育む、石垣島・白保と喜界島の取り組み

    私が書きました!
    イラストエッセイスト
    松鳥むう
    離島とゲストハウスと滋賀県内の民俗行事をめぐる旅がライフワーク。訪れた日本の島は107島。今までに訪れたゲストハウスは100軒以上。その土地の日常のくらしに、ちょこっとお邪魔させてもらうコトが好き。著書に『島旅ひとりっぷ』(小学館)、『ちょこ旅沖縄+離島かいてーばん』『ちょこ旅小笠原&伊豆諸島かいてーばん』(スタンダーズ)、『ちょこ旅瀬戸内』(アスペクト)、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)、『あちこち島ごはん』(芳文社)、『おばあちゃんとわたし』(方丈社)、『島好き最後の聖地 トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)等。最新刊は初監修本『初めてのひとり旅』(エイ出版社)。http://muu-m.com/

    沖縄の古民家はサンゴづくし

    「この井戸を囲っている大きな石は、サンゴをくり抜いたものなんですよ」。白保の集落内を歩きながら教えてくれたのは元白保公民館長でNPO法人夏花の集落散策ガイドのひとりでもある多宇元さん。生まれも育ちも、ココ、石垣島は白保集落だ。白保集落は石垣空港を有するエリアだが、赤瓦屋根やサンゴの石垣、防風林の福木並木といった昔ながらの沖縄の景色が残る。海に面した集落でもあり、海の中は約130種類ものサンゴで溢れている。北半球最大級のアオサンゴ群集もあるという。

    「白保の集落はサンゴの恵みをたくさん受けているんです。家々を取り囲むサンゴの石垣はもちろん、赤瓦の屋根やシーサーの漆喰もサンゴからできているんですよ」

    ああ、そうか! 今まで何度も沖縄に来ていたのに「漆喰=石灰=サンゴ」だと改めて考えるコトをしていなかった自分に気づいた。

    「それだけじゃないんです。家の柱の礎石も庭に敷き詰められている砂利代わりの敷石もすべてサンゴ。昔から、サンゴと共に生きて来た証が"サンゴ礁文化"として根付いているんですよ」

    沖縄独特の大きな亀甲墓にも、サンゴが使われているモノもあるという。まさに、サンゴづくしだ。

    サンゴ礁文化を育む白保と喜界島

    「うちにも同じようなサンゴ礁文化があるんですよ」。そう声をかけてくれたのは喜界島から来島していた武田秀伸さん。聞けば、喜界島も白保と同じくアオサンゴが生きていて、他にも多くのサンゴが生息しているそうだ。そもそも、喜界島自体がサンゴ礁が隆起してできた島なのだ。同じサンゴ礁文化を育む島人として、また、喜界島でサンゴの石垣再生に関わる者として、白保のサンゴ保全活動を学ぶべく、数名で白保を訪れたのだと言う。

    喜界島には、白保と同じくサンゴの石垣が集落に連なる。また、大きなハマサンゴをくり抜いて芋を洗う器にした"フムラー"や、サンゴを御神体にした"ビンドゥン様"と呼ばれるモノまであるのだと言う。サンゴを祀るなんて、他ではあまり聞かない。それだけ、生活や祈りととても近いトコロにサンゴが存在するのだろう。けれど、時代とともに、家を囲むサンゴの石垣が崩れてしまったりと、喜界島ではサンゴが生活から遠のきつつあるという。

    そんな喜界島の人たちへ「自分たちの行動を見せるコトですよ!」と、多宇さんは言う。白保集落も、以前は同じような状況だった。けれど、有志が集まり、白保小学校の石垣再生をしたコトがきっかけで集落の人の意識が少しずつ変わって来たと言う。白保小学校は島のメイン大通り沿いにあり、目の前にはバス停もある。そのため、石垣再生の作業をしていると、子どもたちをはじめ、集落の皆が眺めて通っていくのだ。そして、キレイに再生された石垣を見ると連鎖反応が起りはじめた。各自が自宅を囲むサンゴの石垣を直しはじめたのだ。石垣を積むのは、ひとりでは難しい。そこで、ワークショップという形をとると、参加する集落の人が現れた。特に、近年、白保に増えている移住者が興味をもってくれたコトも大きい。

    多宇さんのアドバイスはさらに続く。「子どもたちを、巻き込んで取り組むコトも大切なんです」。白保の住人と移住者の数名で運営しているNPO法人夏花では、集落内の白保小中学生を対象に「サンゴ礁についてのレクチャー」「サンゴ礁でのシュノーケリング体験」「グリーンベルト植栽体験(畑から赤土が流出しないように畑まわりに月桃、糸芭蕉を植え付ける)」「インカチ漁体験(サンゴを用いた昔の漁法)」等を行っている。子どもたちがサンゴに関わるコトで、保護者である若い人たちも同時に興味をもってくれる。そうするコトで集落の人のサンゴへの意識が輪をかけて広がっていくのだ。武田さんと共に訪れた喜界町役場の富充弘さんと萩原和己さんも、うなずく。

    「子どもたちと共に行うコトは、やはり大切なんですね」「子どもたちがサンゴ礁文化を肌で感じるコトで地元に誇りを持つコトができたら、一度島を出てもUターンして来てくれるかもしれないですね」と。離島の過疎化の原因に、高校を卒業すると進学、就職で子どもたちが島から離れてしまい、そのまま帰って来ないコトがある。各地の離島が頭を悩ませる問題のひとつになっている。

    「集落を好きになってもらう人を多く作るコトです。好きにならない人は、それはそれで良いんです。とにかく、自分たちが動かないコトには、始まらない。大丈夫です! 集落を好きになってくれる人が必ず出て来ますから」。多宇さんの言葉にキラリと光る未来が見えた気がした。

    サンゴ礁文化を繋ぐ WWFジャパン

    (©WWF Japan)

    白保でサンゴ礁文化を守り伝えて行くコトをコツコツと丁寧に行われているのには、とても大きなパートナーの存在もあった。白保集落に2000年春にオープンした"WWFサンゴ礁保護研究センター しらほサンゴ村"だ。「サンゴ礁文化を顧みるコトで、サンゴの保全に目を向けてもらえたらと」そう語るのは、過去に 約3年間"しらほサンゴ村"のセンター長を務め、サンゴが好きで好きで仕方ないWWFジャパンの鈴木倫太郎さん。彼が、サンゴの魅力に取り憑かれたのも、学生時代に訪れたココ白保がきっかけなのだそう。初めて見た白保の海の中には様々な形のサンゴが溢れていた。人工物が一切なく自然の力だけでこの景色が造られているコトに"神業"かと、いたく感動しサンゴの世界にどっぷりハマってしまったのだそう。"しらほサンゴ村"は白保集落内の白保海岸沿いすぐの場所にある。赤瓦の古民家風の建物で、中にはサンゴと白保集落との関係が詳しく書(描)かれたパネル展示やサンゴや海の生き物に関する書籍などもたくさんある施設だ。

    "しらほサンゴ村"は、この数年間、地元の人々やNPO法人夏花と共に持続可能なサンゴの保全と地域づくりを行なって来た。これを同じサンゴ礁文化がある南西諸島(九州南端から台湾北東にかけての島嶼群)にも広げていけないかと考え、今回、喜界島の方々を白保へ案内するコトにしたのだという。

    「喜界島にもサンゴの石垣やサンゴの神様がいたりと、サンゴ礁文化が根付いています。でも、日常にあるのがあたり前過ぎて、サンゴ礁の島独特のモノだと知らない島人も多いんですよ。それに、昔よりも日常生活とサンゴとの関係が薄れて来ています。すると、サンゴに関心が向かなくなり、つまりは、サンゴの保全にも関心が向かなくなってしまうんです」と、鈴木さん。

    喜界島には"喜界島サンゴ礁科学研究所"もあり、2018年からはサンゴ礁文化を守り伝えて行くために"サンゴの島の暮らし発見プロジェクト"がスタートしている。白保と同じくサンゴの石垣の石積み再生をしたり、サンゴの石を使った喜界島独特の遊び"ティーツー"の体験なども行われている。昔は子どもの遊び道具としても活用されたサンゴ。なんて、万能な生き物なんだろう。

    石垣島と喜界島は直線距離にして約730kmも海を隔てている。それなのに、どちらも生活と共にサンゴがある。物理的距離はとても遠いのに、気持ちや感覚はなんだか近い。そして、今、サンゴを通じて2つのエリアの人と人との繋がりが生まれようとしている。

    暗く静かな白保集落の夜。一軒の赤瓦屋根の古民家にほんのり明かりが灯る。外からジャリジャリとサンゴの敷石を踏み締める音がして、一人、また一人と扉を開けて入って来る。部屋のテーブルには白保の食材をふんだんに使ったオードブルが並ぶ。アーサの天ぷらやアダンの炒め物等。石垣島でアダンを食べるのは、このあたりの地域だけだという。シャキシャキとタケノコのようで美味しい。
    「乾杯!」15人ほどの声が古民家に響く。泡盛と黒糖焼酎(※)をそれぞれに注いだグラスが重なり合う。お酒好きな点もそっくりな白保と喜界島の交流会。サンゴ礁文化、集落の今後の話に一層花が咲く。この2つのエリアの繋がりから、サンゴ礁文化を知る人が増え、定着していく仕組みができ、サンゴの海で今起こっているコトが伝わっていけば、サンゴにも人にも優しくキレイな海が、いつかまた帰って来ると、信じられるような気がするのだ。

    ※喜界島を含む奄美群島でのみ製造を認められている黒砂糖を原料とした焼酎。

    ・WWFサンゴ礁保護研究センター しらほサンゴ村
    https://www.wwf.or.jp/activities/activity/1635.html
    ・「喜界島」サンゴの島の暮らし発見プロジェクト
    https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4341.html

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