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  • 日本の旅

    2020.06.23

    月桃がサンゴを救う!?グリーンベルト大作戦とは

    私が書きました!
    イラストエッセイスト
    松鳥むう
    離島とゲストハウスと滋賀県内の民俗行事をめぐる旅がライフワーク。訪れた日本の島は107島。今までに訪れたゲストハウスは100軒以上。その土地の日常のくらしに、ちょこっとお邪魔させてもらうコトが好き。著書に『島旅ひとりっぷ』(小学館)、『ちょこ旅沖縄+離島かいてーばん』『ちょこ旅小笠原&伊豆諸島かいてーばん』(スタンダーズ)、『ちょこ旅瀬戸内』(アスペクト)、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)、『あちこち島ごはん』(芳文社)、『おばあちゃんとわたし』(方丈社)、『島好き最後の聖地 トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)等。最新刊は初監修本『初めてのひとり旅』(エイ出版社)。http://muu-m.com/

    (©WWF Japan)

    月桃がサンゴを救う!?

    "ムーチー"という沖縄の郷土菓子をご存知だろうか? こねた餅粉に黒糖で味付けし、月桃の葉に包んで蒸した餅菓子だ。月桃の香りが餅にほんのり移り、ちょっぴり苦味がある。

    月桃の葉には防腐防虫効果があり、沖縄では昔から料理に籠にお茶にと、様々なコトに用いられてれきた。その月桃が最近はサンゴまで助けているらしい……。その名も"グリーンベルト大作戦"! そんな作戦がコツコツと進められているのは沖縄県は石垣島の白保集落。石垣島の中心地から路線バスで約17分。人口1600人ほど。豊かな農地と海に恵まれた集落だ。白保の海には世界最大級とも言われるアオサンゴ群集をはじめ、約130種類ものサンゴが生息している。その周りには、多くの生き物たちも暮らしている。人間も、また、その一部。白保集落の人たちは昔からサンゴとともにあった。

    (©WWF Japan)

    その昔、農作業の合間にサンゴ礁を利用した"インカチ漁"と呼ばれる漁法で魚を獲り食料を得て来た歴史もある。"インカチ"とは白保方言で"海垣"を意味する。沿岸にサンゴを積み上げサンゴの石垣を作るのだ。そうすると、満潮時、沿岸にあるアーサ等の海藻を食べに来た魚が干潮になった際、インカチを超えられず沖に戻れなくなる。そのタイミングで捕獲するのだ。農作業の合間に魚もGETしてしまう。潮の干満を見つつ。なんと、効率的なのか! ちなみに、インカチ漁は、現在、集落内の小中学生が文化を学ぶための体験学習でのみ使われている。(※現在行われている白保漁師の漁法は、主にサンゴ礁の隙間で眠っている魚をつく"電灯潜り"だ。電灯を持って潜るのでその名が付いた。)

    また、白保の農地はサンゴが風化してできた土壌だ。サンゴの恵みは、海だけでなく陸にまで広がっている。サトウキビ、パイナップル、ナーベラー(へちま)やオクラにゴーヤ……。そんな島野菜たちが育つ白保の畑は"赤土"でできている。野菜作りは土作りからと言われるように、農家は長年かけて土を大切に育てる。ところが、その土がサンゴの海にとっては、ちょっとかなり困りものなのだ。強烈な台風が毎夏やってくる石垣島。雨により、畑の赤土は海へと流れ込んでしまう。サンゴに赤土がどんどん積もり、サンゴは次々と死に向かってしまうのだ。すると、サンゴ礁を生活の場としている生き物たちも、必然と住処を失ってしまう。

    そんな赤土の流出をなんとかすべく登場したのが、冒頭の"グリーンベルト大作戦"である。農地の周りに月桃や糸芭蕉を植えるコトで、それらの根がしっかりと土を押さえ、海への赤土流出が50〜60%も減るのだという。約半分も!

    ところが、新たな問題も……。農家の大切な農地の一部をグリーンベルト、つまり、月桃や糸芭蕉用に空けてもらわないといけない。その分、農作物を育てるスペースが減ってしまうのだ。けれども、せっかく育てた土が流れてしまうコトは農家にとっても大損失でもある。

    「農家さんには、アポイントを取って、一軒一軒に説明に行きます。農家さんの中には"グリーンベルトって何?"と言う人も、まだまだ多いんです。だから、サンゴの生態を話すよりも、サンゴが自分たちの生活にいかに関わっているかを伝えます。その方が、グリーンベルトの必要性をわかってもらえるんです」

    そう話すのは、元NPO法人夏花(現、石垣市赤土等流出防止営農対策地位協議会の農業環境コーディネーター)の池間大斗さん。農作物が不作の時でもアーサ(アオサ)等の海藻や魚介類等の食料を与えてくれる海を、白保の人々は昔から"宝の海""命つぎの海"と、呼んでいたのだそう。サンゴの海があるからこそ、助けられて来た。なくてはならない存在なのである。

    月桃も農地もムダにしない

    NPO法人夏花は、白保でサンゴの保全活動や赤土の堆積量調査等を行なっている。そして、もうひとつ。夏花の活動で大切なコトがある。月桃の加工品作りだ。もちろん、この月桃は集落内の農地に咲くグリーンベルト用の月桃だ。農家に植えてもらった月桃を夏花が買い取り、ルームスプレーや月桃茶に加工して販売しているのである。そうするコトで、月桃用に農地を提供してくれた農家に経済的にプラスになるようにと考えられている。月桃のルームスプレー「sarmin」は、ひと吹きすると、ちょっぴり青々とした香りが部屋に広がる。虫除けにも効くとか。

    月桃茶はスッとしたさわやかさで温めると甘みがある。葉は一枚一枚丁寧にチェックしながら手作業で洗うという。「なんて丁寧!」と、とあるお茶屋さんに驚かれたコトもあるそうだ。これら月桃商品の売上げは、NPO法人夏花の大事な活動資金にもなる。白保の月桃商品を買うコトで、赤土の流出を防ぎ、サンゴを守るお手伝いがたやすくできてしまうのだ。海に潜るコトが苦手でも遠くに住んでいても、なんら問題なく。主な購入方法は、集落内にある" WWFサンゴ礁保護研究センター しらほサンゴ村"で行われる"白保日曜市"、石垣市ふるさと納税の返礼品、NPO法人夏花の公式オンラインショップBASEでの販売の3つがある。

    サンゴは遠く離れていても助けられる

    「白保海岸のアーサを売って、子どもたちを育てた」
    アーサを採る白保のおばぁの言葉だ。御年93歳。小柄なおばぁの顔と手は長年の日焼けで濃いめの小麦色。シワのひとつひとつにアーサを採って来た年月が刻まれている。今でも浜に降り、アーサを手でコツコツと採っているのだという。「このおばぁのアーサは、ゴミもすべて手作業で綺麗に取り除いてあって、本当に美味しいのよ」と、集落の女性が教えてくれた。

    (©WWF Japan)

    アーサは白保海岸の浜にある。太陽の光が少ない曇りの日でも、鮮やかな黄緑色が眩しい。まるで、新緑の頃の森がまるごと海岸にやって来たかのようだ。そのアーサの下には、サンゴ礁の石灰岩が広がる。サンゴがあってのアーサ。そして、おばぁのようにアーサで生命を育てて来た人も多くいる。そのアーサを買って「おいしい♪」と食べる人がいる。

    サンゴのおかげでぐるぐると繋がって行くヒト、モノ、コト。その繋がりに、あなたもちょこっと混ざってみませんか? 白保の月桃茶を買って、自宅でゆったりと飲む。そのお茶の時間がサンゴを助けていると思うと、石垣島から遠く離れた地にいても、島を、サンゴ礁の海を近く感じるはずだから。

    ・WWFサンゴ礁保護研究センター しらほサンゴ村
    https://www.wwf.or.jp/activities/activity/1635.html
    ・「喜界島」サンゴの島の暮らし発見プロジェクト
    https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4341.html
    ・NPO法人夏花
    http://natsupana.com/
    ・NPO法人夏花 公式オンラインショップBASE
    https://natsupana.theshop.jp/

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