苔が鉱石になる!?群馬県にある国内最大級の「チャツボミゴケ」の群生地の謎を探る | 自然観察・昆虫 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

自然観察・昆虫

2026.07.15

苔が鉱石になる!?群馬県にある国内最大級の「チャツボミゴケ」の群生地の謎を探る

苔が鉱石になる!?群馬県にある国内最大級の「チャツボミゴケ」の群生地の謎を探る
梅雨真っ只中の今、アウトドア派としては憂鬱になりますよね。一方、恵みの雨は自然を大きく育んでくれます。それは苔も同じ。

皆さん、苔の一種、チャツボミゴケをご存知でしょうか?世界1万8千種の苔の中で最も耐酸性の強い物で、その国内最大級とも言われる群生地が群馬県中之条町のチャツボミゴケ公園です。この時期、苔の緑が鮮やかになります。

パワースポットとしても人気の神秘の地

熊に怯えながら林道をゆっくりジョギング

休日を利用してチャツボミゴケ公園に行ってみよう、とグーグルマップを検索。私の住む草津温泉から約11キロ、車なら約20分とすぐ近くなのですが、私は車を持っていないのです。なので公共交通を検索…出てこない!となると、ジョギングして行くしかない。デイパックを抱え家を出ました。

町の北東にある林道に入って行きます。車道ではなく、このルート行けば草津温泉から約8キロ。現れたのが熊注意の看板です。ご存知のように最近頻繁に熊が出没し被害が出ていますよね。草津町でも例外ではなく近隣で目撃例が出ています。そこで必須なのが熊鈴。外に出る時はいつも持ち歩いています。それでも遭遇の可能性はゼロではありません…気持ちを引き締めます。

森や林道には必ず“熊注意”の看板が。

しばらく行くと、今度は通行止めの表示。“ここ進んでも良いんだよね?グーグルマップでこっちになっているけど?”とちょっとビクビクしながら柵をまたぎます。

林道は現在車の行き来ができない状態。
車の往来がないため草が生え放題の道。

車が通らない道は緑が生い茂り、気持ち良い一方、雨風で吹き飛んだ木々で走りづらくもあります。緩やかに下っては少し上る感じで約4キロを進むと、やっと舗装された道に出てきました。民家も見えます。“人界に戻ってきた”という感じです。

ところが、この舗装道の坂道がキツイ!勾配10%以上にも感じられる道がずっと続くのです。走っているつもりでも、歩いているのと同じスピード。一歩一歩、踏みしめながら進みます。しんどいぞ!

森林浴をしながらのジョギングは楽しい。

そして、国道55号線に出てきました。平地で、走りやすいこと走りやすいこと。途中で写真を撮ったりしながら約1時間40分。ようやく目的地に到着しそうになった時、突然、道路脇の草むらから何かが飛び出て来ました。

「うわあああっ!」

驚きから我に帰ると、ヒョコヒョコ道を去って行く狸の姿。熊じゃなくて良かった~。

穴地獄の正体とは?

受付所の周りには休憩所やトイレなどの施設が。

山小屋風の受付所があり、入園料金800円を払います。売店もあり、そこに『中之条町で捕れた熊の爪』が売っていました。

中之条町で熊は身近な存在であることが分かる。

親切なスタッフの方の説明によると、受け付け所から1.3キロ上った先に駐車場があり、そこから歩いて300メートルの所に群生地があるということ。

「駐車場までシャトルバスが走っていると聞いたのですが?」

「車でいらっしゃたのではないんですか…歩いて?!もう、運行してないんですよ」と申し訳なさそうな返答。

“また上るのか…”とちょっと暗くなりながらも、気分を奮い立たせ、坂道を走り始めました。

駐車場がある群生地の入口には『ラムサール条約登録湿地』の看板が出ています。実は、この公園を含めた芳ヶ平湿地群はラムサール条約に登録されているのです。また国の天然記念物にも指定されています。

湿地の保存に関する国際条約であるラムサール条約に登録。

その横には『穴地獄(チャツボミゴケ群生地)まで300メートル』の看板。

あ、あ…穴地獄!

恐ろしい名前にも関わらず多くの観光客が訪れる。

何故、そんなおどろおどろしいネーミング?とお思いでしょう。理由はですね、同公園のある場所の歴史に関連しているのです。群生地に巨大な水たまりがあり、動物などが落ち込むとそのまま死んでしまうので、穴地獄と呼ばれていました。

その後、昭和18年に群馬鉄山として採掘を開始、穴は工事により無くなりましたが、今も昔の名称で呼び継がれているのです。群馬鉄山は昭和40年に鉱床の老朽化などの理由で廃坑、平成24年に中之条町に譲渡され、現在の公園へと生まれ変わりました。

苔が鉱石へと変貌!

入口から遊歩道を進みますと、左に川が見えます。この川に温泉が流れていまして、その酸性度はph2.8ほど。レモンやお酢と同程度です。ちなみに温度は23℃から28℃ほどとぬるめ。温泉を試してみたい所ですが、環境保護のため川への立ち入りは禁止されています。

川中にある岩盤のあちらこちらに、緑色のチャツボミゴケを見ることができます。現在は鮮やかな緑ですが、夏になると乾いて葉が茶色に。そこから茶色いツボミのような形状の苔、茶蕾苔という名前がついています。

かすかに硫黄のにおいが川から漂う。

で、先程の鉄山時代に採掘されていた鉄の原料。何と、チャツボミゴケなんです!この高い酸性度の地でチャツボミゴケが生え、それを微生物が水酸化鉄へと変化させ、その上にまた新しいチャツボミゴケが生えるというプロセスを1万年以上繰り返してきた結果、鉄鉱石が生成されるのです。今も川ではこの“バイオミネラリゼーション”が進んでいます。

苔が鉄鉱石に変貌するなんて驚きですよね。バイオミネラリゼーションの他の例として真珠やサンゴがあります。

この地で採掘されていた鉄鉱石。

パワースポットとしても有名!

遊歩道を進むこと約300メートル、視界が一気に広がり、お目当ての穴地獄が姿を見せました。先程の川(ちなみに温い湯、ヌルユ川という名前)の主要な源流になっていて楕円形をしています。そこを囲む形で木製の遊歩道が設置されています。

群生地の周りを囲む遊歩道。
レンゲツツジも目を楽しませてくれる。

岩に張り付いたチャツボミゴケは、まるで、自ら輝いているかのような鮮やかな緑。澄んだ水が流れるせせらぎ。背景を彩るブナやミズナラなどの木々のライトグリーン。私が訪れたのは6月初旬、オレンジ色のレンゲツツジがそれらに素晴らしいアクセントを加えています。

ずっと、ここにいたい…そんな気持ちにさせてくれる風景です。

蛍光色のようにも見える美しい色。

展望スポットで三脚を立てて、その絶景を撮影している70代見当の男性がいました。

「写真撮影には最高の場所ですね!」

「そうなんだよ。毎年来て撮ってるんだ」

田中さん(仮名)は千葉から遠征して、各地の自然風景を撮り歩いているとのことでした。

「ここは特別な場所の一つだね。美しいと同時に、何か神秘的な感じがするよ」

その通り、チャツボミゴケ公園はパワースポットとしても近年人気を呼んでいるのです!田中さん(仮名)も私も感じたように、癒しを与えてくれる場所だからです。強酸性の温泉に加え、冬は零下にもなる過酷な環境を生き抜くチャツボミゴケの力強い生命力もそんな気持ちにさせてくれる一因でしょう。

静けさの中に響くせせらぎの音も癒し。

紅葉の時期も見ごろ!

チャツボミゴケ公園を後にして、草津町へと国道を再びジョギングしていると、通り過ぎた車が数十メートル先で停まりました。

「お~い、乗っていくかい?」

先ほどの田中さん(仮名)です!ありがたく乗せて頂くことになりました。

「チャツボミゴケ公園は秋も良いんだよ。紅葉と苔の緑のコントラストが映えるんだ。冬の時期は雪が積もってまた良い光景になるらしいんだけど、11月から末から4月中旬までは閉園しているのが残念だね」

そんな風におしゃべりをしていると、あっという間に草津町市内へ到着。車だと本当にあっけない距離です。田中さん(仮名)に感謝を述べて別れを告げました。

世界的にも稀で美しいチャツボミゴケ群生地で癒され、新たなパワーが漲ってくる感じです。明日からまた仕事を頑張ろう!今度は秋に、チャツボミゴケ公園を来訪しようと思っています!

チャツボミゴケ公園
群馬県吾妻郡中之条町大字入山13-3
電話: 0279-95-5111
メール:info@chatsubomigoke.com
開園時間:午前9時 〜 午後4時(受付は午後3時まで)
入園料:大人(中学生以上)800円
開園期間:4月中旬 〜 11月末(※冬季は積雪のため閉園)
https://www.chatsubomigoke.com/

著者画像

梅本昌男さん

草津温泉在住ライター

JAL機内誌スカイワードなどに執筆。観光からビジネス、グルメ、エンタテインメントまで幅広く網羅。カナダ・タイ・エジプトなどでの約30年の海外生活を終え日本へ帰国。現在、群馬県草津温泉のホテルでフロントの仕事をしながら、休日にはインバウンド客のガイドをしている。著書「タイとビジネスをするための鉄則55 (アルク)」「極楽タイの暮らし方(山と渓谷社)」「猫とやせよう(双葉社)」。またモデルとしても活躍、グーグルやヤフーで“中年サラリーマン”や“中高年サラリーマン”と画像検索すると上位に出てくる。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員

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