なんだかね、5月にしてはやたら暑かった――そんな記憶をお持ちの方も多いのではないかと思うのです。地域によっては気温30度を超える真夏日が数日続いたところもありましたよね、うん。
しかし、がっ、しかーしっ。覚えていらっしゃるでしょうか。5月中旬から後半にかけて、ほんの数日だけね、いきなり「寒っ、なにこれ?」ってなるタイミングがあったことを。
僕はちょうどあの頃、あるイベント出演のため、熊本から島根へ自分の車で向かうことになっていました。そして、その「寒っ、なにこれ?」的な気候によって、素晴らしい波に巡り合うことができたのです。
今回は、その物語をお送りしたいと思います、はい。
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波の気配を感じた「肌寒さ」

旅に出かける前日からね、なんとなくですが、思いがけず訪れた「肌寒さ」のようなものを感じていました。そしてこれすなわち、
「寒さ → 北寄りの風 → 日本海の波が反応する」
僕の中では、こういう単純明快なロジックが発動してしまったわけです。
だいたいこの時期、ゴールデンウィークが明けたあたりから梅雨入りにかけて、日本列島は高気圧に覆われます。するとね、日本海側は、波的には途端に大人しくなるものなのです。風が南寄りになりますのでね。
しかし、セオリーから逸脱したその「肌寒さ」は、僕が車にサーフボードを積まないことを許さなかったのです。

一縷の望みをかけて、僕はウェットスーツを二組とサーフボード一本を積み込み、山陰地方へ向けてハンドルを握りました。福岡まで一気に北上し、中国地方に入ったあたりからね、それはもう、ほとんど確信に変わりました。
海に近づくほど、山沿いには小雨がぱらつき、空は落ち着きなくどこか荒れ模様。きっと日本海の沖合に低気圧が停滞しているか、あるいはゆっくり移動しているのだろう、と。だからこうして北風が吹いている――。
面白いですよね。長年海と向き合っているってだけで、気象予報士でもないのに、なんとなく感じる低気圧の存在。
今回は、ネットの波情報や天気図などをあえて見ずに、空や風、気温や雰囲気など、自分の視覚と肌感覚だけを頼りに波を探すことにしたのです。
ビジターサーファーのたしなみ
そこへ辿り着いたのは夕方ごろ。島根と山口の県境付近にある、比較的名の知られたサーフポイントでした。過去に数回訪れたことがありますが、日暮れ前ということもあり、この日はなんと誰もいません。
やはり予感は的中。僕の目の前には、見事な波がブレイクしていたのです。
しかしながら、若干ハードコンディションにも見えました。おそらく低気圧が近すぎるため、海からの風がまだ強く吹いているのでしょう。
低気圧が遠ざかりつつ、風は弱まり、うねりだけが届く――そんな理想的な条件は、きっと翌朝整うはず。
そう思い、その日は無理に海へ入らず、翌朝に備えることにしました。
次の日、僕の読みはほとんどピタリと当たったようです。

海からの風は随分と収まり、クリーンな海面に、力強いうねりだけが残されているではありませんか。昨日の夕方、無人だった海には、数名のサーファーの姿が見受けられます。
僕はね、はやる気持ちを抑えつつ、写真などを撮りながら、少しずつ準備を整えました。
しかし如何せん、ビジターですからね。あまり目立つ動きはご法度です。
そうなのです。波乗りにおいて最優先されるべきは、そのポイントの近くに暮らし、日常的にその海を見守ってこられた、いわゆる「ローカル」と呼ばれる人たちなのでね。
皆さんもぜひ、このことは改めて共有しておきましょう。
もちろん、ビギナー向けのサーフレッスンなどが行われている開かれたビーチでは、それほど気にする必要はないかもしれません。しかしやはり、地元の方々の存在は尊重されてしかるべきだと思います。
そんな方々のおかげで、僕ら旅人も安心してサーフィンさせてもらえるわけですからね。

行かなきゃならない理由がある「JAPAN SEA」
つい先日、新しいウェットスーツが自宅に届いていたので、そのチェックも兼ねてのサーフィンとなりました。
僕のサーフィンライフを、10年以上にわたって支えてくれているウェットスーツブランド、「QUIVER(クゥイーバー)」。今回はその新作フルスーツに身を包みました。
いやしかしね、これからサーフィンを始める方々、本当に羨ましいです。昨今のウェットスーツの進化は目覚ましいものがありますのでね。
昔に比べて保温性能は高く、それでいて素材は柔らかく、伸縮性も抜群。とにかく、脱いだり着たりが実に楽なのです。
昔はもうね、海上がりのあの爽快な気分を思い切り打ち砕かれるくらい、ウェットスーツを脱ぐという行為が一苦労だったのです、ほんと。
なんなら、ちょっと激しめの筋トレを数セットこなすくらいの負荷がありましたもの、実際。
それを考えるとね、QUIVERの新品ウェットスーツはやはり素晴らしかったです。着脱も軽やかですし、海の上での動きもまさしくストレスフリー。

そして今回、この裏起毛付きの冬用ウェットで海に入って正解でした。まだまだ5月の日本海の水温は低めでしたので。
余談ですが、僕は夏でも、なるべくウェットスーツを着るようにしています。
もちろん、トランクスだけで入る最高の開放感も承知していますし、そうすることもあります。しかし、リーフやサーフボードなど硬いものから身を守る意味でも、ウェットスーツは心強い。
それに日本の場合、どんなに水温が高くても、体温とは10度以上差があることがほとんどです。サーフィンタイムが長くなればなるほど、知らず知らず体温は奪われていきますのでね。
さてさて、波はと言いますと――もう、ほんと最高でした。
レギュラーの心地いいブレイクに、何度もライドすることができました。そして何より、海が美しい。
日本海は工業地帯も少なく、山間部からいきなり海がひらけるような地形が多いからでしょうか。太平洋側に比べて、透明度の高いポイントが多いような気がします。
千葉、湘南、宮崎などなど、太平洋側の少しパーティー感のある賑やかなサーフシーンももちろん好きですが、この日本海側の渋い雰囲気もまたいい。
ご経験のない方にはぜひ訪れて感じていただきたいものです。「JAPAN SEA」の魅力をね。
何本か素晴らしい波に乗れましたので、僕は1時間足らずで海を上がりました。

ウェットスーツを吊るし、サーフボードを乾かしながら、コーヒーを淹れます。海を眺めつつ、満ち足りた気分で、ゆっくりと淹れたてのコーヒーを味わう。
僕はこの時間が、波乗りと同じくらい好きなのかもしれません。
そんなことをしていると、不意に、以前お会いしたことのあるローカルのサーフショップオーナーさんが声をかけてくださいました。
そんな奇跡のような、嬉しい再会もありました。
いや、やはり事件は現場で起こっているんですね。このようにね、僕には海へ行かなきゃならない理由がたくさんあります。
僕の旅に欠かせないのは、自分で育てたアレ!
そんな海のご縁もあり、今回は島根へ向かっていたのでした。
「TERA」というダイニングバーを営まれている寺本さん。やはりサーファーなのですが、その彼にお誘いいただいて、「TERRA FES」というイベントへ向かっていたわけです。
しかも、どんぴしゃりで波に巡り会えるこのタイミングでね。フェス会場へ到着する前に、まずは腹ごしらえ。やっぱり島根の海沿いですからね、刺身をたっぷり堪能させてもらいました。

島根産のカレイ、島根産のアジ、そしておそらく外国産のシャケ。まあシャケは好物なので、ご愛嬌ということで。
スーパーマーケットでキャッチしたとはいえ、特にカレイの刺身は絶品でしたよ。
ところで僕はね、ご飯を炊きながら旅をしています。
それだけ聞くと「なんのこっちゃ」と思われるかもしれませんが、ほんとにそうなんです。
車で旅をして、行く先々で火器を安全に使える場所を見つけては、「コールマンのライスクッカー」で、毎日のようにきっちり三合のお米を炊いてね、それを食べながら旅をしているのです。

各地のお刺身などをおかずにしながら。もちろん「お味噌」と「乾燥わかめ」も車に積んでいますので、即席の味噌汁も常にスタンバイ。
これがね、ほんと楽。いちいちお店を探さなくていいし、お腹が空いたらすぐ食べられる。そして何よりローコスト、しかもハイパフォーマンス。
自分で育てた無農薬のお米を炊きながら、自分で作った歌を歌って旅をしているのです。
「一人自己完結循環型エコシステム・シンガーソングライター兼サーファー」
それが僕です、はい。
ところでこのコールマンのライスクッカー、まじで優秀ですよ。SOTOのガスストーブなんかがあれば、もうほんと、あっという間に美味しいご飯が炊き上がります。
今まで幾つかのメスティン系も試してきましたが、これは圧倒的。使い勝手の良さとクオリティの高さは、他に類を見ないのではないでしょうか。
ポジショントークではありませんので、悪しからず。
儚さもまた一興、数々の再会を願って

さてさて、お腹も心も満たされたところで、フェス会場に到着です。
海の向こうへ沈む夕日を背中に浴びながらの演奏は、ほんと最高でした。
温かい島根の皆さんに、やはり温かい拍手を送っていただいてね。僕は思わずステージの上で、
「また来年も来ます」
なんて、調子のいいことまで言ってしまって。だってね、日本海、大好きですから。
夜遅くまでイベントや宴は続きましたが、僕は少し早めに休むことにしました。民宿の部屋には海側に大きな窓があり、波の音と潮風を感じながら、静かな眠りについたのです。

「明日にはきっと、波は無くなってしまうだろう。」
そんなことを、ふと思いながらね。
翌朝、やはり波は半分か、それ以下にサイズダウンしていました。そうなんです。日本海のうねりは、太平洋のそれと比べて、あまり長くは続かないことが多いのです。
しかしそれだけに、昨日の海の思い出が、より一層の輝きを持って胸の中に蘇ります。僕は幾つかのポイントに立ち寄りながら、車を九州へと走らせました。
やはり波は小さくなっていましたが、それでも所々に、一人、あるいは二人ほどのサーファーを見つけることができました。

ほんとにほんとに小さな波。でも、それでもなお、その海へ入っているサーファーがいる。僕はもう海へ入ることはしませんでしたが、そんな彼らを見てね、
「なんか分かるわ、その気持ち」
と、胸の中でつぶやいたものです。
奇跡的で、少しだけセンチメンタルな、初夏の日本海の物語。
いかがだったでしょうか。
このエッセイをご覧になっているどなたかと、麗しの「JAPAN SEA」で、いつの日か巡り会えることを楽しみにしています。
今月のアウトドアにおすすめの曲
LEISURE「Last Dance」
最近特にハマって聴いているバンドです。ニュージーランドってところが、またいい。
東田トモヒロNEWS
一般社団法人 Change The Worldの活動は公式インスタグラムからご覧いただけます。
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