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コウモリが僕の仕事
はじめまして。中島宏章と申します。僕は動物写真家として、コウモリという被写体をメインに活動をしてきました。ひとくちに写真家といっても、仕事は多岐に渡るのですが、自然に関すること、野生動物に関すること、そしてコウモリに関すること、という枠の中で働いてきました。なので、仕事は何ですか?と聞かれたら写真家というよりも、「コウモリ」と答えるほうが正確なのかもしれません(笑)。

僕は北海道で生まれ育ちました。子どもの頃から動物や自然が好きで好きでたまらなかった。小動物や野鳥に興味を持ち、ずっと育ってきました。大人になって改めて思うのは、北海道は本当に自然の豊かな土地だということです。豊かな自然というのは、別に珍しくて貴重な生物がいるから、ではないんです。自然界の営みが自然な状態で当たり前に、そこに在る。そのまま放って置かれている。それが自然の本当の豊かさだなぁと僕は思うのです。
将来は動物に携わる仕事をしたいと漠然と考えていた子ども時代。いつしか僕は動物写真家になりたいと思うようになりました。四六時中、自然の中で動物を追いかけていることが出来たら、どんなに幸せか。常に被写体の一番近いところで仕事をする動物写真家に憧れるのは、僕にとって必然でした。
しかし、まさか自分がコウモリという一風変わった動物に魅せられて、夢中になって、そしてコウモリの写真家にまでなるとは、子どもの頃には全く予想できなかったでしょう。
そんな僕がコウモリの知られざる魅力を皆さんにお伝えできたらと思っています。
動物界のネクストトレンド
動物(哺乳類)の中で、最も種類数の多い、主流の動物は何か知っていますか?
それは、ネズミです。世界に生息する約6,000種の哺乳類のうち、2,000種、つまり1/3がネズミの仲間です。
一方、コウモリは世界に1,500種もいます。ネズミの次に大所帯で、なんと哺乳類全体の1/4がコウモリなんですよ。
ネズミとコウモリだけで、哺乳類の半分以上を占めていることになります。
人は、まるでコウモリを変わり者扱いしていますが、それは逆。人間の方が、かなりの変わり者なんです。
人間が属するサルの仲間なんて200種くらいなもんです。バリバリの少数派ですね。
これを機会に、私たちは認識を改めましょう(笑)
身近な野生動物のひとつ。東京でも簡単に探せる!

コウモリという生物がいることを知らない人はいないでしょう。だいたい、どんな動物かは知識として皆さん持っています。では、本物のコウモリを見たことがある人はどのくらいいるでしょうか。
動物園で?家の近所で?部活帰りに?海外旅行に行った時?
それぞれのコウモリ目撃エピソードは皆さんお持ちかもしれません。
でも、今から言うことは、初耳でしょう。
東京都では、今までに14種類のコウモリが確認されているのです。
驚きですよね。14種です。とはいえ、これは小笠原諸島や伊豆諸島も含めての東京都全体の話です。
ところが、23区内に絞ったとしても8種ものコウモリが確認されているのです!こんな大都会のどこに⁉と思いますよね。
東京で大捜索!コウモリ探偵の調査記録

僕は以前、六本木で写真展をしたときに、ゲリラ的にコウモリ探索会をしたことがあります。
もちろん場所は六本木のど真ん中。写真展に訪れた人たちに声をかけて、参加者を募りました。
こんな大都会にコウモリはいるんだろうか?いや、いるはず。
集まったのはたった数人でしたが、秘密兵器のバットディテクター(コウモリ探知機。そのうち連載の中で紹介)を持って、日没の前から街へ繰り出します。
歩いてみて気づいたのは、六本木や赤坂は小規模ながらも緑地が点在しているということ。あとから知ったことですが、この地域は江戸時代から大名屋敷がたくさんあったそうです。大名屋敷には必ず立派な庭園が作られました。そして近隣には神社などが配置され鎮守の森として守られてきました。今はとんでもない大都市だけれど、昔は緑にあふれる町だったんですね。そんな歴史の名残がなんとも素敵です。
六本木にも動物が住める環境がある!否が応でも高まる期待!
そんな中、まずはヤモリを発見‼僕にとってヤモリは憧れの動物(北海道にヤモリはいない)。「ヨッシャー!今夜は来るぞー」と、バットディテクターを持つ手にも力が入ります。夕日が高層ビルに遮られ、その影に入ったビルとビルの間には神秘的なダークゾーンが形成されてゆきます。なんの前触れもなく突然、バットディテクターが反応します。
「き、きた!」声になるかならないかのかすれた音が僕の口から発せられます。
黒くて小さい生き物が空をジグザクに忙しなく飛んでいます。間違いなくこれはアブラコウモリ(別名イエコウモリ。現在都心で見られるのはほぼこのアブラコウモリのみ)です。ビルとビルの隙間、スリット状にかろうじて見える黄昏の空をコウモリが元気に飛んでいます。
僕が住む北海道の広い空からは考えられないくらいに狭い東京の空。でも、コウモリのダイナミックな躍動感は、北海道のコウモリたちと何ら違いはない。その命のほとばしりに感動したのでした。
かわいい?それともブサイク?

そもそも皆さんはコウモリに対して良いイメージをお持ちではないでしょうね?
なんか気持ち悪い、なんか怖い、なんか陰湿。
なんか、ってことは、つまりハッキリとは認識したことがない、なんとなく、ってことです。
実はコウモリは、じっくりハッキリ見るとかわいいんですよ。
皆さんは、じっくり見たことがないから、なんとなく気持ち悪いと思っているだけなんです。
実際に、実物のコウモリを見たことがある人たちの意見を聞くと、皆さん好意的なイメージをお持ちです。
たいてい皆さん「かわいい」と言いますよ。つまり、コウモリはかわいいってことなんです!
なぜ逆さまにぶら下がっているのか?

コウモリといえば逆さま。なんとなく洞窟の中で逆さまにぶら下がっているイメージ。なぜ、コウモリは逆さまにぶら下がっているのでしょう?答えは簡単、元も子もない言い方になりますが「逆さまが楽だから」。
コウモリにとっては、逆さまが最も無理のない自然な姿勢。つまり“フツー”なんです。
コウモリの身体って、空を飛ぶために究極にチューンナップされているんです。
前足と手のひらは大きな翼に変化し、下半身は極限まで削がれ、極端に軽く作られています。
だから、そもそも後ろ足で立ったり、歩いたり、走ったりができない身体をしているのです。
飛び立つには、まず飛び立つためのエネルギーが必要になりますよね。
飛行機なら離陸までに猛スピードで走るし、鳥ならば脚で枝を蹴って飛び立ちます。
一方、コウモリは最も効率的でクレバーな方法をとります。
逆さまにぶら下がっている場所から、飛び降りる、のです。そうすれば、重力がそのまま飛び立つ時のエネルギーになるのです。なんて、頭がいいの‼
なにか危険が迫った時にも、逆さまでいることが有利になります。
足でぶら下がったまま、翼を広げて、そのまますぐに飛び立てるからです。

左がぶら下がっている状態、右が飛び立とうと翼を広げた状態(2枚の写真を反転させて合成)
コウモリからしたら、人間みたいに逆さまでいないことの方が不思議でならないでしょうね。
一見、理解に苦しむことでも相手の立場になって考えてみると、その合理性に気づくことができます。
実はコウモリが逆さまでいる理由は、火を見るよりも明らかなことだったんです。
私たちも普段の生活の中で、理解に苦しむことがたくさん起きます。
でも、コウモリが逆さまであるのが当たり前であるように、隠された道理があるかもしれません。








