登山となるとつい気合いが入りますが、私のスタイルはあくまで気楽なハイキング。今回あえて熊鈴を持たずに出かけたのは、本州で唯一クマが生息しない千葉県の鋸山だからです。自分の足音と風の音だけを相棒に、ロープウェーが動き出す前の静かな時間帯を狙って、海抜0mから一気に標高329mへ。海越しの富士山もくっきり見えました。一歩ずつ、かつての職人たちが刻んだ歴史の跡をたどりながら、自分の足だけで登った先に出会える景色。そんな、ちょっと贅沢で自由な山歩きのお話です。
- Text
ルート選びが運命の分かれ道?車力道を推す理由

鋸山にはいくつかの登山ルートがありますが、徒歩で登るなら基本は「車力道」か「関東ふれあいの道」の2択。途中までは同じ道を進みますが、分岐点に来たら迷わず車力道を選ぶのがおすすめです。
というのも、関東ふれあいの道はとにかく階段が多くてハード。延々と続くステップに息を切らすより、なだらかな車力道のほうが断然歩きやすいのです。
JR浜金谷駅からのルートを画像とともに解説

鋸山は電車でもアクセス可能で、全行程を徒歩で回れます。


分岐点では、関東ふれあいの道の階段が目に入りますが、ここはぐっとこらえて左へ。

コース上には案内板も多く、方向音痴の私でも安心でした。
この日は2025年の瀬、スキーキャンプに出かけている次男を除く家族3人で、キャンピングカーで車中泊をしてから出発しました。

しばらくは舗装された上り坂が続きますが、高速道路の高架が見えてきたら、トンネルをくぐらず左の山道へ。

うれしいのは、絶景ポイントに、ベンチや地元の方々の手作りと思われるスマホスタンド(自撮り台)が、たくさん設置されていること。 三脚がなくても、ひとりハイキングでも、ちゃんと『私がここにいた証』が残せます。そんなさりげないおもてなしに、心がポッと温かくなりました。
「ゆるゆる」ハイキング道に刻まれた歴史

鋸山は江戸時代から昭和にかけて、良質な房州石の採石場として栄えました。山頂のギザギザした景観も、じつは石切りの跡なのです。
足元の石畳には、深い溝が平行に刻まれています。これは重い石を積んだ荷車を、女性たちが引いて運んだときにできた轍(わだち)だそう。そんな歴史を足裏で感じながら歩く時間は、ロープウェーでは味わえない贅沢です。

かつては靖国神社や早稲田大学の石垣にも使われていたという房州石。働く山としての役目を終えた現在は、自然と人工美が溶け合う産業遺産として、静かにハイカーを迎えてくれます。重い荷物を運ぶために作られた道なので、傾斜が緩やかなのもうれしいポイント。

2021年に復活した猫丁場へ寄り道

中腹まで来たら、ぜひ立ち寄りたいのが猫丁場(ねこちょうば)。
車力道の分岐から約100m。5分ほどで到着します。ここは長らく通行止めでしたが、地元の方々の尽力で、2021年春に再び歩けるようになったスポットです。


昔の職人たちの遊び心が、時を越えて私たちの目の前に姿を現わしました。そんな背景を知ると、ひとつひとつの石がより愛おしく感じられます。

ハートの窓は、鴨川市在住のアーチスト、飯田善郎ベンヤミン氏による作品です。

石切り場跡を抜け、最後は階段を一気に登ります。ここが今回一番きつかったところです。

東京湾を望む展望台と名付けられたビュースポットから見る富士山

東京湾を望む展望台にはベンチもあり、開けています。ちょっとした休憩をするにも気持ちがいい場所です。

ちなみに、ここは山頂ではありません。せっかくなので、標高329.5mの鋸山山頂へも足を延ばしてみることにしました。

展望台から山頂までは、ゆるやかなアップダウンが10分ほど続きます。
鋸山山頂は意外と地味?

このまま進めば約90分で保田駅まで歩けるそう。山全体を歩いて巡れる鋸山が、やっぱり好きです。
下山は、関東ふれあいの道を通ります。さらに石切り場の見どころが続きます。道中の景色を写真でご紹介します。
観音洞窟

階段状の掘り残しは崩落防止のため、といわれているそうです。すごい技術ですね。
岩舞台

岩舞台では、昭和60年まで採石が続けられたとか。周辺には当時の機械が残されていました。錆び付き具合には、なんともいえない迫力がありました。

昭和の職人たちの息遣いを感じるような文字のディテールから、そこが働く人の山だったことを容易に連想できます。
ロープウェーが動く前が狙い目

山道が賑やかになる前に、私たちは下山しました。静かな時間帯を満喫できた満足感と、ちょっとした優越感に包まれながら。
鋸山に登るなら、早めの時間から行動するのがおすすめです。

下山後のお楽しみは、笹生精肉店まつばや

まつばやでは、登山客向けに揚げ物を販売していて、揚げたてをその場でいただけます。ジューシーなコロッケを頬張る、下山後の至福のひとときです。

まつばやは、次々と登山客が訪れるのも納得の鋸山ハイカー御用達スポットでした。お店のお父さん、お母さんが、とても気さくでした。
笹生精肉店まつばや
- 所在地:千葉県富津市金谷3869-15
- 営業時間:8時~18時15分
- 定休日:水曜
参考までに、今回の移動距離と旅費などをまとめてみました。
◎移動距離など
- 出かけた日:2025年12月29日
- 歩数:17,345歩
- 歩行距離:10.7㎞
◎今回の旅費 ※( )内は支払方法
- 往復の高速代(ETCカード):6,240円
- 鋸南町のスーパーで購入した食材費~夕飯と翌日のランチ分(QR決済):6,534円
- コンビニで買った朝食代:1,915円(QR決済)
- コロッケ代(現金):330円
- 飲料水(QR決済):108円
- 合計15,127円(自動車の往復燃料代は別)

キャンピングカーに戻ったら車内でランチタイム。まずは前の晩に食べたキムチ鍋にラーメンを投入。さらに洗わずに食べられるサラダを数種類盛り合わせました。そんなランチを3人でシェア。
車内に冷蔵庫があるので、自宅から持参した最近お気に入りの足立醸造の糀味ドレッシングや原了郭の黒七味、八幡屋磯五郎の一味などで美味しくいただきました。
日常から、ふらっと抜け出せる、私だけの場所

都心から約1時間30分、思い立ったらすぐ来られる距離に、とっても濃密な時間が待っています。ロープウェーを使わず、自分の足で歩く。静寂の中で絶景を味わい、最後はコロッケを食べながら笑い合う。そんなシンプルで贅沢なハイキングが、日常を少しだけ特別にしてくれました。
富津市観光協会
- たび旅富津 富津市観光協会の総合情報サイト:https://www.futtsu-kanko.info/







