神仏が多すぎる!? 御岩神社を深読み歩き | 日本の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2019.03.22

    神仏が多すぎる!? 御岩神社を深読み歩き

    祀られている神仏の総数、なんと188柱!!!

    前回から、最強パワースポットとして話題の御岩(おいわ)神社を、兄貴分ライター本田不二雄氏と文化系アウトドア旅中! 今回はいよいよご神体・御岩山へ登拝します。

    斎(さい)神社回向殿の左手の階段を上がると、いよいよ御岩神社が見えてきました。

     現在は、御岩山と山麓を境内として、その全体を「御岩神社」と総称しているそうなんですね。そのため、境内にはお社がたくさんあるんですが、そのうちのひとつであり中心的なお社でもある「御岩神社」が、単体としてもあるということなんです。ちょっと複雑。

    御岩神社。「なぜか右の狛犬の頭にだけ苔が生えて、フサフサなんですよ」とSさん。

     「こちらには、国常立尊(くにとこたちのみこと)、 大国主命(おおくにぬしのみこと)、伊邪那岐尊(いざなぎのみこと)と伊邪那美尊(いざなみのみこと)の4柱をはじめとして、ほかに22柱の神様をお祀りしています」

     案内してくださっている巫女・Sさんの言葉に、思わず息を呑みます。22柱、いや、224だから、つまり26柱!!?

     「お祀りしているのはほかにもいらっしゃって、当社全域では、188柱の神様をお祀りしております」

     Sさんの言葉に、改めてのけぞる私。なんですか、その数は!?

    本殿脇にある「御岩山諸神明細」。神様の名前の明細なんて初めて観ました。

     御岩神社は、今「日本最強のパワースポット」と言われているのですが、なぜ最強かというと、「お祀りされている神様がたくさんいるからだ」と考えている方が多いようなんです。その考えかたは、このあたりから来てるのか……。

     「神も仏もあらゆる名前があるな……」
    本田大兄は、ブツブツ呟きながら、明細にくぎ付けです。

    確かに、「八百万(やおよろず)の神」というくらいで、日本にはたくさんの神がいると考えられています。しかし同じ場所にこんなにたくさん一緒にというのは、実に珍しい。どの神さまも大切なんだろうと思います。しかし根幹になる存在というのは必ずあるはず。それは一体なんという神さまなんでしょう? 

    御岩山に鎮まる神「立速日男命」

    境内は広大で、この御岩神社があるところまでは、麓エリアとでもいうべき場所です。ここから先が、御岩山登拝の参道となり、山中にもあらゆるところに、神仏が祀られています。その御岩山中腹に「かびれ神宮」があり、まずはそのお社を目指します。

     実は、「かびれ」という名前を冠している点でも、このお社がいかに重要かがわかります。御岩山の古称は「賀毗禮(かびれ)の高峰」で、奈良時代から伝わる古い名前です。御岩神社の源へと少しでも近づくために、さらに古い名前を冠する「かびれ神宮」へ、気合を入れて向かいます。

    緑の矢印の先が「かびれ神宮」です。

    そしてここからは、ボランティアガイドのNさんが一緒に歩いてくださいます。登拝のルートは表参道と裏参道があるようですが、まず表参道から登ります。先週末の雪の影響で入山禁止になっていましたが、ほぼ雪は消えていました。

     「入山禁止になって、3日間誰も入っていませんでしたから、すごく静かな空気です。こんなことはなかなかないですよ。武藤さんたちは、本当にラッキー!」

    Nさんの言葉に、単純な私は、気分急上昇↑

    そして、この笑顔。表参道を行く私の足はいつもに増して軽快。

    ところどころに巨岩や、巨木など、見所がこれまたたくさん。Nさんに教えていただきながら山道をゆくと、あっという間な気がしましたが、30分ほど歩いたでしょうか。

    自然石を重ねたような石段の先に白い鳥居がみえてきました。

     「こちらが、かびれ神宮です。天照大神(あまてらすおおみかみ)、邇邇藝命(ににぎのみこと) 、そして立速日男命(たちはやひをのみこと)をお祀りしております」

    天照大神は日本神話の主神であり、皇祖神としてお馴染みですね。邇邇藝命は、天照大神のお孫さんで、天から人間界を治めるために天下った神です。そんなわけで、日本神話における最高位の神々がまずお祀りされている、と。

    かびれ神宮。手前の巨石は今上関といい、古くは水が湧いていたそうです。

     そして、やはりここで私は、最後に挙げられた神さま「立速日男命」に注目したいのですね。実は、取材の前にちょっと調べてみました。すると「立速日男命」は、とても面白い物語が伝わっているんです。

     ――立速日男命は最初、松沢という地の松の木の俣(また)に天下った。しかし、住人の不敬不浄な振舞いがあると祟るので、住人は困って朝廷に奏請した。すると、中臣氏の同族である片岡大連が遣わされて祭事を行い、このあたりは不浄なので高山の浄境に遷座してくださいと告げたところ、かびれの峰(現御岩山)に移った。しかし住人が、山が険しくて参拝がしづらいと苦しんだので、祠を里野宮に遷したという。(『日本歴史地名大系』をもとに作成)

     立速日男命は、その名前からして雷神、あるいは、火や金属に関わる神とも考えられるそうです。一瞬「祟るということは怖い神さまなのかな?」と思いましたけど、冷静に考えてみたら「住人の不敬不浄な振舞いがある」から祟ったんですもんね。ちゃんと理由があってということです。

     ついでに『常陸国風土記』を読んでみたら、「人あり。向きて大小便行る時は、災いを示し、疾苦をいたさしめしかば」と書いてありました。つまり、降臨したところに、大小便をかけたりしたってことです。そりゃ怒るわ!……と思わずツッコミを入れたくなりました。

     怒って祟ったけれども、最終的には住人の望み通りに移動してくれていますし、住人が山の上に登るのが大変といったら、麓に遷ってくれちゃってますからね。これ、人間に置き換えてみたら、かなりいいひとだと思いません? やっぱり怖い神さまじゃない気がするなあ。厳しいけど、きっと根は優しい神さまです(断言)。

     どこがではなく、全部がパワースポット

    そんなことを思いながら、深々と頭を垂れてご挨拶。いよいよ山頂へと向かいます。

    ところどころに雪が残ります。狸の足跡を見つけていっそう気持ちがアップする私。

    急坂を上ると、御岩山山頂の標識が見えてきました。

    そして、山頂です!「賀毗禮之高峯」と書かれています。

     山頂には巨石があり、その手前にはフラットな土地があって、周囲は岩で囲まれています。この巨石がご神体かなと思いましたが、周囲を回ると、実はほんの一部であることがわかりました。私が立っているこの場所全体が巨大な岩山なんです。

     「御岩山を歩いていると、どこがパワースポットなんですかと尋ねられるんですね。でも、どこがということじゃなくて、全部がパワースポットですよってお話しするんですよ」

     Nさんが、そう言って笑いました。私はそれを聞いて妙に納得。実はこの山頂に来て、どちらを向いて参拝したらいいかわからなくなって、困っていたんです。この困った感じは、意外と間違ってなかったかもしれません。私は今、ご神体の上に載ってしまってるんですもんね。

     そして、もうひとつ特筆すべきは、ここから見える風景です。

    残念ながらうまく撮れませんでしたが、右方に那須、左端には日光連山まで見渡せました。

    今遠望しているこの美しい山々は、すべて神の坐す場所として信仰を集めた場所ばかりです。御岩山の標高は530メートルだそうで、決して高くありません。それなのに、それらの山を一気に拝せるというのは、ある意味奇蹟ではないでしょうか。さらに、右手に振り切ると太平洋までも見えるのですから、実に贅沢な眺望です。

     私は、周囲をぐるっと見渡すと、改めて巨石に向かいました。そして柏手を打ってみると、この日一番の美しい音。私はありったけの敬意をこめて手を合わせます。果てしない時を重ねた巨石と、その前で手を合わせている自分。その瞬間、時の制約を超えていろんなものとつながるような気がしました。

     こうして、私もすっかりパワー充電完了。元気いっぱいに下山しますよ!

    (次回へ続く)

     プロフィール
    武藤郁子 むとういくこ

    フリーライター兼編集者。出版社を経て独立。文化系アウトドアサイト「ありをりある.com」を開設、ありをる企画制作所を設立する。現在は『本所おけら長屋』シリーズ(PHP文芸文庫)など、時代小説や歴史系小説の編集者として、またライターとして活動しつつ、歴史や神仏、自然を通して、本質的な美、古い記憶に少しでも触れたいと旅を続けている。

    ★本田不二雄氏と共著で書き下ろした『今を生きるための密教』(天夢人刊)が昨年12月に刊行されました!ぜひお手に取ってみてくださいね!

     

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