
土の中で長い年月を過ごし、わずかな成虫期間に全力を尽くすセミの生き様は、知れば知るほど感動的。夏の風物詩としてだけでなく、生き物としての魅力を再発見できます。
セミの成虫の寿命は短い
「セミは1週間で死んでしまう」とよく言われますが、これは半分正解で半分誤解。成虫としての命は短く、種類にもよりますが1週間から長くて1か月ほどしか生きられません。ただし、土の中での幼虫期間を含めると、その一生は6~7年にも及ぶことがあるのです。成虫は恋の季節を全力で生き抜く、いわば「最後のステージ」ともいえます。
セミの基本情報
セミとは
セミは昆虫綱カメムシ目(半翅目)セミ科に属する昆虫で、主に夏に鳴くことで知られています。
セミの鳴き声、腹部にある発音器と呼ばれる器官を震わせることで発せられ、これがセミ特有の大音量を生み出します。
オスが鳴くのは、メスを引き寄せて交尾を成功させるための手段です。また、縄張りを示したり、ライバルを牽制したりする役割も担っています。
世界には、約3000種類のセミが生息しており、日本ではおよそ30種が確認されています。
種類ごとに活動時期や好む環境、鳴き方に違いがあるため、鳴き声を聞き分けて種類を特定する「セミ聞き分け」も自然観察の楽しみ方の一つです。
そして何より、セミの声は日本の夏の風物詩であり、私たちに季節の訪れを知らせてくれる存在でもあります。
セミの種類
アブラゼミ
日本の都市部で最もよく見かけるセミ。翅に油を塗ったような模様があり、ジジジ…という濁った鳴き声が特徴です。夏の盛りから秋口にかけて見られます。街路樹や公園、学校の木などでよく見られ、最盛期には数多くの個体が一斉に鳴くため、非常に賑やかに感じられます。
ニイニイゼミ

体長が小さく、全体に茶色く地味な見た目をしています。翅にも模様があり、樹皮に溶け込むような保護色が特徴。6月下旬頃から鳴き始め、夏の訪れを感じさせる存在です。「チー…」という控えめな鳴き声で、湿った林や木陰など涼しい場所に生息しています。
ヒグラシ
「カナカナカナ…」という美しい鳴き声で知られ、夕暮れ時や朝方に鳴くことが多いセミ。山間部に多く、その声はとても印象的です。日没前の涼しい時間帯に鳴き声が響き、夏の終わりを感じさせる存在でもあります。
ミンミンゼミ
「ミーンミンミン…」という規則的で高めの鳴き声が特徴のセミで、都市部から山間部まで幅広く分布しています。緑がかった翅と透明感のある体を持ち、比較的高い木の上で鳴くことが多いです。関東地方ではよく見られる身近なセミです。
ツクツクボウシ
夏の終わりを知らせるセミ。「ツクツクボーシ、ツクツクボーシ」という独特なリズムの鳴き声で、晩夏の風物詩として親しまれています。樹木の枝先や細い枝によくとまっており、晩夏の代表種です。
クマゼミ
西日本を中心に多く、都市部でも見られます。大型で、翅は透けており、「シャーシャー」と非常に大きな声で鳴きます。暑さに強く、真夏の炎天下でも活発に鳴く姿が印象的で、存在感のあるセミです。
セミの成虫の一生と寿命

産卵
セミの一生の終盤にあたる重要なステージが産卵です。成虫になったセミは、まず繁殖行動を行い、交尾を終えた後、メスは産卵を行います。木の幹や細い枝に産卵管で小さな傷をつけ、その中に卵を産みつけるのです。
木の内部に卵を産むことで外敵から守りやすくなり、直射日光や乾燥を避けられる安全な環境を確保できます。
こうして産卵を終えたメスはまもなく寿命を迎え、成虫としての役割を終えます。
翌年の梅雨ごろに卵から1cmにも満たない小さな幼虫が孵化し、幼虫は地中へと潜ります。その後は木の根の養分を吸って、数年間日の光を浴びることなく、地中で成長を続けます。
羽化
羽化は、数年の地中生活を経た幼虫が、地表に出て成虫になる劇的な変化の瞬間です。気温や湿度、天候などの条件が整った夏の夜に、幼虫は地面からはい出して木に登り、背中が割れて成虫が現れます。
この羽化には外敵に襲われるリスクが伴いますが、時間を夜間~朝方に限定することで、鳥などの捕食者を避けていると考えられています。また、翅が固まるまでは動けないため、飛び立つまでの安全な場所を見つけることが生死を分けます。
成虫
成虫となったセミの主な目的は、繁殖です。オスは鳴くことでメスに自分の存在をアピールします。種によって鳴き方や鳴く時間帯が異なるのも特徴です。
交尾が終わるとメスはすぐに産卵に入り、成虫としての役割を終えます。成虫の寿命が1~2週間と短いのは、繁殖のみに特化しているためです。
体の構造も、飛翔や鳴き声に必要な筋肉が発達する一方、摂食器官はほぼ退化しており、食事をしないまま生涯を終える種も少なくありません。
セミの成虫の寿命は短くはかない!知ればより魅力的
セミの成虫の寿命は短く、その鳴き声は限られた時間の中で繁殖のチャンスを得るための大切なアクションでもあります。
土の中で数年を過ごした後、ようやく地上に出て、短い夏を懸命に生きる姿は、自然の営みのひとつとして興味深く映ります。セミの生態を知ることで、身近な昆虫にも新たな発見や魅力を感じられるでしょう。生き物の一生を知るきっかけとして、子どもたちにもぜひ伝えてみてください。