瀬戸内海300kmを横断!ホーボージュンが愛用する最高峰のカヤックとは | アウトドア・外遊び 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.09.01

    瀬戸内海300kmを横断!ホーボージュンが愛用する最高峰のカヤックとは

    瀬戸内海300kmを横断!ホーボージュンが愛用する最高峰のカヤックとは
    海を旅することは地球を旅することであり、海を知ることはこの星を知ることだ。それを僕に教えてくれたのは、シーカヤックという手漕ぎのフネだった。

    【ホーボージュンのサスライギアエッセイ・旅する道具学11】第11話「ピルグリムの翼」

    カヤック「SeaKayaking U.K. / Pilgrim Expedition」

    シーカヤックを漕ぐようになって30年経つが、この手漕ぎのフネと出会ったことで僕の人生は大きく変わった。それまで海は陸から「眺める」存在だったのに、カヤックを手に入れてからそこは「旅する」場所になった。それはとてつもない変革だ。なにしろこの地球の7割は海洋なのだ。その7割を僕は手に入れてしまったのである。
     
    僕は瞬く間にカヤックツーリングの虜になり、北海道から沖縄まで日本中の海を漕ぎ回るようになった。冒険航海にも目覚め、ヒグマの跋扈する知床半島を一周したり、沖縄本島から奄美大島まで250kmに及ぶ海峡横断に挑んだりもした。
     
    こういった離島や遠方の旅にはフォールディングカヤックを使うことが多いが、普段のパドリングや高速巡航が必要な遠征にはカーボン・ケブラーで作られたリジッド艇を愛用している。それがシーカヤッキングUKの「ピルグリム・エクスペディション」というモデルである。


     
    これは世界的な冒険パドラーであるナイジェル・デニスがデザインする英国製のカヤック。ハードな遠征を見据えて造っているので非常に頑丈で、断崖の上からロープで吊り降ろしたりゴリゴリの岩礁に乗り上げてもびくともしない。また防水性能を重視してハッチの開口部は小さく、海上での機材トラブルを最小限にするためラダー(舵)すら備えていない。なにもかもがハードボイルドなのだ。
     
    そんな中でもピルグリムはスピードと俊敏性に全振りしたストイックなモデルだ。全長は約5.2mあるが、全幅はたった50cmしかなく、コックピットに入ると身動きすらできない。風の抵抗を極力減らすためにデッキも極端に低く、まるでボディスーツを着ているよう。ピルグリム(求道者)という名前がじつにふさわしい。
     
    このスピード重視のデザインは、天候が急変して海が荒れた場合や、瀬戸や潮目などの危険箇所を突破するときに、できる限り早く漕破するためだ。
     
    その一方でハル(船底)はフラットで、一次安定性が非常に高い。細身なのにグラつかず、うねりのある外洋でも恐怖を感じさせないチューニングはさすがナイジェル・デニスである。


     
    このピルグリムとの最大の思い出は「瀬戸内カヤック横断隊」への参加だろう。これは冬の瀬戸内海300kmを7日間かけて横断するエクスペディション。プロガイドをはじめとする海の猛者たちが、自己鍛錬のために全国から集結するのだ。
     
    瀬戸内海は平均水深が38mと浅く、大潮の日には潮流が10ノット(時速19km)もの速さで流れる。また水路が多くて潮流が複雑なためナビゲーションも難しい。さらに全行程を無補給で進むので、各自が7日間分の食料と飲料水、キャンプ道具を積み込まなければならない。

    クソ重いカヤックを毎日50km以上も漕ぎ続け、無人島に上陸しては泥のように眠る毎日はまるで軍隊生活みたいだったが、とても充実した日々だった。
     
    この遠征で印象的だったのが、隊士たちが出航することを「離陸」、帰航することを「着陸」と呼んでいたことだ。航空機みたいでとまどったが、よく考えれば海に出るということは「陸を離れる」ことだし、海から戻ることは「陸に着く」ことだからまったくもって正しい。

    その視点はカヤッカー自身にあり、主体は海にある。彼らは陸から世界を見ているのではなく、海からこの世界を見ていたのだ。
     
    何日も海を旅していると、こういう海からの視点を持つようになる。よく宇宙飛行士が地球に帰還すると以前と全く違う価値観や死生観でこの星を語るようになるが、そこまで大げさな話ではなくとも海から着陸するとき、僕も少し違う自分になっている気がする。思考が俯瞰的で、地球中心になっているのだ。
     
    僕は思うのだが、シーカヤックツーリングは、単なるアウトドアレジャーではない。そして単なるパドリングスポーツでもない。それは自らの肉体と知恵で海を渡り、この地球の姿を自身の内面に取り込むとても哲学的な(あるいは宗教的な)行為なんじゃないだろうか。
     
    海には一切の道がない。標識もない。前人の踏み跡もない。どこをどう進むかはすべて自分次第だ。そのために天気図を見つめて風を読み、海図を見つめて潮流を読み、月の形を見つめて潮汐を読む。子細に旅を組み立て、何度も確認する。しかし海は常に変化していて、一瞬たりとも同じ姿をとどめておいてはくれない。人間の存在などまったく関係なし。すべては無常。そして無慈悲なのだ。
     
    30年漕いでいてもやっぱり海は怖い。僕は過去に海況を読み違えて怖い目に遭ったことが何度もあるし、恥ずかしい話だが、単独遭難して海上保安庁に救助されたこともある。だから外洋では海面や空の変化に異常に敏感になり、いつも心の内側がザワザワしている。たとえ天気が良くて海況が穏やかでも脳天気には楽しめない。
     
    なのに僕はカヤックに乗る。だからこそ僕はカヤックで海を飛ぶ。それはきっとこの行為こそが、この海、風、雲、そして僕らが住む地球の成り立ちを僕に教えてくれると思うからだ。
     
    今日も僕は離陸する。
     
    求道者という名のフネに乗り、地球と自分を探求に行くのだ。

    image

    ホーボージュン

    大海原から6000m峰まで世界中の大自然を旅する全天候型アウトドアライター。X(旧Twitter)アカウントは@hobojun。

    ※撮影/山田真人

    (BE-PAL 2025年8月号より)

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