南東アラスカの旅で先住民族の人々の記憶に触れる | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.10.22

    南東アラスカの旅で先住民族の人々の記憶に触れる

    南東アラスカの旅で先住民族の人々の記憶に触れる
    米国アラスカ州の南東部にある街、ケチカン。著述家・写真家の山本高樹が、この街とその周辺を訪れて取材した時のフォトレポートを、全4回に分けてお届けします。最終回となる第4回は、ケチカンの郊外にある先住民族の村にある、トーテム・ポールの公園を紹介します。
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    森と海に囲まれた南東アラスカの町、ケチカンを行く 第4回

    クリンギット族の村、サックスマンを訪ねて

    ケチカンの街の中心部から南東に4キロほど離れた場所に、サックスマンという村があります。人口は400人ほど。主にアラスカの先住民族の一部族であるクリンギット族の人々が暮らしています。ケチカンにある観光案内所などでは、この村を訪ねるガイド付きツアーに申し込めますし、ケチカンから市バスなどでも行くことができます。

    マンザニータ・レイクでの滞在を終え、ケチカンの街に戻ってきた僕は、日本への帰路につくまで少し余裕があったので、このサックスマンを訪れてみることにしました。

    この村には、サックスマン・トーテム・パークと名付けられた公園があり、クリンギット族の職人の方々によって作られた、大小20以上のトーテム・ポールが林立しています。

    トーテム・ポールは、記念や追悼などさまざまな目的で作られる柱状の木彫で、人々のクラン(氏族)を表すワタリガラス、ワシ、クマ、シャチなどの動物を中心とした、さまざまなモチーフが刻まれています。たとえば、この写真のトーテム・ポールには、クリンギット族に伝わる3つの伝説を表現するモチーフが刻まれているそうです。

    このトーテム・ポールは、敵対関係にあった2つのクリンギット族の間で和平協定が結ばれたことを記念したものなのだそうです。撮影した部分の彫刻は、和平を取り持ったワタリガラスのクランにちなんで「プラウド・レイヴン」と呼ばれていて、この公園にある個性的な彫刻の中でも、よく知られているものです。

    トーテム・ポールの中には、特定の人物などをからかうために作られるものもあるのだとか。写真の彫刻は、19世紀の米国大統領エイブラハム・リンカーンの下で国務長官を務めた、ウィリアム・H・スワードを表したもの。

    スワード国務長官がアラスカを訪問した時、クリンギット族は彼を盛大にもてなし、数多くの貢物を捧げたのですが、国務長官はそれに対して何の見返りもよこさなかったので、クリンギット族は彼をからかう目的でトーテム・ポールを作り、鼻の穴と耳を赤く塗ったのだそうです。

    このトーテム・ポールは、クランで亡くなった人を追悼する目的で作られたものだそうです。下の方に刻まれているのは、人間の夫と、彼を抱えるクマの妻。その上には、彼らの子供であるクマたちがいます。

    伝説によると、男は人間の村を出てクマの精霊と結婚したのですが、家族の狩を手伝うために村に戻った時に人間の妻に会ってしまい、約束を破られたクマの妻は激怒し、男は子供のクマたちに食い殺されてしまったとか。すごい話ですね……。

    アラスカ各地に残るワタリガラスの伝説

    サックスマン・トーテム・パークでもっとも目立つ存在が、このビーバー・クラン・ハウス。ビーバーの氏族を表すダイナミックなモチーフが外壁に描かれていて、建物自体も集会場として使われているそうです。

    手前にある2つのトーテム・ポールは、左が月のワタリガラス、右が太陽のワタリガラスを表しているそうです。アラスカ各地には、ワタリガラスにまつわる古い伝説が、少しずつ形を変えながら語り継がれています。資料によると、サックスマンに伝わるワタリガラスの伝説は、このような物語だったそうです。

    「昔、太陽と月と星を操る老人がいました。老人は、太陽と月と星をそれぞれ別の箱に収めていて、世界には夜も昼もありませんでした。白いワタリガラスは老人に太陽と月と星を自由にしてもらいたかったのですが、彼は老人がそうしないことを知っていました。老人には娘が一人いました。ワタリガラスは自らの姿を棒切れに変え、娘が飲む水の中に落ちました。水を飲んだ娘は身籠り、やがて男の子を産みました。

    大きくなった男の子は、太陽と月と星が入っている箱で遊びたい、と老人にせがみました。男の子はまず星を解き放ち、世界に夜が訪れました。男の子は次に、月を解き放ちました。最後に男の子は、太陽の箱で遊ばせてもらおうとしましたが、それはなかなか許されませんでした。何も食べずに泣いて過ごす男の子を見かねた老人は、見張り役をつけた上で、太陽の箱で遊ぶことを許しました。

    男の子は、見張り役が居眠りをしたすきに箱を開け、太陽を解き放ちました。その瞬間を、老人とまじない師が見ていました。男の子が白いワタリガラスに姿を変えて太陽を追いかけようとしたその時、まじない師は彼を空の一点に留め、老人は濡れた薪を燃やして黒い煙を出し、ワタリガラスの身体の色を白から黒に変えました。まじない師はワタリガラスに、お前がどこにいるか、私はいつも知っているぞ、と言いました」

    サックスマン・トーテム・パークを訪問するガイド付きツアーに参加すると、現地の職人の方々がトーテム・ポールを制作している工房の中を見学させてもらえます。貴重な伝統文化とそれを支える技術が、今も伝えられている場所です。

    コロナ禍を挟んで、本当にひさしぶりに訪れた、南東アラスカ。折からの円安と米国内での物価高騰の影響で、街にいる間の夕食は、宿の近くの大型スーパーにあるマクドナルドのハンバーガーセットでしのぐような毎日でした。

    それでも、目の前に広がる森とフィヨルドの風景は、自分の心の奥底に深く刻み込まれて、この先もずっと残り続けるような気がしています。いつかまた、この土地を訪れる機会が来ることを願いながら、僕はケチカンを後にしました。

    山本 高樹さん

    著述家・編集者・写真家

    1969年岡山県生まれ、早稲田大学第一文学部卒。2007年から約1年半の間、インド北部の山岳地帯、ラダックとその周辺地域に長期滞在して取材を敢行。以来、この地方での取材をライフワークとしながら、世界各地を取材で飛び回る日々を送っている。著書『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』(雷鳥社)で第6回「斎藤茂太賞」を受賞。近著に『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』(雷鳥社)、『流離人(さすらいびと)のノート』(金子書房)など。

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