秋も終わりが近づき、深夜になれば冬の星座が昇ってくる季節になりましたが、宵のうちの主役はまだ秋の星座たち。中でもペルセウス座の変光星アルゴルは注目の的。もう一つ有名なくじら座のミラと比べてみましょう。
勇者ペルセウスが退治したメドゥーサの首に光る変光星
ペルセウス座が天高く昇る季節になりました。ペルセウスはギリシア神話で有名な勇者のひとり。怪物メドゥーサを退治し、さらにアンドロメダ姫を化け物くじらから救いだして、めでたくアンドロメダ姫と結ばれ、ふたりして夜空に上げられているとのこと。メドゥーサは、髪の毛が無数の毒蛇、その顔を見たものは一瞬にして石になってしまうという、いかにも恐ろしげな怪物。神話によれば、もとは美しい三姉妹の三女でしたが呪いにより怪物になったとされています。
注目は、その怪物メドゥーサの目で光るアルゴルという変光星です。2日から3日の周期で明るくなったり暗くなったりする、せわしない星です。ひとつの星に見えますが、アルゴルは2つの星からなる連星で、2つがぐるぐると回ることで明るさが変化します。
こうした星は珍しくはありません。多くの連星は、グルグル回っていても、上から見るぶんにはトータルの明るさは変わりません。しかし真横から見ると、2つの星が重なるタイミングがあり、そのときは片方の星が隠されてしまうため、いつもより暗く見えます。こうした変光星を「食変光星」といいます。アルゴルはこのタイプです。
アルゴルは明るいほうがA星、暗いほうがB星と呼ばれます。A星のほうは太陽の約3倍と大きく、B星は太陽の70%くらいの質量、かつ歳を取った老星でかなり膨らんでいます。A星がB星の前に来ると少しだけ暗くなり、暗いB星が明るいA星の前に来ると目立って暗くなるわけです。2〜3等星の間で規則正しく変化します。天文カレンダーなどには「アルゴル極小」の日時が記されていますが、それはアルゴルB星がA星の前を横切る瞬間の時刻です。もっとも暗くなる瞬間なので、わかりやすいのです。
ペルセウス座のアルファ星であるミルファクは1.9等級なので、これと比べ見るとアルゴルの明るさのちょっとした変化がわかるかもしれません。
A星とB星の距離は0.06天文単位しかありません。1天文単位は太陽と地球の間の距離(約1億5000万km)なので、約930万kmです。太陽と水星の間が約0.4天文単位ですから、それよりもはるかに近いわけです。ちなみに地球からいちばん近い恒星はケンタウルス座のプロキシマ・ケンタウリで、4.2光年の彼方にあります。
化けものくじらのミラが見えない秋
変光星のなかではもっとも知られているのが、同じく秋の星座くじら座のミラです。ミラは発見された変光星第1号、「不思議なもの」という意味をもちます。
アンドロメダ姫を襲おうとしていたところ、さきほどの勇者ペルセウスにメドゥーサの首を見せつけられて、石にされてしまった哀れな化けものです。日本語では「くじら座」と訳されていますが、この絵のように、どう見てもくじらではありません。
ミラは322日周期で3等から10等級まで明るさを変える変光星です。アルゴルと違って連星ではありません。ミラ自身が膨らんだり縮んだりしながら明るさを変えます。このタイプを「脈動型変光星」と呼びます。
くじら座は全天で3番目に大きな星座ですが、明るい星がないので目立ちません。そして今年はミラも見えません。現在9等級あたりまで暗くなっているからです。
ミラは老齢で寿命が近づいている星です。安定して輝くことができず、膨らんだり縮んだりを繰り返していますが、膨らむと温度が下がるため、暗くなります。さらに、膨らんだときには炭素などのチリが放出され、そのチリに明るさが遮られることでさらに暗くなっているとも推測されています。
今年の4月、ミラはもっとも明るくなりましたが、ちょうど太陽の方角にあったので見られませんでした。次に3等級まで明るくなるのは来年の3月ですが、夕方の薄明が終わる頃には西の低空に沈みかけているので、あまり条件が良くありません。くじら座が高く昇った状態でミラが明るくなるのは、再来年の1~2月ごろまで待たなければいけません。
ペルセウス座のアルゴルと、石にされたくじら座のミラの変光星対決。今年の秋はアルゴルに軍配です。
構成/佐藤恵菜