
まずは近所の川で探してみよう!
「採集、飼育、観察……。昆虫の楽しみ方はいろいろある。たぶん、採集は狩猟本能に、飼育や観察は知的好奇心に結びついてるんじゃないかな。だから、子供の心のどの部分が虫に反応したかをよく見てほしい」
と奥山さん。大人は飼育して死なせるのを嫌がり、子供に虫を持ち帰らせないこともあるが、それでは好奇心の強い子供は満足できないという。
「探究心が強い子は、採ることよりも種類を調べたり観察したりするほうが楽しい。その場合は飼育を禁じるのは酷だよね」
その反対に、採ることばかりが好きで虫の世話をできない子はどうしたらいいのだろう?
「捕まえたあと写真に撮って種類や数を記録してあげたら、持ち帰らなくても満足できるかもしれない。子供の気質に応じた虫との付き合い方がある」
虫を探すときは自然度が高い地域のほうが有利だが、都市近郊でも十分楽しめる、と奥山さんはいう。
「おすすめは近所の川。草原の虫はもちろん、河畔林があれば甲虫類もいる。近所の虫なら万が一逃しても、遺伝子を撹乱したり病気を広げることもない。川どころか庭先の虫だって、飼育したら驚くような発見をくれる。目の前の虫が図鑑にも書かれていない未知を届けてくれるのが、虫遊びの魅力だよね」
虫テク1 竹筒を吊ってハチのマンションをつくる

狩りバチやハキリバチのなかには竹筒を巣として利用するものがいるが、最近はどこでも住宅難。さまざまな内径の竹筒を束ねて置いておくと、その径に応じた体格のハチがやってきてそこに卵を産みつける。



ハキリバチは蜜や花粉などの植物質を幼虫のエサにするが、狩りバチの場合はイモムシなどに麻酔をして幼虫のエサにする。
虫テク2 チョウとトンボは追わずに「待つ」
人気の花でチョウを待ち伏せ

アゲハ類は複数の個体が同じコースをたどる習性があり、これは蝶道と呼ばれる。この蝶道の上や、虫に人気のある花で待つと次々にチョウがやってくる。

大型トンボは通り道で待つ

大型のトンボには、これと決めた範囲を回遊するように飛ぶ種がいる。少し観察して回遊のコースを見極めたら、ルート上で待ち伏せて、網を通りすぎた瞬間に後方からすくいあげる。

虫テク3 羽化直前のヤゴを飼うヤゴリウムをつくろう

初夏から晩夏は多くのトンボが羽化する。この時期に大型のヤゴを捕まえて飼育すると、比較的短い飼育期間でトンボの羽化までを観察できる。「大きい個体を選び、生息地を再現するのが重要! とまり木は必須」

羽化の際に留まれるよう、水面から上に草を出す。流水を好む種はエアレーションを忘れずに。

虫テク4 虫にバレないマル秘ギア「エビタモ」で採る!

関西以西でテナガエビの採集に使われているエビタモは、じつは虫にも有効。枠も網も細いので警戒されず、ゆっくり被せたら被せるその瞬間まで虫は網の存在に気づかない。ネット通販で買える。

虫テク5 女王アリをつかまえて現代住宅で巣作り観察
春から夏にかけて、公園や神社では巣作りの場所を探す女王アリに出会う。そんな女王をピルケースで飼うと、群れをつくる様子を観察できる。アリが増えたらケースを連結して増築する。

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女王のエサは昆虫ゼリーや蜂蜜など。働きアリが増えるとケースの小部屋を育児室や貯蔵庫に利用する。

ピルケースの隔壁にはL字に曲げて熱した針金を押し当てて、女王アリが通れる通路をつくっておく。
虫テク6 画像検索&図鑑で正体にせまる

採った虫の名前がまるでわからないときは透明なケースに入れてスマホで撮影し、Googleの画像検索にかける。その種を当てられなくても近しい種が見つかるので、それを手がかりに図鑑を参照する。

生活のなかで透明なケースのゴミを見つけたら、観察用にキープしておこう。
虫テク7 シェラカップにつくるアリジゴク天国

雨の当たらない砂地に摺り鉢状の穴があったら、その穴の主はアリジゴク。指で探って見つけたら、周囲の砂とともに持ち帰る。カップに入れると穴をつくるのでエサに小昆虫を与える。

飼育すると、砂をかけて穴の中心に虫を落とす様子や、羽化などの変態を観察できる。


虫テク8 寄生虫もウェルカム!? 庭のイモムシを育てる

家の庭木にイモムシがいたら観察のチャンス! 正体がわからなくても食草はわかっている。水に枝を挿して育てれば蛹や成虫になる様子を間近に見られる。庭木ならエサも調達しやすい。


幼虫が好む若い枝を水に差して、定期的に交換する。

イモムシは寄生蜂に入られることも。「そのときはハチを観察!」
奥山式虫遊び3か条
- 希少な虫より近所の虫。生態の観察を楽しもう
- 虫遊びは自由! 取り組む人の性質に合った楽しみ方を
- 採集道具や飼育用品は廃品や中古品を利用
※構成/藤原祥弘 撮影/矢島慎一、奥山英治(昆虫生態写真)
(BE-PAL 2025年8月号より)