
中でもプレミアムジンとして国内外で人気上昇中なのがサントリー「ROKU<六>」だ。その工場が大規模リニューアルし、来春から見学できるようになる。ビール工場の見学は昔からあるけれど、ジン工場の見どころとは?ひと足先に中の様子を取材させてもらった。
ジャパニーズ・ジンの魅力はズバリ「和のボタニカル」
ロックやストレートはもちろん、ジン・トニックの人気は以前から根強い。カクテルの王様マティーニにもジンは欠かせない。
ジンはトウモロコシや大麦、ライ麦、ジャガイモなどの穀類を原料にしたスピリッツをベースに、ジュニパーベリーをはじめとしたボタニカル(ハーブ、スパイス、果実、根、花など)の風味をつけて再蒸溜した酒だ。
ジュニパーベリーのほか、カルダモン、コリアンダー、アンジェリカ、オレンジピール、レモンピールなどが伝統的に使われてきたボタニカルだ。これら使用されるボタニカルでジンの個性が決まる。
はじめにジュニパーベリーとは何ぞやとなるが、日本では「杜松の実」と呼ばれる。ヒノキ科の針葉樹の果実である。

サントリーが2017年に発売したジン「ROKU<六>」は、日本ならではのボタニカルを6種、使用している。近年、海外でも人気上昇中、昨年の世界のプレミアムジンランキングでは第2位にランキングされている(2024年販売数量IWSR2025データより)。
6種類のボタニカルは桜の花、桜の葉、煎茶、玉露、山椒、柚子。これら和の素材は100%日本産を使用している。






こんな首の長い蒸溜器、見たことない!
6月下旬、サントリー大阪工場の新しいスピリッツ・リキュール工房を見学してきた。サントリーは1919年に大阪・天保山運河に面した港に工場を設け、日本の洋酒文化を牽引してきた。その大阪工場の4基の蒸溜器をリニューアルし、ボタニカルを浸漬するタンク8基を新設した。


はじめにセミナールームで「ROKU<六>」の原酒をテイスティングさせてもらった。

ジンのベーススピリッツを飲むのは初めての経験だった。桜の花の原酒は桜餅の香りが、柚子の原酒は柚子を囓ったときの香りがした。このほか桜の葉や山椒、煎茶、玉露、伝統的なボタニカルが渾然一体となって「ROKU<六>」の複雑で奥の深い風味が生まれることをちょっとだけ体感。
テイスティング後にいよいよ工場へ。


このほかに「ROKU<六>」に使われる6種、コリアンダーシードやアンジェリカなど伝統的なボタニカルも見られて香りもかげる。

この首の長さ、ビール醸造所やウイスキー蒸溜所ではちょっとお目にかかれないのでは。ピカピカの蒸溜器と浸漬タンクが眩しくも麗しい。従来の設備は蒸溜釜内でボタニカルを浸漬し、そのまま蒸溜していた。
ボタニカルの浸漬タンクを新設したことで、浸漬温度や時間、攪拌の制御が可能になった。1日の蒸溜回数が増えただけでなく、ボタニカルごとに浸漬が調整でき、より高品質な蒸溜ができるようになったという。

生のジュニパーベリーの香りや味を知ると、これを蒸溜して飲みものにした発想に驚いてしまう。が、もともとジンは薬用だったそうだ。13〜14世紀ごろ、ネーデルランド(オランダやベルギーのあたり)で健胃剤、強壮剤として飲用されていた。
漢方でもジュニパーベリーは重宝され、鎮痛、抗炎症、血行促進、利尿、強壮、消化不良改善などなどの効用が期待されるとしている。なかなか体にいい実のようだ。これが薬用に留まらず、世界で愛される酒になったのは蒸溜方法の創意工夫、ボタニカルへの飽くなき探求があってのことだろう。
ジンの魅力は「厳選された多彩な素材と熟練のブレンド技術の掛け合わせ」と、サントリー大阪工場・矢野哲次工場長は話す。「ROKU<六>」なら桜の花や葉、柚子、山椒、それぞれの一番いいところの香りを抽出してブレンドする技だ。首の長ーい蒸溜器と、日本の自然を色濃く感じる素材にジンの魅力を感じた。
サントリー大阪工場スピリッツ・リキュール工房は2026年春から一般公開を予定している。日本の洋酒文化をリードしてきた大阪工場、その見学コースを楽しみにしたい。

