ライダーハウス&カフェ「雪月花廊」に泊まる | 日本の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2018.06.02

    ライダーハウス&カフェ「雪月花廊」に泊まる

    公共交通機関を使って移動し旅をする私。なのに、今回、バスが1日1本という超アクセス不便な羊蹄山(通称、蝦夷富士)の麓にあるこの宿(でも、バスが通っているだけでもありがたい! )に泊まろうと思ったのは、この入口にひとめぼれしてしまったから! 

    年月を重ねた木の看板、おもちゃ箱のようなデザインの文字と色使い。ココは、旧双葉小学校の木造校舎をリノベーションしたライダーハウス&カフェ「雪月花廊(ルビ:セツゲツカロウ)」。ライダーハウスというと簡素なイメージを思い浮かべる人もいるかもしれないが、ココはちょっと違う。簡素の真逆、ごっちゃり賑やか感満載! 初めて訪れたのに、木の一枚一枚から、様々な物語が溢れてくるようで、なんだか愛おしくなる。

    ちなみに、広い庭(つまり、旧校庭)では、キャンプも可能だ(キャンプは、小学生以上500円/泊、車の乗り入れは1台500円/泊)。ライダーハウスと名乗ってはいるが、ライダーのお客さんが他よりも少し多めなゲストハウスというイメージだ。ライダーさんは、各地の旅のお得情報をしりつくしていて親切な人が多く、私はとても頼りにしている。

    「ココでは、“かかさん”と呼んでくださいね」そう声をかけてくれたのは、宿の奥さんである舞子さん。どう見ても私と同年代なので、やや気がひける(汗)。が、さらに、びっくりワードが彼女の口から飛び出した!

    「うち、会員制なんです。入会されますか? 」

    か…会員制!? 銀座の高級クラブのようなモノですか!? ドキドキして、やや後ずさりする私に更に驚きワードを放つかかさん。

    「入会金700円で、何回泊まっても1泊素泊まり800円です」。

    はい!? 800円!?  4桁でなく3桁!? しかも、カードにはこう書いてある。“期限は旅を辞めるまで”旅心がうずいて仕方ない。もちろ即入会! 来た早々、次はいつ来ようかと脳内カレンダーをぱらぱらめくりはじめてしまった。
    ちなみに、ライダーハウスと名が付くトコロは、寝袋持参が必須なトコロがゲストハウスと少し違う点。なので、この激安値段には布団は含まれていない(布団貸出は別途料金)。

    「雪月花廊」の入口の看板をよくよく見てみると、ふと気付くコトがある。“雪月花廊”の後に“旧双葉小学校史料館”と文字が続いているのだ。その名のごとく、旧1・2年生部屋に、この小学校に通っていた人たちの当時の想い出がぎゅぎゅっと詰まっている。校舎とともに歩んで来た人たちの気もちも込められた「雪月花廊」。だが、しかし、史料館は想い出だけの場所ではない。各扉を開ける度に、パラレルワールドが炸裂するのだった!

    コチラの小さな図書室がライダーハウスとして使われているドミトリー部屋(男女別相部屋)となる。

    ドミトリー(男女別相部屋)のシンプルさに安堵して次の部屋の扉を開けたとたん、二度見してしまった。昭和レトロなレコードジャケットが、ところ狭しと貼りつめられた天井。一気に、昭和へタイムワープ。ちなみに、ココは浴室の脱衣所である(まったくそうは見えないけれど)。

    元々、研究室だった部屋は…アメリカンなビリヤード場に!

    かと思えば、コチラは昔なつかし昭和レトロな駄菓子屋! 創刊当初ぐらいの漫画雑誌に、ふんわりドレスをまとった縦巻きロールのフランス人形がズラ~ッと!  レトロ好きには、まるで宝探しの山である。アメリカから昭和初期に瞬時のワープ。ドラえもんのどこでもドアもタイムマシンもびっくりだ。

    そして、最後に入った部屋は細長い小部屋。1986年に廃駅となった地元・喜茂別駅にあった物々が時を止めたまま、そこにあった。鉄道好きでなくとも、当時の地元の人たちの生活の息遣いが感じられるようで、ウキウキしてくる。

    そして、さらに、その小部屋から別の部屋に行く扉を発見。指の先までドキドキしながら、ドアノブに手を伸ばす。次は、どんな世界にワープしてしまうのか!?

    な、なんでしょう!? ココは!? どこかの国のお城の一室ですか!? ライダーハウスに来たはずの私は、いつの間に、こんな絵本のような夢のような部屋に佇んでいるのか!? 脳内ぷちパニック! 聞けば、この「森の部屋」は通常3,000円/泊。会員なら1,000円/泊の追加料金で、この部屋に泊まれると言うではないですか! 私が即座に財布から野口英雄を一枚出したのは言う間でもない。(ライダーハウス用のドミトリー以外の部屋はすべて3,000円/泊で宿泊可能とのコト)

    ところで、みなさん、これらの写真を見て不思議に思うコトはないだろうか? (そもそも、存在自体、良い意味で不思議なのだけれど)「雪月花廊」には、なんでこんなにもたくさんのアンティークものが揃っているのか。それは、2017年秋に亡くなった「雪月花廊」の“ととさん”のコレクションであり作品なのだ。ととさんは、もちろん、かかさんの旦那さん。18歳年の差婚の、ゆったりおっとりしたご夫婦。3人の子どもたちは、旧双葉小学校の木造校舎であり、自分たちの家の一部である廊下や校庭を駆け回る。その一家の空気が宿全体に満ちていて、ずっとココに居続けていたいと思ってしまうほどの心地よさだ。

    ととさんは「雪月花廊」をはじめる前、骨董屋や駄菓子屋を営み、びっ●り●ン●ー等の店のデザインも手掛けていた方なのだそう。なるほど、納得である。子どもから大人まで、わくわくさせてしまう、宝探しのようなごちゃりデザイン。それぞれの品が放つ様々な個性が絶妙なバランスで混ざり合う。まるで、「雪月花廊」で出会った様々な人々が交じり合うように。

    今はかかさんと子どもたちで、宿とカフェを切り盛りしている。何か助けが必要な時には常連さんが颯爽と現れる。それは、きっと、亡くなったととさんを含む、雪月花廊一家の和やかさと包容力が、みなを引き付けて止まないのだと思う。

    カフェスペースも、もちろん、ととさんが集めたアンティークの数々がランダムに、かつ、心躍る感じに並べられている。とても、元職員室だったとは思えない。

    宿泊をしなくても、カフェ利用や各部屋の見学はOK! ランチタイムには近くで働いている農家さんが休みに来るコトも。

    私が訪れた頃。すでに病を患い、新しいコトが記憶できない状態だったととさん。そんな彼が、カフェの窓辺に座り、タバコをくゆらせながら、何度も何度も繰り返し語ってくれた言葉がある。

    「旧双葉小学校の地元の卒業生の人たちが、とてもよくしてくれるんですよ」

    それは、きっと、ととさんが心底、この場所を愛し、ココを愛している人たちをも信頼し大切にしていたからなのだろう。地元の人が立ち寄り、卒業生たちの想い出が詰まった部屋を作り、「想い」を途絶えさせるコトなく。

    だから、きっと、ととさんの「想い」も、これからずっと、この「雪月花廊」に温かく宿っていくと思うのだ。

    【データ】
    雪月花廊
    住所:北海道虻田郡喜茂別町中里392
    TEL: 0136-33-6067
    料金:ライダーハウス用ドミトリー(男女別相部屋、寝袋要持参)素泊まり800円/泊(初回入会費700円必要)~
    ※ライダーハウス利用可能期間は5月末~10月末
    その他の部屋 素泊まり3,000円/泊~(布団代込み)
    アクセス:JR倶知安駅から南バス伊達駅前行きで約1時間、双葉小学校前下車すぐ
    URL:http://kitasyarik.exblog.jp/

    イラスト・文・写真/松鳥むう(まつとり・むう)
    イラストエッセイスト
    離島とゲストハウスと滋賀県内の民俗行事をめぐる旅がライフワーク。今までに訪れたゲストハウスは100軒以上、訪れた日本の島は84島。その土地の日常のくらしに、ちょこっとお邪魔させてもらうコトが好き。著書に『島旅ひとりっぷ』(小学館)、『ちょこ旅沖縄+離島』『ちょこ旅小笠原&伊豆諸島』『ちょこ旅瀬戸内』(いずれも、アスペクト)、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)、『あちこち島ごはん』(芳文社)、『おばあちゃんとわたし』(方丈社)等。2018年夏には新刊『トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)発売予定。
    http://muu-m.com/

     

     

     

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