沖縄から日本へ入国、鹿児島トカラ列島へ
ヨットでなければまずこのパターンはないと思うのですが、私たちが鹿児島で最初に立ち寄った場所は、トカラ列島の悪石島(あくせきじま)でした。
これまでの旅で数々の離島を訪れてきた前田家ですが、今回ヨットで訪れる最初の日本の離島ということで、ここでの暮らしはどんな感じなんだろうと期待を膨らませて島へ向かいました。
悪石島の自然とカルチャー
トカラ列島は、全域が鹿児島県立の自然公園に指定されており、悪石島も「手付かずの自然」という言葉がぴったりなワイルドな自然が広がっています。それはまるで、自然の宝箱。地理的には大和文化と琉球文化が混ざり合う場所に位置し、源平合戦に敗れた平家の落人が流れついた言い伝えがあるなど、多様なバックグラウンドを持つ人々によって唯一無二の文化が育まれてきました。
天然温泉あり、大自然キャンプ場ありの島暮らし
火山島である悪石島では、湯泊温泉、砂むし温泉、潮の満ち引きを利用して入る海中温泉と、各種の温泉が楽しめます(海中温泉はかなり高温になることもあるため、お子様連れの場合は注意が必要です)。
私たちが訪れたのは梅雨の時期。雨が降っていたため砂蒸し風呂と海中温泉には行きませんでしたが、島民の方の憩いの場でもある湯泊温泉には連日お世話になりました。かれこれ2年以上湯船に浸かっていなかったので、たっぷりとしたお湯に感動。ようやく日本に帰ってきた実感が湧いてきました。
悪石島のワンダーカルチャー、「悪石島のボゼ」とは?
悪石島には興味深い数々の伝統行事が残されていますが、中でもこの島を有名にしているのは“仮面神ボゼ”の存在です。この聞き慣れない神様は、お盆行事の最終盤にやってきて先祖の霊と共に集まる悪霊を追い払い、人々の穢れを払ってくれると言われています。
また、ボゼ神が手に持つ棒は「ボゼマラ」と呼ばれる男根をかたどった棒で、先端に付けた赤い泥を塗られた女性は子宝に恵まれるという言い伝えがあります。そのせいか、実際に悪石島では子宝に恵まれる家庭が後を絶たないのだとか。
そんなありがたい神様、ボゼの姿(仮面のみ)が下の写真です!
写真を見てお分かりいただけるように、ボゼの仮面のサイズはかなり大きく、独特の見た目がかなり気になる存在です。なんでもこのビジュアルには南方の国の影響が考えられているそうで、日本古来の神々とは少々趣を異にした、なんともエキゾチックな神様なのです。
十島村立悪石島学園を訪ねて
さて、悪石島に興味が湧いてきた(かもしれない)ところで、今回の本題でもある悪石島の山海留学についてご紹介していきたいと思います。
私が初めて山海留学(※地域により様々な名称で呼ばれています)を知ったのは、以前の記事でご紹介した日本人セーラーのマキちゃんから、日本を出国する前に立ち寄ったトカラ列島の宝島の話を聞いた時でした。何でも小学生から中学生の子供たちが、親元を離れて島民の方の家にホームステイをしたり、寮生活をしたりしながら学んでいるのだとか(親と一緒の親子留学や島にいる祖父祖母に預ける孫留学の場合もあります)。
トカラ列島が属する鹿児島県十島村のホームページよると、山海留学とは「本土の小学校や中学校から生活の場を移し、離島の小学校や中学校に通学し、学校教育を受けつつ、自然を受け入れ、自然のすばらしさ、きびしさを学ぶことで、生きる喜びや自信、経験の領域を広げることを目的とした制度」とのこと。
留学と言えば海外に目を向けがちですが、国内にもそんな魅力的な選択肢があったとは。灯台下暗しとはまさにこのこと。日本に戻った時は是非チェックしようと思っていました。そんな中、日本寄港早々に噂の山海留学生を受け入れている島を訪れることができたことは、何かのご縁としか思えませんでした。
今回は実際に訪れてみて感じた悪石島での生活、学校の様子をリポートしていきたいと思います。
それでは、早速行ってみましょう!
島の中でも小高い場所に位置する小中一貫校「悪石島学園」に到着すると、まず目に飛び込んできたのは青々とした芝が美しい広大な運動場でした。
静かで安全、周辺の環境の良さは言うまでもなく素晴らしい悪石島学園ですが、離島の授業のレベルはどうなのか気になるところではないでしょうか。悪石島では小・中共に超少人数クラスで、先生はほぼマンツーマン体制というかなり贅沢な環境。これなら一人一人に目が行き届くため、授業についていけないとか、反対に簡単すぎてつまらないという問題もまず起こりません。これぞ極小規模校の強みと言えます。
さらに、悪石島は人口80名ほど(令和5年調べ)と小さなコミュニティではありますが、山海留学生が利用できる寮の寮館さんはフランス人と日本人ファミリーであったり、外国語指導助手の先生はニュージーランド人と中国人であったり、実は非常に国際色豊か。そのため、離島留学生にとっては島文化だけでなく、他国の文化にも触れることのできる絶好の機会に恵まれているのです。
以下、悪石島学園教頭の小窪先生のお話によると、「十島村の有人7島の学校は,今年度から小学校と中学校の9年間を一貫教育にした義務教育学校となり、名称も悪石島学園に変わりました。そのため、悪石島学園では後期課程(中学校課程)の先生が前期課程(小学校課程)の授業を行ったり(その逆もあり)、前期課程と後期課程の合同授業を行ったりするなど、前期課程と後期課程の隔たりが一層少なくなり、より柔軟で充実した教育活動を実施できるようになりました。また,6年生では卒業せず9年生で卒業式を迎えるところも、意外なところです」とのことでした。
どうやら離島の教育水準は驚くほど高い上に、ますます面白く進化しているようです!
私たちが悪石島学園を訪れたのは昼休みで、みんな保健室に集まって食後の歯磨きをしている最中だったのですが、まるで大家族の団欒を見ているような素敵な一幕として記憶に残っています。悪石島には、先生だけではなく島ぐるみで子供を見守ってくれる環境があるため、生徒たちはお互い顔の見える関係の中でのびのびと学ぶことができるのだと思います。学校は勉強をする場である以前に、子供たちが安心して過ごせる場所であって欲しいと願う親御さんも多いと思いますが、悪石島学園はまさに理想的な環境だと感じました。
楽しい昼休みはあっという間に終わり、生徒のみんなは授業へ戻り、私たちは帰路へ。悪石島学園のみなさん、ありがとう!
悪石島には小さな売店がひとつあるのみでコンビニもスーパーマーケットもありません。もちろん都会と比べると不便で、ないものが多いのですが、これは決してネガティブなことではなく、子供時代に「不便」や「ない」をクリエイティブに楽しむ術を身につけることは、その先の人生をより豊かにしてくれる最強の学びだと思います。
また、離島暮らしはお互いの協力なしには成り立たない部分も大きく、昨今問題になっている人間関係の希薄さとは無縁の世界。
広く浅くから、狭く深く付き合う関係は、それまでの価値観を一転させるくらいのインパクトを与えてくれる気がしてなりません。
子供たちがこの島での生活を通してどのように変化して逞しく成長していくのか、そしてその変化が受け入れ側の島にどのような好影響を及ぼしていくのか、
離島留学の可能性は本当に未知数で、そこにこそ面白さがあると思いました。
今回、山海留学の魅力を存分に感じた上で、こんな選択肢があることを一人でも多くの方に知ってもらいたい、そんな思いを強くしました。この記事が山海留学に出会うきっかけになれば嬉しいです。
山海留学で人生が変わる体験を!
詳細を知りたい方は、下記の十島村のホームページをご参照ください。
http://www.tokara.jp/resource/pdf/sankairyugaku.pdf
悪石島へのアクセス
日本の最後の秘境とも言われるトカラ列島ですが、現在は週2便で鹿児島本土と7つの有人島を経て奄美まで結ぶフェリーが出ています。ちなみに島民の方はこのフェリーの航路を「海の上の道路」と言っていて、妙に納得してしまいました。島の人にとって海上交通は宅急便のトラックくらい身近な存在なのかも。
フェリー情報
悪石島宿泊先情報
旅の宿 十和丸
TEL 09912-3-2107、080-1753-3225
※ボゼのお祭り期間中は、島の方はお祭りの進行に忙しいため基本的には民宿利用ができないそうなので注意が必要です。宿泊施設として開放されているコミュニティセンターや、BE-PAL読者の皆さんには前述のキャンプ場を利用した滞在もおすすめです!
4歳の娘と6歳の息子を連れて、セーリングヨットSANTANAで放浪中の4人家族。2022年3月、カリフォルニアを出航。寄り道をしながらゆっくりと世界一周を目指します。海の上でサステナブルな暮らしを模索中。
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