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    2024.05.17

    元祖地ビールの「サンクトガーレン」代表にインタビュー!他地域も巻き込みファンを開拓中

    サンクトガーレンの定番、左から「湘南ゴールド」(スイートオレンジエール)。「スイートバニラスタウト」、「ブラウンポーター」「ゴールデンエール」「アンバーエール」「YOKOHAMA XPA」(IPA)。ワールド・ビア・アワード、インターナショナル・ビアカップなど、国際的なコンペティションで受賞歴ある数々。

    クラフトビール好きの間では、つとに有名なサンクトガーレン。ビールラベルに記された「Since March 1993」。日本の地ビール解禁前からアメリカでビール造りを始めた生粋のインディペンデントであり、自他共に認める“元祖地ビール”。神奈川県厚木市に本拠を構えて27年。日本のクラフトビールファンを地道に開拓しつづけている。代表の岩本伸久さんにインタビューした。

    日本の“元祖地ビール”はサンフランシスコ生まれ

    1990年代はじめ、日本は地ビール解禁前。アメリカのサンフランシスコで、父とともに飲茶店を営んでいた岩本さんは、アメリカで流行しはじめていたクラフトビールの魅力に取り憑かれる。しかし日本では造れないので、サンフランシスコでブルワリーを立ち上げた。

    その当時、岩本さんが国税庁にビール製造の問い合わせをしたところ、「日本に小規模醸造所は不要である」と回答されたと言う。「おかしいでしょ?」と笑って振り返る岩本さん。

    その日本特有のビール規制をアメリカの雑誌『TIME』が取り上げた。岩本伸久さんの名は、「日本では禁止されているのでサンフランシスコでビール造りをしている日本人」として知られるようになる。ホームブルーが盛んだったアメリカでは、2,000キロリットル以下のビール醸造は禁止されているという日本の法律がずいぶん奇妙に見えたことだろう。

    90年代の日本は、規制緩和が急がれた時期でもあった。その規制緩和の目玉になったのが地ビール解禁だった。1994年のことだ。

    サンクトガーレンの会社名は、スイスにあるサンクト・ガーレン修道院から。中世、世界で初めてビール醸造を開始した修道院として知られ、世界遺産に登録されている。“元祖地ビール”としては “地”感のないネーミングである。本拠地は神奈川県厚木市で、最寄り駅は小田急線の本厚木。その理由も「たまたま見つけた土地が厚木でした。たしかに地元を意識してビール造りをすることはなかったですね」と岩本さんは話す。 

    本厚木のブルワリー。中央で作業しているのはブルワーのベンさん。

    マニア向けに造った「インペリアルチョコレートスタウト」がバレンタインにブレイク

    サンクトガーレンの名を全国区にしたのは、2006年に発売された「インペリアルチョコレートスタウト」だ。

    すでにペールエール、ゴールデンエール、アンバーエールなど正統派エールの数々が、多くのビールファンの喉を唸らせていた。そこに、ペールエールモルト、ウィート(小麦)、チョコレートモルト、ブラックモルトなど複数種のモルトを通常の3倍量使用したスタウトを発売した。どこまでも黒く、あくまでもビターなのに、風味がチョコレート。これがバレンタインデイにブレイクした。仕入れた横浜高島屋では、その日、朝8時から行列ができた。

    「もともとマニア向けに造ったビールなのですが、結局、彼らの手には入らなかったようです。バレンタインで売り切れてしまったから」

    一方、バレンタインのプレゼントとは別に自分用に買って飲んだ女性も多かったようで、「何これ? おいしい」とビール好きになった人も少なくなかった。しかも、彼女たちはこれを「安い」と言う。バレンタイン向けの数千円するチョコレートに比べたら、1000円少々の「インペリアルチョコレートスタウト」は安いわけだ。

    「なるほどなーと思いましたね。こういう人たちにもファンを広げていきたいなと思いました」(岩本さん)

    サンクトガーレンは「インペリアルチョコレートスタウト」を発売する前から、「バニラスタウト」「黒糖スタウト」と、チョコレートやデザートにも合わせられるビールを造っていた。

    「バニラスタウト」を最初に扱ってくれたのは、東京・自由が丘の名店「スイーツフォレスト」だった。バニラスタウトを使ったクレープをメニューに載せた。

     ビールの広告コピーについても得るものがあったと岩本さんは言う。

    「ビールを飲まない人に、“苦くないビール”と言っても伝わらない。でも、“チョコレートのようなビール”と言えば届く」

    もともと女性向けを狙ったわけではなかったが、結果的に「インペリアルチョコレートスタウト」の1本から、サンクトガーレンのファンが、もっといえばビールのファンが広がった。

    フルーツビールもそうだ。神奈川県の農業技術センターが試験栽培していた「湘南ゴールド」という柑橘類を、いち早く見つけ、その香りの良さを買ってビール原料に取り入れた。

    そうしてできたビール「湘南ゴールド」をオーダーしてきたのが、東京・恵比寿のスイーツバー。ミルクレープとマッチングして、スイーツファンに提供した。

    元祖サンクトガーレンファンの中には、「フルーツビールなんて邪道」と叩く向きもあったらしい。しかし、「湘南ゴールド」は着々とファンを獲得していった。まだフルーツ系ビールの少なかった時代、「これがビール?」と、その魅力にはまる人は少なくなかった。

    「スイートバニラスタウト」をソフトクリームのように! こんな楽しみ方の提案もサンクトガーレンならでは。

    湘南ベルマーレと組んでJリーグ初のオリジナルビールが誕生

     今、「湘南ゴールド」は、神奈川・平塚をホームとするJリーグ湘南ベルマーレのオリジナル「ベルマーレビール」でもある。

    近年は大阪セレッソ、東京ベルディ、ロアッソ熊本など、オリジナルビールをつくるチームが増えてきたが、その先陣を切ったのが湘南ベルマーレとサンクトガーレンのタッグだ。それも2009年、チームが低迷していた時期だった。

    「湘南ベルマーレさんからビールを造ってくれませんかと頼まれたときは、率直に言って嬉しかった。Jリーグチームのオリジナルビールなんてまだどこもやっていなかったし、何か面白いことができそうだと思いましたね」。“湘南”つながりで「湘南ゴールド」でオリジナルビールを造った。

    それをどこで売るか。サッカーの場合、野球のように試合中に「ビール、いかがですかあ?」はやりにくい。そこで、スタジアム前の公園にキッチンカーを出そうということになった。そのキッチンカーの壁に、タップを20も取り付けたのは岩本さんである。余談だが、資金も半分サンクトガーレン持ちだとか。

    湘南ベルマーレのホームゲームの日はサンクトガーレンのビールの日でもある。この日、飲まれたビールは895リットル! 左奥に見えるのが20タップを有する日本一タップの多いキッチンカー。

    これが思わぬ所で評判になる。FC東京戦で、大勢のFC東京サポーターが飲みまくっていったのである。FC東京のサポーターは食欲旺盛につき、アウェイでもスタジアムのフードを食べ尽くして帰ることから“イナゴ”と呼ばれているそうだ。彼らは湘南ベルマーレのサポーター以上に「湘南ゴールド」を飲んで帰った。当時サンクトガーレンの名は、地元より都市部において知名度が高かったことを物語る。

    しかし今、サンクトガーレンは同チームのスポンサーになっている。2019年のJ1参入プレーオフ(vs徳島ヴォルティス)で、サンクトガーレンは冠スポンサーも引き受けている。そしてJ1残留が決まった試合後、選手のビールかけ用ビールまで提供したというのだから太っ腹である。

    ところで、そのプレーオフは12月の寒空の下で行なわれた。ビールが大量に出る季節ではない。岩本さんはこの日「他サポ援軍割り」を打ち出した。湘南ベルマーレ以外のサポーターが、そのチームグッズを何かしら提示すれば、ビールを値引きするという変わったサービスだ。

    これが当たった。「浦和レッズです」「川崎フロンターレです」「横浜Fマリノスです」と、近隣チームのサポーターたちが続々と集まってきたのだ。ともすればオーバーエキサイトするプレーオフに、プレーオフとは直接関係のないサポーターたちが集まって、わいわいビールを楽しむという、いまだかつてない光景を生んだ。

    各チームのサポーターたちにとっても、「湘南ゴールド」の味は思い出に残るにちがいない。その名も記憶に残るかもしれない。そうしてサンクトガーレンのファンが、ひいてはクラフトビールのファンが全国に広まっていく、としたら素晴らしい割り引き作戦ではないだろうか。

    地産地消もいいけど他地域の廃果も取り入れて

    サンクトガーレンは、フルーツビールとして「湘南ゴールド」の前に「アップルシナモンエール」を発売している。2007年のことだ。「アップルパイみたいなビールを造りたいと思って」と岩本さん。

    「インペリアルチョコレートスタウト」のヒットでメディア露出が増えはじめたサンクトガーレンには、厚木市も注目した。「何か協力できることがあれば」とありがたい申し出があったそうだ。「そこで、リンゴを探しているんですと役所の方に話したら、長野県伊那市のリンゴを紹介してくれたんですよ」

    伊那市はリンゴの名産地。しかし、収穫されたリンゴの3分の1はキズや色、形が規格外であることを理由に出荷されない。岩本さんは、その大量の廃果を買い取ってビールにすることにした。

     「地産地消もいいんですが、よその廃果をビールにするのもいいなと思って。果物は日持ちがしないけれどビールにすれば一年中飲めるし、瓶ビールにすれば全国に届けられるしね」

     伊那市のリンゴを使ったビール「アップルシナモン」が高島屋に並べば、それは伊那市のリンゴの宣伝にもなるし、サンクトガーレンのビールは長野県伊那市で人気を獲得することだろう。そうやってお互いにファンを増やすことができる。

    長野県伊那市のリンゴをに仕入れる岩本さん。こんなにおいしそうなリンゴが出荷されないなんて!

    「春には伊那の桜を使ったビールを造ることにしました」。伊那の高藤城趾公園は日本三大桜の名所。それに因んで伊那の桜を使った「桜餅みたいなビール」を造るようになった。

    他地域の産品を使ったビール造りはホップでも見られる。山梨県北杜市で収穫される日本原産の「カイコガネ(甲斐黄金)」を使ったフレッシュホップを毎年秋に発売している。

    「カイコガネ」は北杜市が発祥の地で、1957年にホップ農家の浅川さんが偶然発見した品種。しかし70年代以降、日本のホップ農家は大手ビール会社との生産契約が切られて廃れていく。浅川さんは契約終了後も、カイコガネを根絶やしにしたくない一心で、栽培しつづけてきた。収穫しても卸先がないので、そのまま枯らしていたという。

    その廃棄されるカイコガネを岩本さんが買い取り始めたのが2012年。浅川さんが収穫したホップを全量、買い取った。それからは毎年、サンクトガーレン社員が総出で収穫。翌日に仕込み、2週〜3間後にフレッシュホップビールを出荷した。

    北杜市で毎年、カイコガネの収穫を手伝う。収穫いっぱい、充実感いっぱいの岩本代表。

    余談だが、今は2016年に創業した農園「北杜ホップス」がカイコガネの生産を引き継ぎ、畑を広げている。カイコガネの生き残りを支えたのは、サンクトガーレンの全量買い取りだったといっても過言ではあるまい。

     クラフトビールのファンを増やすことが営業だ!

     20244月現在、全国に700を超えたとされるクラフトビールブルワリー。今後、過当競争が展開されることが予想される中、多くのブルワリーはローカルのコミュニティや産物を積極的に取り入れている。サンクトガーレンも湘南ベルマーレのスポンサーを務めたり、地元厚木市のイベントに出店したりしている。それらに加え、サンクトガーレンはよそを巻き込んでビールファンを広げる取り組みが突出していると思う。 

    湘南ベルマーレではオリジナルビールだけでなく、柄の付いたカップホルダー“スタックカップ”を用意したり、ビアフェス用にネコのイラストのグラスを作ったり。

    ブルワリーにフラリとやって来た迷い猫をモチーフにしたネコグラス。キュートなグッズがクラフトビール目当てでなかった人の心に刺さる。

    何杯も積めるスタックカップはヨーロッパから直輸入。

    「これからのクラフトビールに必要なこと? それは販路を増やすことです。当たり前ですけど(笑) お店への営業というより、飲んでくれるファンを増やすことです。クラフトビールのつくり手はかなり増えましたけれど、消費量を見ればシェアはまだ1%台。限られたパイを取り合うのではなく、パイを増やしていく工夫がもっと必要だと思う」

    そしてコロナ禍の最中の202110月、サンクトガーレンの直営店第1号が、本厚木駅前にオープンした。

    タップルームのカウンターで。アフターヌーンティーに出てきそうなフライト用のタワーと岩本さん。背後の壁にはタップが20本!

    「やっぱり厚木の人にもっとサンクトガーレンのビールを知ってほしい。ビール好きになってほしいという思いがあります。オープンしてみると、地元の人がたくさん来てくれて、こんなにウチのビールを知ってくれてる人がいたんだって、感無量です」

    タップは20本。ここでしか飲めないビールもある。4種の試し飲みができるフライトはタワーに “たわわ”になってやって来るし、20種を一気にテーブルに並べて飲めるというビール狂向けプランもある。遊び心にあふれたアイデアが新鮮で、とにかく映える。サンクトガーレンの名を知らなくても、クラフトビールのファンでなくても、ついフラッと飲みたくなる魅力がある。

    サンクトガーレンのタップルームに来てみると、私たちが知っているクラフトビールの楽しさはまだ一部に過ぎないのかもと思えてくる。日本のクラフトビールを牽引してきたサンクトガーレンは、今もバリバリの最前線にいる。

     ●サンクトガーレン https://www.sanktgallenbrewery.com
    タップルーム 神奈川県厚木市中町2-2-1本厚木ミロード② 1

    私が書きました!
    ライター
    佐藤恵菜

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