つまようじ?糸ようじ?細長〜い魚「イシヨウジ」の不思議な生態を見てみよう
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    2024.03.02

    つまようじ?糸ようじ?細長〜い魚「イシヨウジ」の不思議な生態を見てみよう

    つまようじ?糸ようじ?細長〜い魚「イシヨウジ」の不思議な生態を見てみよう
    「イシヨウジ」という魚をご存じですか。ダイバーの間では、「つまようじ」とか「糸ようじ」といい間違えることもしばしば。

    今回は「楊枝」に似た、細長い魚の生態を紹介します。

    オスが卵を守る

    イシヨウジは「タツノオトシゴ」同様「ヨウジウオ科」の仲間で、オスの腹部に「育児のう」という子育てする器官があり、メスはオスの腹部に卵を産んで、オスが卵を守ります。 

    イシヨウジ

    イシヨウジ(写真左)と海底に落ちていた空き缶。

    体の模様は海底の岩肌や砂に似ており、擬態して気付かないことも多いです。

    イシヨウジの生息域を調べると本州~九州の沿岸、インド洋、太平洋域など広く分布しているようです。

    可愛い目に長い口

    キョロっとした可愛い目に長い口のイシヨウジ。

    浅瀬のサンゴ礁、岩礁、砂と小石が混ざったような海底に生息し、細い口でスッと吸い込むように小さなプランクトンなどを食べて生活しています。

    鹿児島県南さつま市笠沙の海中

    イシヨウジを観察しているフィールドの鹿児島県南さつま市笠沙の海中(水深5m)。

    海中でイシヨウジを見かけると遊泳せず、海底でじっとしていることが多いです。

    イシヨウジとの出会い

    私が海中でイシヨウジに注目するようになったのは2017年頃です。

    いつも潜るフィールドの鹿児島県南さつま市笠沙でバディと潜水中のことでした。

    海中でバディが急に指を差し、その先に細長い生物がペアで縦になりクネクネしながら浮遊していました。

    それが初めて見たイシヨウジの産卵行動だったのです。

    それから、このイシヨウジという生物はこんな動きをするんだ、と衝撃に思い海中でイシヨウジを見かけると観察するようになりました。

    イシヨウジを観察

    イシヨウジについて興味を持ち観察していると、午前中に活発に動く姿を見かけることが多く、ある休みの日に早朝から潜りイシヨウジの行動を観察してみました。

    日の出前の海

    海面がオレンジ色に染まる日の出前の海。

    まだ薄暗い海中を潜っていくと、岩やハマサンゴの上にいるイシヨウジを見かけました。

    オスとメス

    上がメスで、下の喉が青くなっているのがオス(全長13cm程・2019.5撮影)。

    すると早朝にイシヨウジはペアでいました。

    オスは胸びれ近くの喉部が美しい青色になっているのが分かります。

    オス同士の威嚇

    互いに喉を青くするオス同士の威嚇。

    観察しているとオス同士の争い、メスへの求愛の時にオスの喉部の青色が濃く出ることが分かりました。

    単体でいる個体は、ほぼ青色は見られず、ペアでいても青色が薄くなって消える時もありました。

    イシヨウジは昼間や夕方でもペアでいるのを見かけましたが、のんびりしている様子でした。

    イシヨウジの繁殖行動

    それから潜水する際は、イシヨウジを見かけるたびに行動をチェックしました。

    観察していると、ペアでいる、動きが激しい、呼吸が荒れているなど変化が多い時期を見つけることができました。

    私のフィールドでは3月中旬~4月末頃の午前中です。

    その時期は水温が17~19℃。

    1年で一番水温が低い時期から、少しずつ春に向けて水温が上がる時期でした。

    イシヨウジが活発な時期が分かり、観察を続けていると、激しく寄り添うペアに出会いました。

    他のペアもいましたが、どう見てもそのペアだけ距離感が近いことに気付きました。

    オスとメス

    左がオス、右がメス。

    ペアは尾が触れ合うように岩の上にいます。 

    体を起こすオス

    メス(下)と喉部を青くし体を起こすオス(上)。

    すると、オスが喉部を青くさせ体を起こしたのです。

    同時にオスの腹部の色が黒いことが分かります。

    オスは体を倒し、また体を起こす行動を繰り返します。

    メスを誘っているような様子です。

    ペアで体を起こす

    ペアで体を起こすイシヨウジ。

    オスの動きにメスが応じ、タイミングを合わせて体を起こします。

    ペアは体を起こす行動を失敗しながら何度も繰り返します。

    浮上するペア

    浮上するペア。

    そしてペアは息を合わせ、腹部を合わせようと、クネクネしながら浮上しました。

    サンゴの上まで浮上するペア

    シコロサンゴの上まで浮上するペア。

    浮上は個体にもよりますが、海底から30cm程上がり、浮上時間は大体1分程でした。

    浮上して海底に戻るまでペアはずっと腹部を擦り合いながら、メスはオスへ卵を受け渡します。

    腹部に卵が見える

    オスの腹部に卵が見える。

    観察していると、メスからオスの腹部へ卵が全部付着するまで1秒もないことが分かりました。

    メスはオスの腹部の上部に産卵管を当て、チューブから卵を出すような感じで一気に産卵します。

    卵

    オスの腹部に付着した卵。

    産卵後は、オスの腹部から卵が落ちないように、お互いに腹部を擦り付けて動きます。

    産卵前の腹部

    産卵前の腹部(左がオス、右がメス)。

    産卵行動の写真を見返すと、産卵前メスの腹部は少し膨らみ、オスの腹部は細いです。

    オスの腹部は卵を付着させると卵を包むようにして広がっているのが分かります。

    産卵中は周りにいるナガサキスズメダイがイシヨウジのペアに突っ込んできて、卵を食べるような行動も見られました。

    天敵が周りにいながら命を繋ぐ大事な行動なのです。

    イシヨウジの繁殖行動の動画 ←動画を撮影して観察してみました。】

    イシヨウジの産卵行動の条件

    昨年(2023年)は写真家さんのイシヨウジの撮影もあり、1シーズンでイシヨウジの産卵行動を数十回観察することができました。

    その産卵行動を観察したデータを確認すると面白いことが分かりました。

    ほとんどの産卵行動が午前中で、天気は晴れ、または曇りの日だったのです。

    曇りの日でも海中に少し日差しが入ると、イシヨウジの行動が活発になることに気付きました。 

    海面を見上げる

    海底から見上げる日差し。

    このデータがたまたまかもしれませんが、雨の日は全く産卵行動が見られなかったのです。

    卵

    オスの腹部から見える卵。

    その後、4月中旬~8月末頃まで抱卵しているイシヨウジのオスを多く見かけます。

    オスが抱卵中でもペアでいるのを見かけ、抱卵中のオスを単体で見かけた時は、海底にジッとしてプランクトンを捕食する姿が見られました。

    ミズガメカイメン

    ミズガメカイメンの表面のコブに体をはめるイシヨウジの群。

    ある夏の夜、抱卵中のイシヨウジが集団でミズガメカイメンという海綿の仲間の表面のコブに上手に体をはめて、6~7個体の群れでいるのを見かけました。

    別の夜にも、サンゴの死骸の表面が凹凸がある場所で、数個体の群れでいるのを見たことがあります。

    夜の海は怖いからみんなで一緒に寝るのかなぁ。

    それともオスの抱卵個体が集団で孵化を行う前の行動なのか?

    いろんな疑問ありますが、その後の観察はできていません。

    この行動がどのような意味があるのか今後もイシヨウジを観察していきたいと思います。

    撮影協力: ダイビングショップSB 

    ~陸編~

    夜行虫

    引き波で青白色に発光する夜行虫。

    イシヨウジの繁殖行動が活発になる3月中旬、気温も上がり海では赤潮が発生します。

    赤潮を見かけた浜辺に夜行くと青白い光が見え幻想的な夜行虫に会いました。

    海の不思議な現象を観察していると驚くような面白い出会いがあるかもしれませんね。

     

    私が書きました!

    自然・水中フォトグラファー
    鹿児島県知覧出身。 鹿児島市「ダイビングショップSB」の現スタッフ。
    地元、鹿児島を拠点に海中の魅力を日々発信中。 休日は身近な自然写真の撮影活動。
     海中生物の生態行動の観察を積み重ねている海のいきものブログ In

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