クラフトビールって結局なんだ?北海道「NORTH ISALND BEER」工場長がたどり着いた答え
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    2023.08.30

    クラフトビールって結局なんだ?北海道「NORTH ISALND BEER」工場長がたどり着いた答え

    札幌に創業して20年以上。北海道のクラフトビールの先駆者的ブルワリー、NORTH ISALND BEER

    彼らが手掛ける“クラフトビール”は、“地ビール”とは何が違ったのだろうか。今は札幌のお隣の江別市で操業するNORTH ISLAND BEERの工場長、多賀谷壮さんにインタビューした。

    NORTH ISLAND BEERの定番。左から「コリアンダーブラック」「ブラウンエール」「ピルスナー」「ヴァイツェン」「インディアペールエール」。

    カナダにルーツを持つ「ノースアイランドビール」

    NORTH  ISALND BEER(以下ノースアイランドビール)は2002年、北海道の札幌市に生まれた。創業時はカナディアンブルワリーという名前だった。なぜカナディアンなのか。

    多賀谷工場長は創業メンバーのひとりだ。

    創業前、多賀谷さんはカナダでオーダーメイドした小規模の醸造設備を輸入する会社に勤めていた。もともとお酒が大好き。ビールも大好き。いずれ、この会社がブルワリーを設ける可能性があり、その暁には自身もブルワーに。そんな夢を持っていた。まずは醸造設備の顧客への技術指導のためカナダに研修へ行った。

    NORTH ISLAND BEER工場長の多賀谷壮さん。28歳のとき、ビール醸造を「天職」と確信し、カナディアンブルワリーを創業。

    カナダで見たビールの種類の衝撃

    初めてのカナダ。初めてのバンクーバー。そして、初めて見るビールの圧倒的な種類。

    「衝撃を受けました。普通のリカーショップに2030種類のビールが並んでいるんです。地元バンクーバーにあるブルワリーのビールが多いのですが、その他の地域のビールも並んでいる。何といっても種類が多い」

    衝撃的と語るわけは、2000年当時の日本の状況とあまりに違っていたからである。

    多賀谷さんがカナダを研修で訪れた頃、日本のいわゆる地ビールは、それほどスタイルが豊富ではなかった。

    この頃の地ビールメーカーはドイツから醸造師を招き、技術を教えてもらいながら造っていた。ビールのスタイルは必然、ドイツ系が多い。地ビール時代によく見られたラインナップは、ケルシュ(ケルンで造られるエールタイプ)、アルト(エール)、ヴァイツェン(白)、シュバルツ(黒)にラガーを加えた5本柱だ。

    一方、カナダでは数え切れないほどの、まだ名も知らぬスタイルのビールが並んでいた。多賀谷さんは一気にビール醸造の世界に引き込まれていく。研修先のブルワリーでは50リットルという小さなタンクを使用し、1日5回〜10回もの仕込みを行い、充実した醸造研修を受けた。

    地元の人が普段から飲む「ローカルビール」を日本へ

    「当時のカナダではまだクラフトビールという呼び方はしていませんでした。ローカルビールだったかな。バーにも普通に何種類もビールがあって、お客さんが今日は何を飲もうかな、みたいに楽しんでいる。その姿も衝撃的でした。私自身ビールは好きでしたが、地ビールにはあまり親しみがなく、 “お土産”のイメージが強かったですね。でも、カナダのローカルビールは地元の人が普段から飲むものだったのです」

    こういう楽しみ方は日本ではまだごく一部のビール好きにしか知られていなかった。それだけに、「いろいろな種類が楽しめるなら、日本でもきっと広まるはずだ」と。

    2002年。現在のノースアイランドビールの会社代表になる起業家とタッグを組んで、カナディアンブルワリーを設立した。

    クラフトビールが浸透する前に誕生した先駆者的なブルワリー

    観光人気の高い北海道には網走ビール、小樽ビールなど、早くに創業した有名ブルワリーがあり、小さな地ビールメーカーもひしめいていた。しかし「たしか、私たちが創業したころは道内のブルワリーが半減した頃でした」と多賀谷さんが振り返るように、この頃、日本の地ビール市場は下降し始めていた。

    それでもカナダの衝撃と、起業家のチャレンジ精神で、札幌にカナディアンブルワリーが設立された。まだ日本ではクラフトビールという言葉は一般的ではなかったが、「この時期に、初めからクラフトビールブルワリーとして誕生した」という点で、先駆者的なブルワリーである。

    クラフトビールって結局何?

    ところで、地ビールとクラフトビールの違いって何?という疑問は今でもたびたび目にする。

    地ビールもクラフトビールも明確な定義はないし、ブルワーによっても飲む人によっても解釈はさまざま。いろいろあるところがまたビールの良さだと思うが、多賀谷さんに聞いてみた。クラフトビールって何でしょう?

    「つくり手が主体になって造っているビールではないでしょうか」

    つくり手の造りたいビールがクラフトビール。実に明快だ。

    「会社が大きくなればなるほど、より多くの人、不特定多数の人に買ってもらう必要があります。そうなると平均的な味のビールを造らざるを得ません。ぼくらはより多くの人をターゲットにするのではなく、このブルワリーが好きだと思ってくれる人によりたくさん飲んでもらいたいと考えています」

    定番も進化を続けるノースアイランドビールの信念

    ノースアイランドビールには現在、5種類のスタイルが定番になっている。定番というと、「変わらない味」を思い浮かべるものだが、

    「ぼくらは定番にもしょっちゅう改良を加えています。目指す味の90%まで実現されても、まだまだできることはある、と。常連のお客さんは気づいていますよ、味、変わったでしょ?って。前のほうが好きだったと言われることもありますが(笑)、ぼくらの目指すビールに近づくために変えていく」

    評価が定着したビールでも変えていく。これもつくり手主体のクラフトビールの特徴だろう。

    小麦の名産地、江別市で感じた原材料生産のジレンマ

    こうして北海道でクラフトビールを造り始めたカナディアンブルワリーだが、前述のとおり、地ビール市場が下降していく中、経営はやさしいものではなかった。醸造の他、一般の体験型ビール工房とレストランを運営して、なんとか乗り切ったという。

    それでもノースアイランドビールの売り上げは着々と伸びていった。2008年、カナディアンブルワリーは札幌市のお隣、江別市へ引っ越し、ブルワリーの規模も拡大。それまでひと仕込み150リットルだったのが1000リットルに。生産性が一気に上がった。

    江別市元町にあるノースアイランドビールのブルワリー。

    江別市を拠点として選んだ理由

    江別市を選んだ理由は、札幌に近いこともあるが、小麦の名産地だったからだ。「ハルユタカ」というブランド小麦の一大産地である。小麦はヴァイツェンの原料になる。

    江別市は、1985年に開発されたパンも作れる国産小麦ハルユタカの一大産地。ハルユタカは生産が難しく「幻の小麦」の異名も。

    地元産の原料を使いたい。ビールをまず地元の人に楽しんでもらいたい、地元に根づいたビールでありたいという気持ちがその基本にある。バンクーバーで見たように、地域の人がローカルのビールを普段から楽しんでいる、そんな光景を実現したい。

    小麦だけでなく、大麦やホップを生産できないかという案もあった。

    地元の農家に「大麦を作ってもらえませんか」と頼んだこともある。農家は引き受けてくれた。ただ、大麦はできたがそれを麦芽(モルト)にする技術が追いつかなかった。過去に宮崎ひでじビールや、佐賀アームストロング醸造所の記事でも触れたが、日本では大麦を麦芽にする専用工場が大手ビール会社のものに限られ、小規模ブルワリーがモルトを精製するハードルは極めて高い。苦労して麦芽に加工できたとしても、採算性を度外視せざるを得ない。

    「正直なところ、いいビールを造ろうと思ったら、自分たちで原料まで手がけるのはリスクが高い。それに麦芽ができたとしても、全量に使うほどはできません。一部しか入れてないのに“地元の大麦、使ってます”と謳うのはどうなのかなとも思いました」と、多賀谷さんは明かす。

    最近、ホップやその地域名産の果樹など、地元の生産者と協力体制を築き、ビール造りを地域の活性化につなげようとするブルワリーが増えている。また、麦芽カスを産業廃棄物にせず、飼料や肥料として地域で有効活用しようという動きも広がっている。これら地域社会との連携は小規模ブルワリーならではのよさがある。

    地元に根づいたビールのジレンマと日々の前進

    しかし、ジレンマもある。

    地元産の原料より海外産を仕入れたほうが採算性が高いという事実。ビールに限らず、日本産のさまざまな飲食品にあてはまるジレンマを、まだ若いクラフトビール業界がどう取り扱い、どうクリアしていくのか。こちらも注目していきたい。

    江別市では大麦はいったん見合わせたが、ホップ栽培は続けている。

    「ぼくらがアメリカから買った株で作ってもらっています。たくさんはできません。気候の特性もあります。収穫したホップでフレッシュホップビールを造ります」

    フレッシュホップビールは、ほとんどが地元で消費されるという。ノースアイランドビール、江別にあり。地元への感謝の気持ちである。年を経るごとに収量が増し、「今年は2仕込み分を見込んでいます」という。

     北海道のリーディングブルワリーとして世代交代も

    多賀谷さんがビールを造りつづけて23年。3年前、ヘッドブルワーを当時20代だった若手に譲った。

    「世代交代はあったほうがいいと思います。フランスのモードもそうですが、トップデザイナーがどんどん変わるでしょ。やっぱり若手の熱意やアイデアは、ものすごいものがあります」

    道内のブルワリーにも若手ブルワーが育っていると言う。上富良野に2017年に生まれた忽布古丹(ホップコタン)醸造は多賀谷さんの元同僚が起こしたブルワリーだが、ここでも若手のヘッドブルワーが腕を振るっている。

    すでに道内の若手のブルワーたちが技術交流会「Ezo Brewers Assemble」を結成し、情報交換をしながら道内のクラフトビールを引っ張っている。今年は12のブルワリー協働の新作を92日にリリースする。ノースアイランドビールの札幌市の直営店で開栓イベントが開かれる予定だ。

    BEER BAR NORTH ISLAND。札幌の大通公園から近く、夜景と北海道の旬の食材を使った料理も楽しめるスタイリッシュなバー。

    多賀谷工場長にもまだまだ造りたいビールはあるでしょう?とたずねると、「ありますよ。ただ、なかなかタンクが空かなくてですね」と笑う。

    今年8月、4年ぶりに札幌のビアフェス「サッポロビアフォレスト」が開催された。2013年から始まったビアフェスだが、その発起人の一角がノースアイランドビールだ。市内のビアバーのオーナーらと立ち上げた。今では札幌の夏のイベントの目玉のひとつだ。

    4年ぶりに開催されたサッポロビアフォレスト。札幌市中央区だが、町中から車で20分ほどのスキー場が会場。大賑わいの様子だ。

    札幌の夏といえば、大手ビールメーカー各社が出店する「さっぽろ大通ビアガーデン」が有名だが、クラフトビールのイベントもこうして根づき始めている。

    記者が7月にBEER BAR NORTH ISLANDを訪れた時、インバウンドも含めて店内は賑やかだった。市内にはほかにも小規模なブルワリーが誕生している。

    伝統的なうまさを追究するブルワリーもあれば、新しい味を追求するブルワリーもある。歩ける範囲にブルワリーやビアバーが点在する札幌は、ビールファンにとってうらやましい町だ。ここから新しいクラフトビールが生まれてくる予感もする。

    ノースアイランドビールのみなさん。真ん中が工場長の多賀谷さん。

    NORTH ISLAND BEER
    北海道江別市元町11-5
    https://northislandbeer.jp/

    私が書きました!
    ライター
    佐藤恵菜
    ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@ダイムでも仕事中。

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