「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と国連の事務総長が発言するなど、環境危機は世界共通の喫緊の課題である。
環境危機は国際的なアートシーンにおいても重要なテーマとされており、多くの展覧会が開催されている。そのひとつとして、今回は森美術館が2023年10月18日(水)から2024年3月31日(日)の期間に開催する展示会「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」を紹介しよう。

エミリヤ・シュカルヌリーテ《沈んだ都市》2021年 ビデオ・インスタレーション 9分33秒
私たちとは誰か、地球環境は誰のものなのか
本展のタイトル「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」は、私たちとは誰か、地球環境は誰のものなのか、というテーマを問いかける。
この課題に対し、現代アートがどのように向き合い、私たちの問題としていかに意識が喚起されるのか。本展では、世界16カ国ほど、約35人のアーティストが作品に込めたコンセプトや隠喩、素材、制作プロセスなどを読み解き、ともに未来の可能性を考えていく。
本展では国際的なアーティストによる歴史的な作品から本展のための新作まで、多様な表現を次のように4つの章で紹介している。
第1章「全ては繋がっている」
環境や生態系と人間の政治経済活動が複雑に絡み合う現実に言及。

ハンス・ハーケ《海浜汚染の記念碑》(《無題》1968-1972/2019年の部分)1970年 デジタルCプリント 33.7×50.8 cm Courtesy: Paula Cooper Gallery, New York © Hans Haacke / Artists Rights Society (ARS), New York
第2章「土に還る」
本展を日本の文脈から特徴づける章。1950~80年代の高度経済成長の裏で、環境汚染が問題となった日本で制作・発表されたアートを再検証し、環境問題を日本という立ち位置から見つめ直す。

鯉江良二《土に還る(1)》1971 年 陶 32×50×50 cm 所蔵:常滑市(愛知) 撮影:怡土鉄夫
第3章「大いなる加速」
人類による過度な地球資源の開発の影響を明らかにすると同時に、ある種の「希望」も提示する作品を紹介。

モニラ・アルカディリ《恨み言》(イメージ図) 2023年
第4章「未来は私たちの中にある」
アクティビズム、先住民の叡智、フェミニズム、AIや集合知(CI)などさまざまな表現にみられる、最先端のテクノロジーと古来の技術の双方の考察を通して、未来の可能性を描く。

西條 茜《果樹園》2022年 陶 130×82×82 cm 展示風景:「Phantom Body」アートコートギャラリー(大阪)2022 年 撮影:来田 猛
展示会自体が環境にやさしい点にも注目
本展で注目したいのは、サスティナブルな展示会制作を行っている点。
できる限り作品というモノ自体の輸送を減らすべく、展示会のスペースの半分を占める新作については、作家本人が来日し、日本で制作してもらうことを計画。アーティストを文化の媒介者と捉え、モノの移動よりも、人的なネットワークや繋がりを構築することにエコロジカルな価値を見出すという。
また、身近な環境にあるものを再利用した作品も数多く展示されるほか、前の展示会の展示壁および壁パネルを部分的に使用することで塗装仕上げを省略し、環境に配慮した展示デザインを実現する。さらに、資材の再利用による廃棄物の削減など省資源化にも取り組んでいる。

ニナ・カネル《マッスルメモリー(7トン)》2022年 海洋性軟体動物の殻を利用した造園材料 展示風景:「Tectonic Tender」ベルリーニッシェ・ギャラリー(ベルリン) 撮影:Nick Ash ※参考図版
環境危機を改めて考えるきっかけに
日頃から環境危機と向き合い、すでに行動を起こしている人はもちろん、そうでない人も、展示を目で見て、話を聞くことで感じる何かがきっとあるだろう。
約半年間と長期間開催されているので、ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。展示のスタートは10月18日(水)とまだ先なので、今から予定を立てておこう。
森美術館開館20周年記念展
私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために
会期:2023年10月18日(水)~ 2024年3月31日(日)
※会期中無休
開館時間:10:00~22:00
※火曜日のみ17:00まで、ただし2024年1月2日(火)および3月19日(火)は22:00まで
※最終入館は閉館時間の30分前まで
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
チケット料金等、詳しくは下記
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/eco/index.html