父は日本のシーカヤックの第一人者、娘はハワイの伝統的な外洋航海カヌーのナビゲーター
探検家・関野吉晴さんが、時代に風穴を開けるような「現代の冒険者たち」に会いに行き、徹底的に話を訊き、現代における冒険の存在意義を問い直す──BE-PAL11月号掲載の連載第16回目は、親子二代にわたって海洋冒険家の道を選んだ内田正洋さん・沙希さんです。
「べつに父に憧れていたわけではありません(笑)」、「自分のやりたいことで忙しかったから、娘は放任していました(笑)」と笑って語る冒険家親子。ふたりを冒険家に育てたのは何だったのでしょうか。関野さんが迫ります。その対談の一部をご紹介します。
関野吉晴/せきの・よしはる
1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人びとのルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。
内田正洋/うちだ・まさひろ
1956年長崎県生まれ。海洋ジャーナリスト。日本レクリエーショナルカヌー協会理事。1982年からパリ・ダカール・ラリーに8回参戦。1987年にシーカヤックと出会い、日本での普及に努めた第一人者。台湾から東京湾までの海域など各地をシーカヤックで漕破する。
内田沙希/うちだ・さき
1989年静岡県生まれ。神奈川県横須賀市の相模湾沿いで育ち、高校卒業後に伝統航海術を学ぶためにハワイへ。ハワイ大学機構カピオラニ・コミュニティ・カレッジ卒。2014年、ホクレア号の世界一周航海に参加。現在はニュージーランドに住み、航海カヌーを続ける。
「人生のほとんどすべては、海とカヌーから学んだことでできている」
沙希 GPSなどの機器は用いず、自然から得られる情報のみで進むべき道を見つけていくのが伝統航海術です。
関野 沙希さんはハワイからタヒチを経由してニュージーランドまで伝統航海術で約1万kmの航海も経験しています。どんなところが楽しいのですか?
沙希 2014年から2017年までホクレア号は世界一周航海をしました。そのとき、ハワイからタヒチ、ラロトンガ、サモア、トンガ、ニュージーランドという航海に見習いナビゲーターのひとりとして参加しました。6か月の旅でしたが、とにかく毎日が楽しかった。クルーとの関わり、海との関わり……。空いた時間には船尾から釣り糸を流して釣りをするのですが、魚がかかるだけでも楽しいんです。そして何よりナビゲーションで島を見つけられたときの鳥肌が立つような体験。ピュアな楽しさがたくさんあります。
関野 今後の抱負を教えてください。
沙希 もっと深く自然と対話できるようになりたいです。そして、私が得たものをたくさんの人、子供たちに伝えたいと思っています。自分の今の人生のほとんどすべては、海とカヌーから学んだものでできています。ホクレア号は生きていく上で大切なことを教えてもらえるところだと思うから、いつか子供たちと一緒に世界一周をしたいというのが夢ですね。
関野 生きていく上で大切なことって何でしょうか?
沙希 自然を知ること。それと仲間だと思います。
関野 お父さん。この娘さんを見てどうですか? 期待していたとおりに育ったんじゃないですか?
正洋 期待とか教えるとかはなかったですよ。自分のやりたいことをやるのに忙しかったから(笑)。そんな親を見て自分で考えればいいと放任していました。私自身もおやじに何も教わっていません。海の際に住んでいたという環境が私を育てた。沙希も同じように環境が育てたのだと思います。
この続きは、発売中のBE-PAL11月号に掲載!
公式YouTubeで対談の一部を配信中!
以下の動画で、誌面に掲載しきれなかったこぼれ話をお楽しみください。