発酵の町、沼垂がクラフトビールでゆっくりまったり再生中 | サスティナブル&ローカル 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2022.08.26 クラフトビール

    その土地、その場所だからできるビールがある。飲めるビールがある。ローカルを大事にするブルワリーのビールを飲みたい。第36回は、新潟県新潟市で「発酵の町」をアピールする「沼垂ビール」の代表、高野善松さんにインタビューした。

    左から「新潟オールデイズ」(オールドエール)、「荒波IPA」、「天の川ペールエール」、「佐渡番茶エール」。「新潟オールデイズ」のラベルは沼垂由来の日本画家、金子孝信の美人画を使用。

    38年ぶりに戻ってきた商店街はシャッター街

    沼垂。ぬったり。独特な響きがある。信濃川の河口近くに位置するこの町は、江戸時代後期から港町として栄えた。町中を流れる栗の木川の物流のよさから商業が栄え、中でも酒造、味噌、醤油醸造などの醸造業が盛んだった。明治時代後期には30ほどの醸造所が軒を連ねていたという。

    時代の近代化とともに、沼垂は石油精製、製紙業、鉄鋼など重工業の街として発展していく。1897年(明治30年)に北越鉄道線が開通、沼垂駅が誕生した。この駅がたどった道がおもしろい。工業地帯のターミナル駅として商業、大陸貿易や観光業も繁盛し、花街も形成されて賑わった。しかし戦後、1958年に沼垂駅を通らない“新しい新潟駅”ができると、乗客、特に観光客は激減。さらに北側に新港ができると工業地帯としての役目も廃れていった。2010年、貨物線として残っていた信越線が廃線になり、沼垂駅は廃駅になった。現在も、沼垂ビールのブルワリーから北へ1キロほどの所に、巨大な廃駅跡地がある。

    沼垂ビール代表の高野善松さんは、この町で生まれ育った。大学卒業後に地元を離れ、東京から38年ぶりに地元に戻ってきたとき、近所の商店街は、すっかり寂れていたという。

    高野さんの前職は、町の再生や事業立ち上げなどを手がけるプランナー兼コンサルタント。東京をはじめとした都市部で商店街の再生計画にも携わってきた。その中には阿佐ヶ谷、高円寺、中野の駅前アーケード計画もある。50代後半になって沼垂に戻ってきたとき、高野さんは「自分の手でものをつくる事業をしたい」と思ったそうだ。事業として選んだのがクラフトビールブルワリー。沼垂は酒造の町だが、ビールはない。設備投資の費用が比較的、安く済んだのがよかったと言う。

    さて、どんなビールにしようかな……。根がプランナーだから、ものを作るにあたってはまずコンセプトを定める。ふと目にした新潟県の観光パンフレットに、こんな見出しが踊っていた。

    「発酵食品の町、新潟」。

    自宅の1階を改修してブルワリーとブリューバーに。

    高野さんはピンとひらめいた。「発酵の町、沼垂ビール」。よし、これでいこうと。コンセプトが決まると、あとは早かった。2015年会社設立、20163月、クラフトビール醸造を開始した。

    醸造もビアパブで接客もこなす高野さん。「東京での仕事は忙しすぎて、もうやめようと」地元に帰ってきたが、ブルワリー仕事も忙しそうだ。

    和食のつまみによく合う沼垂ビール。ビールラベルは日本酒の隣にあっても違和感のないデザインに。

    ブルワリーを開いたら外から情報が集まってきた

    クラフトビールブルワリーを創業すると、予想以上にいろんな人が、いろんな話を持ってやってきた。もともと酒造メーカーがいくつもある街だが、日本酒のイベントから参加しないかと声がかかった。新潟県内の農業生産者から、ビールの原料としての農作物の可能性について、いろいろ声がかけられた。

    そのひとつに佐渡番茶がある。佐渡島に、障がいをもつ人などの自立支援を行なっている「チャレンジド立野」というNPO法人がある。その代表が、近年、人手不足などで減少の一途をたどる茶畑を守ろうとの畑を管理し、茶の栽培を通して障がい者などの自立支援につなげようと奮闘している。茶所でもある新潟県では毎年「お茶フェスティバル」が開かれているが、2019年、このフェスティバルの主催者から高野さんに相談があった。「お茶フェスで目玉になるお茶のアルコールをつくりたい」と。

    それがきっかけで、主催者から佐渡番茶を紹介してもらった。話を聞いて、佐渡島の茶畑の伝統を守りたい。そこで作業する人の役に立ちたい。そんな気持ちが重なって、高野さんは佐渡番茶を使ったビールを試作した。今では沼垂ビールの人気商品になっている。

    新潟市の産業振興課からは、西洋梨の規格外品を加工して使えないかと打診された。新潟市がブランド化を進める高級フルーツ「ル・レクチェ」だ。高野さんはル・レクチェの果汁を搾って何通りも試作した。

    「風味がいいのはもちろんですが、新潟にはがんばっている生産者さんがたくさんいるんですよ。私もビールでひと役買えるなら、と思って」

    大量に仕入れた規格外品を自ら加工し、ブルワリーの冷凍保存している。地元のフルーツを使用したビールは季節限定商品になりやすいが、沼垂ビールでは通年販売が可能だ。

    新潟県のブランド洋梨ル・レクチェの規格外品を仕入れて、ビールの原料に。

    地元の産品だけではない。たとえば高知県の特産品で知られる文旦を使った「文旦ウィートエール」。東京世田谷で人気のコーヒーショップのコーヒーを使った「イエイティコーヒーペールエール」。いずれも、高野さんの東京時代のネットワークから生まれたコラボビールだ。

    「外にいる人たちがすごく応援してくれていると感じます。クラフトビールを始めて、いちばんうれしい驚きですね」と高野さんは話す。「もちろん、地元の人に飲んでもらいたいビール。ただ、沼垂にだけこだわっていると広がらない。外を向いて、外から新しい人が入ってくるのがうれしい」

    お茶フェスに出店。佐渡番茶とのコラボビールが人気を呼んだ。

    沼垂テラス商店街から一本、路地を入ったところ

    実は、沼垂ビールを設立する少し前、衰退の一途をたどっていた近所の商店街にも再生計画が立ち上がっていた。商店街の大衆割烹屋の二代目が、シャッター街を一括で買い上げるという大胆な手法で、再生に向けてスタートを切った。2015年、シャッター街は「沼垂テラス商店街」として新たな一歩を踏み出した。

    商店街の再生といえば、高野さんの前職である。ベテラン中のベテラン。しかし高野さんは「ちょっとしたアドバイスはしたけれど」、外から見守っていた。「38年も離れていたから、地元の人からすれば、私も外モンの部類に入りますからねえ」

    再生を始めた商店街の空き店舗に、外から若い起業家がやって来て商いを始めている。花屋、パン屋、カフェ、居酒屋、北欧家具屋、ガラス工房、古本店……。昭和の残像が色濃い長屋の商店街が、新鮮でレトロでおしゃれな観光スポットに生まれ変わろうとしている。

    シャッター街を再生し、観光スポットになった沼垂テラス商店街。もとの長屋を活かし、昭和の雰囲気を残している。画像提供:沼垂テラス商店街

    その沼垂テラス商店街から50メートル、かつての沼垂の表通りに面したところに沼垂ビールのブルワリーとブリューバー沼垂ビアパブがある。テラス商店街は評判を呼び、新潟市内外から若者を惹きつけている。商店街のそぞろ歩きの終わりに立ち寄る人、近所の酒好きの常連も増えてきた。ジャズのライブが開かれる夜もある。独特のレトロ感漂う商店街の、その路地奥のビアパブ。

    ところで、「発酵食品の町」としてはどんな変化が? 高野さんはこんなふうに印象を語る。

    「そうですねえ、少しずつ、発酵食品醸造の町という歴史と伝統文化のある町であることにあらためて気づいて、誇りを取り戻しているように見えます。」

    たとえば最近は、老舗の酒造メーカーや味噌メーカーも沼垂ブランドを意識したマーケティング力を入れて、酒蔵見学、味噌蔵見学を行っている。外から来る人も受け入れながら次の町へ。発酵の町の再生と魅力の見直し。その発信基地のひとつが、7年前に生まれたクラフトビール、ブルワリーの存在だ。マイクロブルワリーとブリューバーのもつ可能性を教えてくれる沼垂である。

    沼垂ビール 
    所在地:新潟市中央区沼垂東2-9-5  
    https://nuttaribeer.co.jp

     

    私が書きました!
    ライター
    佐藤恵菜
    ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@ダイムやSuits womanでも仕事中。

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