真庭の豊かな農産物と発酵の技で地盤を固める!美作ビアワークスの挑戦
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    2022.07.01

    真庭の豊かな農産物と発酵の技で地盤を固める!美作ビアワークスの挑戦

    その土地、その場所だからできるビールがある。飲めるビールがある。ローカルを大事にするブルワリーのビールを飲みたい。第33回は、岡山県の真庭市のブルワリー、美作ビアワークス代表の三浦弘嗣さんにインタビューした。

    美作ビアワークスの定番4種。左から「セッションIPA」「ペールエール」「酒粕スペシャルエール」「ストロングスタウト」。

    タルマーリーでパンづくり、甲府でビール修行。そして地元で起業

    新大阪から3時間、岡山から2時間。鳥取県と県境を接する真庭市。北部に蒜山高原が広がり、湯原の温泉町、かつて出雲街道の宿場町として栄えた勝山の近くに美作ビアワークスがある。

    元給食センターだった建物をブルワリーに。清流で知られる旭川のすぐそばに建つ。

    2018年、真庭市出身の三浦弘嗣さんが起こした真庭市初のブルワリーだ。

    三浦さんは山口大学で発酵微生物の研究をしてきた。大学を卒業後、地元に戻り、当時は勝山にあったパン屋のタルマーリーで働き始めた。タルマーリーは酒種やビール酵母などの天然酵母でつくるパンで知られる。そこでパンづくりを学び始めた。しばらくすると、タルマーリーの店長がビールづくりも始めたいということで、三浦さんがビール修行に出ることになった。山梨県甲府のアウトサイダーブルーイング。日本のクラフトブルワリーの先人的存在のブリュワー丹羽智氏のもとでビールづくりを学んだ。

    美作ビアワークスの代表、三浦弘嗣さん。クラフトビールを飲んでビールが好きになったというクラフトビールネイティブ。

    身につけた技術と知識を活かして地元で起業する。真庭にはまだビールのブルワリーがなかったことから、パン屋ではなく、クラフトビールで起業することにした。真庭市は市町村合併により県内でもっとも広い面積を有するが、裏を返せば過疎化が進み、最新データによると人口は4万4000人(令和3年)。 

    それでも三浦さんは、ブルワリーを起こすにあたり地元に重点を置こうと考えた。岡山県内には実績のあるブルワリーがすでにあるし、近年、新しいブルワリーも増えている。ライバルの多い都市部に打って出る前に地盤をしっかり固めようと。

    ハチミツ、桃、柚子、うまいものはざくざくある

    地元に重点を置くとはどういうことか。

    まず販路。先述のとおり、真庭市の人口は少ない。地元の人がたくさん飲んでくれることは、あまり期待できない。だから、観光やキャンプで訪れる人たちが立ち寄る場所、お土産店、温泉宿、キャンプ場の売店などが主な販路になる。蒜山高原のふもとにはキャンプ場やサイクリングのコースが豊富だ。 

    恵まれているのは農産物も同じ。湯原の日本蜜蜂によるハチミツ。桃、梨、柚子、お茶などなど。美作ビアワークスは、こうした農産物を活かしたビールづくりを特徴とする。傷がついたりして出荷できなくなった農産品の有効利用になる。メリットは廃棄量の削減だけではない。

    「地元のものが使われていれば、お店にも置いてもらいやすい。お店の人にとってもお客さんに説明しやすくなります」というわけだ。

    お土産屋さんや温泉宿に、ビールに詳しい人がいるとは限らない。むしろ、いないと考えるほうが自然だ。観光で訪れる人も同様。そうした人たちに美作ビアワークスのビールを手に取ってもらうきっかけになる、そのフックが地元の農産品だ。

    たとえば、桃。「色づきとか形とかでどうしてもB品が出ます。農家さんも利活用したいと思っているし、ビールメーカーからすると色や形より量がほしい。あとは仕入れ価格。フルーツは全般に高いですから。地元の産品なら旬のものが使えるし、輸送コストも下げられます。フルーツを使ったビールは人気があるので、ぼくもなるべく使っていきたい」と話す。

    ただ、下処理にかなりの時間を要するという。桃も柚子も、ひとつひとつ、手で皮をむくのだ。

    「うちは醸造量がそれほど多くありませんが、それでも、皮むきに1日から一日半くらいかかります」

    フルーツ風味のビールをつくるにも、外国産の桃ピューレを買ってきて使えば、ふつうのビールの仕込みと手間も時間もそれほど変わらない。それが地元の産品を仕入れて、下処理から行なえば作業量は倍増する。クラフトビールのクラフトな部分といえるが、といって、ビールの値段を倍にできるわけではない。

    「おいしいものをつくるだけ。おいしければまた買おうと思ってくれるでしょう」

    廃棄予定だった桃を原料にした「桃ホワイト」。原料になった桃がラベルにプリントされている。

    研修先の山梨県甲府市のアウトサイダーブルーイングでは、地元の果物から採取した自然酵母を使うなど、さまざまスタイルにトライするブリュワーのもとで学んだ。醸造技術、設備のメンテナンス、店の経営方法なども惜しみなく教えてくれた。今、三浦さんの精神的な支柱にもなっている。

    「ブルワリーのみなさん、ホントに楽しそうにビールをつくるんですよ。醸造家、かくありきと思いましたね」

    ブルワリーの規模によるが、基本的に朝早くから仕込みを始め、タンクを空けたら入念な掃除、原料の仕入れとブリュワーは忙しい。

    「テイスティングをして満足げな顔をしている。口には出しませんが、“ええものできたな”みたいな。もっといいものつくるぞ、という顔をしていました。一生勉強、一生修行というか。自分も負けんようにつくりたいと思っています」

    もっと広がる真庭市のクロスオーバー発酵でコラボ!

    真庭市には古くからの酒屋、味噌屋、醤油屋など、高い発酵技術をもつ店がある。2012年にこうした会社が中心に「まにわ発酵’s」(まにわはっこうず)というチームを結成した。現在は7社が参加。蒜山高原のチーズつくり会社、山ぶどうを使ったワイナリー、そして美作ビアワークスも参加している。発酵技術をベースにした異業種のクロスオーバーチームだ。それぞれの技術を持ち寄って、新しい製品の開発に取り組んでいる。

    美作ビアワークスの定番ビールの1つに「酒粕スペシャルエール」がある。地元の酒蔵である御前酒蔵元辻本店の純米大吟醸の酒粕でつくったビールだ。酒づくりとビールづくりのハイブリッドともいえる酒粕使用のクラフトビールは、近ごろ人気が高い。「酒粕スペシャルエール」は、甘いフルーツのような香りと吟醸の香りが爽やかに広がるエールだ。7.5%とやや高アルコール、日本酒が好きな人とゆるゆる飲み交わしても楽しいビールだと思う。三浦さんは、さらに「まにわ発酵’s」のプロジェクトとして御前酒造元辻本店とのコラボ製品を計画中だ。

    今後の見通しもたずねた。現在、美作ビアワークスは仕入れから醸造、出荷、タップルームの管理など、代表の三浦さんがおおむねひとりで切り盛りしている。

    100リットルつくるのも1000リットルつくるのも作業量はそう変わりません。規模を大きくすることで売り上げは上がり、コストは下がるので、やはり設備規模を大きくしていくことを考えないといけません。SNSを使ったプロモーションにもなかなか手が回らないので」と、忙しい現状が伝わってくる。

    元給食センターを改修したブルワリーには、まだスペース的な余地はある。設備を増やし、人を入れ、醸造量を増やし、自分の時間を確保し、品質を確保すること。ただ、まだコロナ禍の行方がはっきりしないなか、新たな設備投資は大きな決断になる。

    コロナ禍のまん延防止重点措置が明け、客足は戻り始めているという。2年間できなかったイベントの主催者から出店のオファーがかかるようになってきた。

    「声をかけてもらえるのはうれしいですね。音楽イベントとか小さなイベントも増えてきました。知名度も少しずつ高まってきているようです」

    地元を中心に、商品を扱ってくれる着々と店は増えている。地盤を固めながら新たなビールづくりに挑む。そんなブリュワーの探究心があふれる美作ビアワークス。次作が楽しみだ。

    美作ビアワークス
    所在地:岡山県真庭市江川817-1 
    https://mimasakabeerworks.com

     

    私が書きました!
    ライター
    佐藤恵菜
    ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@ダイムやSuits womanでも仕事中。

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