元自衛官がバックパッカーを経て、辿り着いたのは茶畑!ゲストハウス『天空の茶屋敷』オーナーの歩む道 | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2022.04.27

    人がやらないことをやってみたい

    福岡県八女市でゲストハウスを営む坂本治郎さんは、元自衛官だ。高校を卒業後、自衛隊として6年勤務した。当時は、厳しいルールが山程あり、インターネットを使うことすら申請が必要だった。とても閉鎖的で、保守的な人が集まる組織は居心地も悪い。坂本さんは、その中でなんとか“普通でいよう”と必死だった。自衛官として生きていくことが自分の指名だと感じ、とにかくガムシャラに頑張った。しかしその向上心が空回り、苦労する日々も続いていた。そんな中、沖縄に転属したことがきっかけで坂本さんの人生は大きく転換していく。

    「21歳で沖縄に転属。それから休日を使って離島に旅行に行き始めました。向上心がバカみたいにあったので(笑)、見聞を広げようと思ったんです。自衛隊は、旅行に行くのも申請が必要なんですよ。そもそも休日に旅行に行く人なんていないから、ビックリされました」

    旅行に行くようになって、ますます「変わった人」扱いされ始めたが、そんなことは関係なく、坂本さんはその世界にどんどんハマっていく。新しいことを知れることが楽しくて仕方がなかったのだ。

    「旅行をするようになって初めてゲストハウスを知りました。泊まってみると、フレンドリーな人がたくさんいて、話もおもしろい。自分がいる世界とはまったく違う人たちとの出会いでした。当時は今と違ってノマドワーカーも少ないので、そういうところに泊まっている人は社会の流れ者みたいな人が多くて(笑)。逆にそれがとても刺激的でした」

    ゲストハウスで出会う旅人はみな、海外の旅もしていた。自由気ままに行く、バックパッカー旅。彼らの話は魅力的で、いつしか坂本さんも海外に行きたいと思うようになっていた。

    「初めて行ったのは台湾です。ゲストハウスで出会った人たちが『何も決めていかなくても大丈夫』というのを鵜呑みにして、ホテルも決めずに行きました。中国語もできなければ英語もできないので、漢字を使った筆談で目的地に行ったり、謎解きゲームをしているようでしたね。台湾は日本に比べていろんなものが整理整頓されていなくて、それがおもしろかったです。コンビニに野良犬が入ってくるなんて、日本ではありえないですよね。カルチャーショックの連続でした」

    外の世界を知った坂本さんは、もっともっと深く知っていきたいと思い始める。それと同時に自衛隊としての生活では、どんどん異質な存在となっていく。ついに坂本さんは自衛隊を退職し、旅に出ることを決めた。

    「僕は、人がやらないことをやるのが好き。高校のときに何も繋がりのない自衛隊に入隊することも、僕にとってはワクワクすることでした。未知なる世界へ飛び込むことは、不安よりも楽しみが勝つんです」

    人生は一度きり。どうすれば楽しく生きられるかと向き合っている

    旅に出てから約3年は、日本に戻らなかった。いったん帰国してからも定期的に海外へ行き、トータル2000日にも及ぶ放浪で65か国を訪れた。日本以外の国は、これまでの世界とのギャップが大きく、毎日が刺激的だった。カナダではスラム街のゲストハウスに泊まり、犬ぞりのバイトも経験。あえて日本人の少ないバイト先で働き、英語も習得。ヒッチハイクで大陸の横断もした。

    「24歳で旅に出ると決めたとき、反対もされましたが、後悔する人生は送りたくないと思いました。やりたいことをやらないで死ぬほうが怖いと思ったんです。ドキドキやワクワクする時間が多いほど、豊かな気持ちも増えます。『これもできた』が増えていけば、自分のレベルも上がりますしね。経験が僕の糧となって、次にチャレンジすることへの可能性へと繋がる。自分の背中に羽が生えたような気持ちになっていました。旅をしているときは、とくにその思いが強かったんだと思います」

    旅の中でさまざまな人との出会い、そしてチャレンジを繰り返し、坂本さんの価値観はどんどん変化していく。

    「旅に出る前の僕が将来何をやるかって考えたときに、アイデアすら浮かばなかったように思います。体を鍛えるのが好きだったので、その狭い知見で浮かぶのはスポーツインストラクターでしょうか。自分がどんなことができるのか、何もわからなかった。旅に出ていろんな生き方をしている人を知ったことで、自分も何かできるかもしれないって初めて思えたんです。話を聞く、経験する、チャレンジして、たとえ失敗したとしてもその中で自分の可能性を感じることができる。そういう意味でも海外放浪は僕にとって”いい投資”だったと思っています」

    常に向上心が高く、何でも飛び込んでいく坂本さん。行動することへの原動力は「好奇心」のひと言につきるという。

    「人生は一度きりです。だからどうすれば楽しく生きられるかを考え、向き合いながら日々暮らしています。結果はあとでついてくるものなので、まずはチャレンジすることに価値がある。努力することで成長するし、成功すれば成功体験として自信に繋がりますしね」

    自分ができることで周りの人を喜ばせたい

    海外放浪は、自分が住みたい国を見つける旅でもあったが、最終的に坂本さんは日本に戻ることを決めた。その理由は、生きやすい場所は「どこに住むか」ではないことに気づいたからだ。

    「日本は窮屈で逃げたいと思っていました。自分が楽しく生きられる国を探したい。その一心で旅を続けていたんです。旅をする中で何度か海外移住できるかもしれないタイミングはあったのですが、いつしか『生きやすさ』は場所や国は関係ないと思い始めていたんですね。それよりも『誰とどう生きるのか』のほうが大事だと思って。自由な国が必ずしも楽しくて幸福度が高いとは限らない。自分がやりたいように暮らして、生きたいように過ごせれば場所は関係ないんだと思いました」

    そうして約6年にも及ぶ海外放浪を終え、日本に帰国。その後は田舎に住みたいという思いもあり、空き家となっていた祖父母の家がある福岡県八女市に移住した。暮らし始めると、世界中で知り合った人々が坂本さんの家を訪れ始めた。地域の人を繋げる活動を思いつき、名産でもある「八女茶」のお茶摘み体験や工場の見学ができる「八女茶ツアー」を開催。訪れた人からも地域の人からも好評となり、小さな集落の中で坂本さんの名は有名となった。すると、集落の人から空き家を譲り受けてほしいという話が舞い込んできた。それを拠点に本格的にゲストハウスを開業することを決め、2017年「天空の茶屋敷」をオープンする。

    「移住した最初の頃は、あまり経済活動をしないで暮らしていきたいと思っていたんです(笑)。日本社会の嫌な面とかかわらずに生きていくほうが幸せだと思っていたし、僕をおもしろいと思ってくれる人のみとの繋がりで十分だと思っていました。でも地域の人との交流などを通してその気持ちも少し変わってきていて。今も『楽しく生きたい』という思いは変わっていませんが、自分ができることで周りの人が喜ぶのであれば、積極的にやっていきたいと思うようになりました。それを続けている結果が、八女茶ツアーであり、ゲストハウスのオープンなんです」

    コロナ禍でありながらも田舎に滞在したいという需要が多かったおかげで、経営もなんとか順調だそう。

    「海外のお客様はいなくなりましたが、その分、県内の人が増えました。ノマドワーカーや移住希望者が増えているのも、後押しになっているんだと思います。うちに何日か住んで、働いてみたり、地域の人と親しくなってから家を探す人も多いですね。仕事を選ばなければいくらでもありますし、この地域であれば月に10万もあれば豊かに暮らせます。庭で焚き火をしたり、のんびり暮らすのを求めている方には十分な生活が送れますよ。あとはおじいちゃん、おばあちゃんが好きだと、より楽しめると思います!」

    たくさんの挑戦を続けてきた坂本さんが次に目標とするものは、日本一周だ。

    「八女茶の行商をしたいと思っています。北海道でリヤカーを調達して歩いて日本を縦断したい。旅は思い出を作れて、人生を味わい深くできる最高のエンタメ。学びも多いですし、普通では見られない景色ばかりと出会えます。それを次は八女茶を販売しながら旅をするという新たな方法でやってみたいと考えているんです」

    坂本さんの旅エッセイが発売中!

    坂本さんが経験した2000日の旅を綴ったエッセイが発売中です。楽しいばかりではない!? 珍事件や旅でしか出会えない人とのエピソードなどが語られています。

    2000日の海外放浪の果てにたどり着いたのは山奥の集落の一番上だった

    1650円(書肆侃侃房)

     

    構成=中山夏美

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