登山家・花谷泰広さんが、安全に下山するためにやっていること | 山・ハイキング・クライミング 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2021.09.24

    登山家・花谷泰広さんが、安全に下山するためにやっていること

    “登山界のアカデミー賞”とも呼ばれる「ピオレドール賞」を受賞した、超一流登山家・花谷泰広さん。山岳ガイドでもあり、さらに山小屋運営も手がけるなど、その活躍は八面六臂。そんな花谷さんに、秋山の特徴や登山のリスクマネジメントの考え方、山小屋運営についてお話を伺いました。

    第2回は、花谷さんの冒険的登山のお話と、私たちの登山にも通じるリスクマネジメントの考え方についてお伺いします。~1回目の記事はコチラ

    最も大切なのは「安全に下山できる」こと

    ピオレドール賞を受賞したキャシャ―ル峰登山での花谷さん(2012年)

    B: 海外の冒険的登山に挑戦する時、やはり怖いと思いますか?

    花谷: はい、常に怖さはありますね。

    B: そんな時、どのように登山へ向き合うのですか。「これなら大丈夫」という判断の基準があるのですか?

    花谷: うーん、根拠はないんですよ…。でも、やっぱり経験の引き出しの多さだと思います。それまでの経験から、この状況だったら大丈夫とか、それはちょっとまずいなとか判断します。僕は、基本的に山で全力を出したことは一度もないんです。常に力のマージンを残しているわけですよね。そのなかで、ちゃんと完結できるかどうかを考えています。山のコンディションだけでなく、自分の体調もかかわってくると思いますが、「ちゃんと帰ってくる」ということに対して不安を感じたら、帰ったほうがいいです。登って終わりじゃないし、だいたい登山は下りのほうが怖いので。

    B: 下りも含めたうえで、自分の経験値で対処できそうかどうかということですか。

    花谷: そうですね。ルートによっては、頂上を越えて反対側に下りたほうが安全だったりする場合もあるわけです。そこは自分の置かれた状況で判断が変わってくると思います。
    どんな登山でも常に念頭に置いておかなきゃいけないのは、「ちゃんと帰ってくること」「安全に下山すること」。それに対して不安を感じるのであれば、先に進むのでなく、どうやって安全に下りれるのかというほうに頭を切り替えていったほうがいいのかなと思います。でもヒマラヤでの登攀などでは、途中で下りるより、頂上に抜けるほうが安全に帰れることも多いので、結局先に進む選択をしたりもしますけどね。

    実体験による“引き出し”の多さが、新しい挑戦を後押しする

    過酷さも登山の魅力のひとつ(写真=甲斐駒ヶ岳での花谷さん)

    B: 私たちが、知らないエリアの山に行ったり、長期縦走や雪山に挑戦したりと、今までと違うことにチャレンジしたい場合に、どのようにリスクを判断すればよいでしょうか。

    花谷: やはりそれまでの経験がどれだけあるか、経験で対処できるかどうかです。誤解を恐れずに言うと、死なない程度の失敗を積み重ねるっていうのは、登山においてすごく大事だと思うんですよね。そこで「ああ、これはまずかった、失敗だった」と気づくわけじゃないですか。
    ただ山の場合は、ちょっと痛い目に遭うのでなく、本当に痛い目に遭ってしまうこともあるし、最悪命を落とすというリスクも当然伴っていますので、それは注意が必要です。でも、そもそも自然を相手にするスポーツは山登りに限らず命が懸かっていて、そこもまた魅力だと思うんですよね。それがなくなったら山登りの魅力って半減すると思っています。だったらVRでいいじゃんとか思うわけです。
    山登りは判断の連続です。この一歩、この判断を間違えると死ぬかもしれないっていう意識を、常に頭の片隅に置いておくのがすごく重要な気がしますね。

    海外の山は「雄大」、日本の山は「繊細」

    季節の移り変わりを感じる日本の山

    B: 海外の山の魅力と日本の山の魅力を、それぞれ教えてください。

    花谷: その質問よく聞かれます(笑)。海外と日本の山の違いは「雄大さ」と「繊細さ」だと思っています。どちらも魅力があって好きですよ。

    B: 海外の山は「雄大」ですか…。スケールが違うんでしょうね。

    花谷: やっぱり海外の山は大きいです。ヒマラヤ登山などは旅みたいなものです。これだけ便利な時代になっても、なんだかんだ1カ月以上行っているわけです。それで登る山はたった1座っていう(笑)。しかも実際にベースキャンプより上で登山する時間がどれぐらいかって言ったら、そんなにないんですよ。1カ月半ぐらいの期間で、10日間くらいしかアイゼン履いていなかったりする。あとは麓で歩いたり、高度順応したりしているわけで、ものすごく効率悪い(笑)。でも、それも日本では味わえないところだと思うんです。

    B: 日本の山の繊細さはどういう部分ですか。

    花谷: 四季ですね。たとえば、僕が運営している山小屋がある甲斐駒ヶ岳では、秋になるとどんどん紅葉が進んで、その後すぐに雪に覆われる。それが春になると全部消えるわけです。すごい変化ですよね。海外の山は、麓だとやや変化はあるけど、基本的には大地と氷と岩で、日本よりは“大味”ですね。日本は、四季それぞれで景色や色々なものが変わるので、すごく繊細に感じられます。

    B: ありがとうございます。今はコロナ禍ですが、いつか自分も海外の山を訪れてみたいです。さて次は、花谷さんが2017年から携わる、甲斐駒ヶ岳の七丈小屋の運営についてお話を伺いたいと思います。

    (⇒第3回<9月25日配信>に続く)

    取材・文=横尾絢子

    プロフィール
    花谷泰広(はなたに・やすひろ)

    1976年兵庫県生まれ。幼少から六甲山で登山に親しむ。1996年にラトナチュリ峰(ネパール ・ 7035m)に初登頂。以来、世界各地で登山を実践。2012年にキャシャール峰(ネパール・6770m)南ピラー初登攀で、ピオレドール賞を受賞。2015年より若手登山家養成プロジェクト「ヒマラヤキャンプ」を開始、2017年より甲斐駒ヶ岳黒戸尾根の七丈小屋の運営を開始するなど、国内外で幅広く活動中。(日本山岳ガイド協会認定・山岳ガイドステージⅡ)

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