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山を疾駆するトレイルランニングとは

舗装路を走る一般的なランニングと異なり、未舗装の山中を走るのがトレイルランニングです。平坦路が少なく凸凹の路面が続く山の中を、まさに韋駄天の如く駆けていきます。ハイキングと比べて非常に軽量な装備と身軽なウェアを着用して登る姿は、それと見てすぐトレイルランナーと分かるほど。
少しトレイルランニングの歴史にも触れると、1970年代にカリフォルニア州オーバーンで開催された大会が発祥とされています。とはいえ山中を速いペースで駆けることはそれ以前よりあったことから、トレイルランニングの起源は非常に古く、永い歴史があります。日本も例に漏れず、山を速く走るという歴史は長く、近代では現在も続くハセツネCUPをはじめとして、多彩なトレイルランニングレースも開催されるなど、山行の一形態として、独自の文化を形成しています。
トレイルランニングの魅力
圧倒的な軽快感

トレイルランニングの魅力を語るうえで欠かせないのが、その圧倒的な軽快感です。私は縦走登山や沢登りなど、色々な形態で登山を楽しんでいますが、走り出した瞬間から感じる羽根が生えたかのような感覚は、トレイルランニングが持つ唯一無二の魅力といえます。足取りは軽く、走るリズムに合わて繰り返す呼吸がとても気持ちよく感じられ、肌を通り過ぎていく風は、同じ山なのにハイキングとは違うビジョンを見せてくれます。
成長を実感できる
トレイルランニングは、登山カテゴリーでは数少ない競技性を持ったアクティビティではないでしょうか。この競技性を通して得られるのは「自分自身の成長」です。山頂を目指す行為の中に「いかに速く到達するか」はランナーであれば誰しもが意識します。
山頂までの所要時間を計算しながらペースを決めたり、必要な装備や補給のタイミングを見極めるなど、試行錯誤とトレーニングを繰り返すことで、そのタイムは如実に速くなっていきます。年齢を重ねると「成長」という実感がなくなるものですが、トレイルランニングは、何歳になってもこの感動が享受できるので、止めたくても止められない魔力を秘めています。
自分と向き合う時間

身体のコンディションだけでなく、メンタルによってもタイムや走りに影響するのがトレイルランニングです。走りながら自分のコンディションに気づき、整理することに集中する時間はとても貴重なもので、走り終えた頃にはとても晴れやかな気持ちになります。自分自身の状況に気づいていく時間は、街の中で生活していると得られないものです。自分に集中して向き合う時間を作れる特殊なアクティビティです。
身軽な装備で遠くまで

身体を絞り、軽量な装備で走るトレイルランニングは、ハイキングなどに比べて登る山の選択肢が広がる点も見逃せません。速く山に登れれば、これまで所要時間の関係で登れなかった遠い山に行けるようになります。健脚になれば、1泊相当の山を日帰りということも可能になります(登山の派生形態という考えです)。コースを変えたり登る山を増やしたり、馴染みのある山域でもより新しい視点で登ることができます。
トレイルランニングの始め方
まずはウェアとシューズを揃えよう

トレイルランニングを始めるうえで揃えておきたいのが、身につけるウェアとシューズです。専用のバックパックもありますが、もし手持ちで軽量なバックパックがあれば、まずはそれを使っても大丈夫です。
「ウェアは登山用じゃダメ?」「シューズはランニング用が使えるかな」と思うでしょうが、ウェアとシューズ、それぞれトレイルランニングに向いたアイテムを使うことで、安全に始めることができます。ウェアは化繊でスポーツ用の速乾性の高いものがおすすめで、これはランニング用でも問題ありません。登山用のウェアでも化繊やトレイルランニング向けのモデルがあればそれで大丈夫ですが、綿をはじめとした、重たく厚く、乾きにくい素材は不向きです。
シューズはランニング向けが使えなくはないですが、滑りやすく凸凹した山中の路面に対応できるグリップ力や防水性、耐久性などが求められます。一見して同じローカットシューズに見えても、ランニング用より専用モデルがおすすめです。
距離の短い低山からゆっくり走る
トレイルランニングは山を走るため、身軽とはいえ体力を使い、慣れないうちはハイキングより怪我のリスクも上がります。まずは半日程度で登れる標高1,000m以下の低山で、ハイキングより速いペースで登ってみましょう。また、登りでは走らずハイペースで歩き、平坦路は走る、下りは無理のない範囲でペースを上げることを意識すれば、気持ちの良いトレイルランニングが楽しめます。
専用のバックパックを使ってみよう

トレイルランニング用のバックパックは、走行中にバックパックが揺れないよう極めて高いフィット感を有しています。背負っていると荷物の揺れもほとんど感じず、揺れによるバランス調整も必要ないため、体力を削ることなく走ることに集中できます。トレイルランニングをはじめる時に揃えるのもよいですが、長く続けられるか不安な方は、前述のように手持ちで軽量バックパックがあれば、まずはそちらを使ってスピードハイクから楽しむのもアリです。
走るを習慣づける
トレイルランニングを始めて山で走るのが楽しくなったら、日常でも少しずつ走る習慣をつけてみましょう。最初は1kmや2kmと短い距離から走ってみて、徐々に5km・10kmと伸ばしていくことで、山で走る時の変化を如実に感じることができます。ペースも週に1回・2回と無理のない範囲でスタートして、徐々に頻度を上げていくことで習慣化していくのがおすすめです。
「毎日走ろう」と無理すると習慣が定着しないので「自分が楽しめる範囲で」というのがよいです。
ペースを上げてみよう
経験を重ねてきたら、走るペースを上げてみると、トレイルランニングで見る景色も変わってきます。何度も登った山でも、ペースを上げて自分を追い込んでみると、ちょっとした勾配の変化を繊細に感じるようになり、どこが危ないか、ペースを上げるならどこかなど、様々な気付きを得られます。
トレイルランニングで注意するポイント
人とのすれ違い・追い抜きはゆっくり丁寧に

トレイルランニングは道幅が狭い登山道や急勾配の階段を上がるなど、人とのすれ違いが困難な場所が多くあります。ハイカーや観光者とすれ違う際は、人が見えてきたらゆっくり歩き、無理なくすれ違えるようにしましょう。
装備は安全なものを

トレイルランニングに必要な装備は登山の基本装備とあまり変わりなく、レインウェアやヘッドライト、現在地が分かる地図などが必要です。トレイルランニングの性質上、軽くコンパクトなものがよいですが、軽量コンパクトを意識するあまり、機能性を大きく落としたものにも目がいきがちになります。軽量コンパクトなものは魅力的ですが、防水透湿性をはじめ、必要な機能や耐久性がしっかり備わっているかを見極めましょう。
トレイルランニングで山を走り尽くそう
トレイルランニングは山を駆ける登山形態で、速く移動できるだけでなく、普段の登山やランニングとは違う景色を見ることができるなど、魅力が詰まったアクティビティです。その楽しさに気づいたら、普段のトレーニングも始めてみることで、トレイルランニングを通して自分自身が変われる、成長できる実感を得られます。







