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2025.10.28

巨大な断崖の狭間を抜け、ラダックの聖地ポカル・ゾンへと歩く

巨大な断崖の狭間を抜け、ラダックの聖地ポカル・ゾンへと歩く
インド北部に位置する山岳地帯、ラダック地方。長年にわたってこの地域での取材をライフワークにしている著述家・写真家の山本高樹が、ラダックでもあまり知られていないチベット仏教の聖地、ポカル・ゾンを訪れた時のフォトレポートを、全3回に分けてお届けします。第2回は、車道の終点から、聖地ポカル・ゾンのある山奥まで、険しい峡谷を辿り歩いていく道程について紹介します。
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険しい岩山の奥へと続いていく、一本の道を辿って

ムルベクから少し西に、シェルゴルという村があります。シェルゴル・ゴンパというチベット仏教ゲルク派の僧院がある一方で、イスラーム教のモスクもある村で、この地域にしては比較的多くの民家が、谷合いに集まっています。

東西に走る幹線道路を離れ、シェルゴルの集落の脇にある細い道路を南西寄りに進んでいくと、車道がフェンスで閉ざされた場所に行き当たります。今回の僕たちの目的地である聖地ポカル・ゾンは、ここからさらに山中に分け入ったところにあるのだそうです。僕たちはここで車を停め、タシさんの道案内のもと、先へと続く道を歩きはじめました。

道路の舗装はすぐに途切れ、一本の未舗装の細いトレイルが、山と山の狭間を縫うように伸びています。この道がどんな場所へと続いているのか、手前から見通すことはまったくできません。

トレイルの脇には細い渓流が、涼やかな音を響かせながら流れています。ラダックは年間の降水量が極端に少なく、標高の高い山々にはほとんど樹木が生えていませんが、ここのように川が流れている場所には、夏の間、灌木や草が緑の葉を茂らせています。こんな乾き切った大地でも、水のあるところには植物がしぶとく育つのだということを、あらためて実感させられます。

左右にそそり立つ断崖と断崖の間隔は、ますます狭くなっていきます。この場所をよく知っているタシさんに案内してもらっていなければ、一人だと不安になって引き返したくなるレベル。タシさんとスタンジンさんは、まったく平然としたそぶりで、先へ先へと歩いていくのですが。地元出身の人たちの度胸はすごい……。

ふと、上を見上げてみると、崖の上端がどこか見極められないくらい、垂直に切り立った断崖がそびえていました。自分は、どうしてこんなところにいるのだろう……? と、今さらながらの自問自答が、頭の中をぐるぐると駆け巡ります。

そしてとうとう、道さえもなくなってしまった

左右の断崖と断崖の間隔はさらに狭まり、ついには、トレイル自体が消滅してしまい、幅1メートルあるかないかの隙間を、川が飛沫を上げて流れているだけになってしまいました。

いや、これは無理でしょ……と、一瞬思ったのですが、よくよく見ると、断崖の隙間、川面の上に、錆びた鉄製のはしごのような足場が架けてあります。前を歩くタシさんとスタンジンさんの足運びを参考にしつつ、左右にそびえる岩に手をかけて身体を支えながら、川の上の鉄製の足場を伝ったり、川面にところどころのぞく岩に慎重に足を乗せたりして、どうにかこうにか、トレイルのない区間を切り抜けることができました。

この区間を歩いて行き来することができるのは、夏の間でも、川の水が雨や雪解け水で増水していない時だけだ、とタシさんは言います。こうした天然の関門によって外界から隔てられているのが、ポカル・ゾンという聖地なのだ、と身をもって知ることができた気がしました。

峡谷をすり抜けると、周囲を山々に囲まれた、少し開けた地形のところに出ました。ここからどう進んでいくのだろう……と思っていると、タシさんが「あっちだよ」と、東の方角を指し示しました。そこにはまた、上が見通せないほどの急な斜面に、ジグザグに続く細いトレイルが。これを登っていくのか……と思う間もなく、タシさんたちは腰の後ろに手を回したまま、すいすいとトレイルを歩いて登っていきます。

高度計付きの腕時計で計測していたのですが、車道の終点からここまで、歩いて1時間ほどの間に、標高は400メートルほど高くなっていました。平地ならともかく、標高3200メートルから3600メートルまで、一気に歩いて登るわけですから、そう簡単な行程ではありません。十分に高地順応ができていたはずの僕の身体でも、数十歩登るたびに立ち止まって呼吸を整えなければならないほどの道程でした。

そうして息を切らしながら登っているうちに、ふと見上げると、曇り空の下の稜線沿いに、ぽつぽつと、人が造った建物のような影が見えてきました。

「あれが、ポカル・ゾンか……!」

道なき道を越えていった先の聖地に、僕たちはついに辿り着いたのでした。

山本 高樹さん

著述家・編集者・写真家

1969年岡山県生まれ、早稲田大学第一文学部卒。2007年から約1年半の間、インド北部の山岳地帯、ラダックとその周辺地域に長期滞在して取材を敢行。以来、この地方での取材をライフワークとしながら、世界各地を取材で飛び回る日々を送っている。著書『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』(雷鳥社)で第6回「斎藤茂太賞」を受賞。近著に『雪豹の大地 スピティ、冬に生きる』(雷鳥社)、『流離人(さすらいびと)のノート』(金子書房)など。

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