
31日間の船旅を経て、無事にフランス領ポリネシア、マルケサス諸島にたどり着いた前田家。錨を下ろせば陸はもう目の前。しかし、これだけ長いこと船に揺られていると、平衡感覚が乱れ船酔いならぬ“陸酔い”を起こす人もいるのだとか。
この聞き慣れない陸酔いとは、長時間船に揺られたあと、陸に上がったあとも体が揺られているように感じてしまうことなのですが、船酔いの次に陸酔いなんて、これはいくら何でも辛過ぎやしませんか。ということもあって恐る恐るの上陸でしたが、今回は嬉しさで平衡感覚メーターが振り切れていたためか、陸酔いはまったく感じませんでした。
※諸般の事情で、一部解像度の低い画像を掲載しています。ご了承ください。
フランス領ポリネシアへ

昔観たミュージカル映画の主人公のように、スキップをしながら行き交う小鳥や花に言葉を投げたい気持ちを抑え込み、まずは真っ直ぐに入国審査へと向かいました。とはいえ、空港のように厳重なセキュリティチェック等はないため、関係事務所へ行ってパスポートと乗船員名簿を提出したら、あっさりと入国審査は終了。
ついにこの旅4か国目、フランス領ポリネシアへ入国を果たしました。到着早々に南の島のおおらかさを感じて、心は再び踊るミュージーカルモードに。久々の地面の感触、植物や土の香りが全身を駆け巡り、海の上とは違った五感への刺激に何とも言えない感動を覚えました。
子供たちもこのときの感覚をぜひ覚えてくれていたら嬉しいのですが、あとで思い出すのはきっと現地の食べ物の話とか、親からすると『え、そこなの???』というポイントなんだろうなと思います(笑)。
神秘の島々・マルケサス諸島はこんなところだった
南太平洋の秘境、マルケサス諸島は、日本でもよく知られるタヒチ島から北東に約1,500キロの距離にあり、南太平洋の拡大地図で見ていただくと、こんなところに人が住む島が? と驚くような場所にあります。実はタヒチ島からは飛行機もクルーズ船も出ているのですが、地理的には世界で一番リモートな場所のひとつではないでしょうか。
マルケサス諸島は海底火山の噴火によって生まれた火山島から成り、火山活動によって生まれた急峻な山々のダイナミックな景観は、どこか神秘的な雰囲気が感じられます。ポリネシア文化の歴史を紐解く遺跡も数多く残されており、2024年には島々の自然的価値と文化的価値の双方が評価され、ユネスコ複合文化遺産にも登録さています。



一般的な観光地としては聞き慣れないマルケサス諸島ですが、長期航海を目指すセーラーの間では一度は訪れてみたい憧れの地としてその名を知られています。なかでも今回訪れたヌクヒバ島のタイオハエは、マルケサス諸島の行政や文化の中心地でもある活気溢れる港町。眼前に広がる天然の良港、タイオハエ湾にはシーズンを迎えると無数のセーリングボートが停泊します。

私たちがタイオハエ湾に到着したときには、すでに40隻を超えるヨットが停泊しており、その多くは南北アメリカ大陸から太平洋を渡ってきたセーラーでした。そこには、それぞれの航海の無事を喜び、苦労話を分かち合う、今も昔も変わらないセーラーの姿がありました。ほんの一年前までは夢物語でしかなかった光景が、いまこうして目の前に広がり、自分たちもその景色の一部になっているという人生の不思議……。
大航海時代と変わらない島の豊かさに救われる

1か月間も海風に晒されて、自分自身も船内の冷蔵庫の残り野菜くらい萎びかけていたところに現れた、美しい南国のフルーツの数々。「私たち、天国まで来ちゃったの!?」と思わず叫びたくなる光景でした。
美味しさだけではなく、果物の生命力にこんなにも感動したのは、初めての経験だったかもしれません。なかでも前田家のお気に入りは、瑞々しく爽やかな味わいの大型のグレープフルーツ。子供たちが滞在中にはじめて覚えたフランス語は、恐らくグレープフルーツを意味する「パンプルムース」だったり、食の力は本当に偉大だと感じます。
かつて大航海時代の船乗りたちに一番恐れられていたのは、恒常的なビタミンC不足による恐ろしい病気、壊血病でした。想像を絶する環境の中、何か月も保存食だけで生き延びた船乗りにとって、新鮮な果物はどれだけありがたいものだったのか。それに比べると現代のセーラーはあまりにも恵まれているのですが、この島の豊かさの恩恵を受けて、次の航海への英気を養っていることだけは変わりありません。

地理的に近いニュージーランドやオーストラリアからの商品が多く見られました。海苔巻きあられは、何と880円……。日本で会いましょう!
新たな旅の始まり
少々不便がつきもののヨット旅は、普段忘れがちな日常への感謝を思い起こすきっかけになると感じているのですが、今回はそれが一段と強烈でした(笑)。ダイナミックで美しいヌクヒバ島の自然、温かな人たち、一杯のフレッシュジュース、そのすべてが尊く、心を打たれました。

この旅の完結のようになってしまいましたが、私たちはまだ南太平洋の入り口に辿り着いたばかり。次の航海への活力を充電させてもらい、新たな目的地へ向かいます。
今後の南太平洋、アイランドホッピングもどうぞお楽しみに。

それでは、また次回!