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ミヤマカラスアゲハの基本情報

ミヤマカラスアゲハは、山地や渓谷などの自然豊かな場所で見られる蝶です。ミヤマカラスアゲハの特徴や生息地、さらにはカラスアゲハとの違いを見ていきましょう。
ミヤマカラスアゲハの特徴
ミヤマカラスアゲハは、アゲハチョウ科に属する蝶です。羽を広げると7~11cmほどの大きさになり、ふわふわと飛ぶ様子は『優雅』『美しい』などといわれます。
ミヤマカラスアゲハの成虫の特徴は、羽の表面にある青緑色または深い青色の美しい光沢です。太陽光を受けると羽がメタリックに輝き、鮮やかな緑色や深みのある青色に変化します。
見る角度によって変化する幻想的な色合いは、ミヤマカラスアゲハの最大の魅力といっても過言ではありません。
一方、ミヤマカラスアゲハの幼虫の体の色は、カラスアゲハやナミアゲハなどと同様に緑色です。ただし、ミヤマカラスアゲハの幼虫には、特徴的な黄色いリング状の模様があります。
ミヤマカラスアゲハの生息地
ミヤマカラスアゲハは、漢字では『深山烏揚羽』と書きます。『深山』という名前の通り、低山地から山地の森林地帯で多く見られる蝶です。
ただし、市街地で全く見られないというわけではなく、広い森があれば里山や市街地近くの樹林でも目にすることがあります。
ミヤマカラスアゲハの生息地は、北海道から九州までとかなり広範囲です。国内だけではなく国外にも生息しており、中国や台湾、朝鮮半島などでも見ることができます。
カラスアゲハとの違い
ミヤマカラスアゲハは、同じアゲハチョウ科に属するカラスアゲハによく似ています。蝶をよく知らない人が見分けるのは難しく、しばしば混同されますが、『前羽裏の白帯』『羽の色合いや輝き』『羽の条紋』をよく観察すれば見分けることが可能です。
ミヤマカラスアゲハの前羽裏の白帯は細く、ほぼ一定の広さを保ちます。これに対し、カラスアゲハは白帯が幅広く、上に向かって広がっているのが特徴です。
また、ミヤマカラスアゲハはメタリックな輝きが強く、色彩の鮮やかさ・羽の条紋の鮮明さが際立っています。個体による差はありますが、カラスアゲハはミヤマカラスアゲハほど強い色彩や鮮明な条紋は見られません。
ミヤマカラスアゲハの生態
ミヤマカラスアゲハの生態とは、どのようなものなのでしょうか?ミヤマカラスアゲハの出現期や食べ物、特徴的な行動について紹介します。
出現期は年に2回
地域や気候による差はありますが、ミヤマカラスアゲハの出現期は、春と夏の年2回です。5~6月にかけて出現する個体は『春型』、7~8月にかけて出現する個体は『夏型』に分類されます。
出現期の違いによって、ミヤマカラスアゲハの生態が大きく変わることはありません。ただし、個体の大きさには違いがあり、夏型のミヤマカラスアゲハは春型よりも大きめです。
色彩は、春型のオスの色合いが際立って美しいといわれています。なお、九州南部などの温暖な地域では、稀ですが出現期が年3回になるケースもあります。
成虫は花の蜜を吸う
成虫のミヤマカラスアゲハが好むのは、春型はツツジ類、夏型はクサギなどの花の蜜です。キャンプ場や公園では、アベリアやムクゲの花にミヤマカラスアゲハの成虫が、複数集まる姿が見られることもあります。
一方で、幼虫はミカン科の植物の葉を主食として成長し、特にキハダ・ハマセンダン・カラスザンショウなどの野生種を好んで食べます。これらの植物が豊富に生育している場所では、ミヤマカラスアゲハの幼虫を見つけやすいでしょう。
吸水行動を行う
ミヤマカラスアゲハのオスは、湿った地面や水辺、沢沿いなどで吸水・排尿をする『吸水行動』を行う習性があります。吸水行動は、アゲハチョウ全体でよく見られる習性で、ミヤマカラスアゲハ特有のものではありません。
アゲハチョウが吸水行動を取る理由については、『土壌や水に含まれるアンモニアやミネラル成分を摂取するため』とする説があります。吸水行動によって得られるアンモニアやミネラル成分が、オスの繁殖活動において重要な栄養素であると考えられているためです。
また、アゲハチョウが吸水するのは『体温調節のため』とする説もありますが、こちらも真偽のほどは不明です。吸水行動は単独で行われることもありますが、複数の個体が集まって行われることも珍しくありません。
ミヤマカラスアゲハの観察ポイント

ミヤマカラスアゲハを観察したい場合は、自然豊かな場所に行くのがおすすめです。最後に、ミヤマカラスアゲハとの遭遇チャンスが多い場所を紹介します。
森林部の湧き水や沢の上流が狙い目
ミヤマカラスアゲハは山地性の蝶であるため、森林部の奥深くに多く生息しています。ミヤマカラスアゲハの観察ポイントとしては、渓流沿いや湧き水の出る岩場、沢の上流部などの清流付近がおすすめです。
渓流付近の湿った地面や湧き水の出る岩場などでは、ミヤマカラスアゲハの吸水行動を見られる可能性があります。ミヤマカラスアゲハは集団で吸水することも多く、タイミングが合えば、複数の個体を観察することも可能です。
「蝶道」で待機するのも有効
ミヤマカラスアゲハなどの比較的大型の蝶は、『蝶道』を持つと考えられています。蝶道とは、蝶が日常的に同じ場所を繰り返し通過する飛行ルートです。
水場の多い林道沿いや沢沿いは、ミヤマカラスアゲハの蝶道に含まれる可能性が高くなります。注意深く待機していると、吸水や吸蜜にやって来る個体に出会いやすくなるでしょう。
蝶が蝶道を飛ぶ理由については、『効率的に縄張りを巡回するため』などといわれることがあります。ただし、正確な理由については現在のところは不明です。
まとめ
ミヤマカラスアゲハは、羽が青緑色に輝く美しいアゲハチョウです。山地や森林渓谷、湿地付近に多く生息しており、自然豊かな場所でのトレッキングやハイキングで出会える可能性があります。
なるべくたくさんの個体に出会いたい人は、森林部の水場で待機してみましょう。複数の個体が集団で水を飲む『吸水行動』を、観察できる可能性があります。