
日本に48か所あるジオパークで、地球の魅力を再発見しよう!宮城県出身のアウトドアライター高橋庄太郎氏による三陸の旅をお届け。
全国48か所のジオパークで最大規模の「三陸ジオパーク」へ

宮城県仙台市出身。だが、高橋家のルーツがあるという岩手県にも強い親近感を持っている。今年は仙台市でのいくつかのイベントに出演の予定がある。
僕が宮城県北端の気仙沼市に初めて旅行に行ったのは、小学1年生のころ。そのときの記憶はどこかの海か川に落ちてズブ濡れになったことくらいで、ほとんどなにも覚えていない。
その気仙沼を含む三陸地方が「三陸ジオパーク」に認定されたのは2013年だ。青森県八戸市から岩手県を経て気仙沼市まで広がり、なんと南北約220㎞、東西約80㎞。日本で48か所のジオパークで最大だ。
認定当時の報道で、僕は気仙沼に「折石」「御崎」というおもしろスポットがあることを知った。昔の旅行で見ているのかもしれないが、ぜひ再訪したい!
そんなわけで認定から10年以上も経ち、やっと折石へ。この天を突き刺す大岩は以前、天柱岩やろうそく岩と呼ばれていたが、明治三陸津波で2mも短くなって折石という名に変わったらしい。それでも迫力は満点で、惚れ惚れする。そして、東日本大震災でさらに短くならなくて本当に良かったと考えた。
その足で向かうは御崎だ。こちらは約2億5千万年前に海底でできた地層が陸上で観察できる場所。薄い板を数百も張り合わせてから立てたり寝かしたり捩じらせたりして作ったような海岸は、圧倒的な存在感だ。
岩の上に立ってみると太平洋の荒波がものすごい! そして、周囲には打ち上げられたゴミが一切なく、小石や木片のようなものもほとんど見られないのに驚いた。台風や大潮のときにすべてのものを持ち去ってしまうのだろう。それだけの波でも崩れ果てずに残る古代の岩石は神々しさすら感じてしまった。
今回のもうひとつの目的地は岩手県の釜石市。気仙沼と釜石の間は三陸鉄道とBRT(バス・ラピッド・トランジット)を乗り継ぎ、3時間弱である。
岩手は鍾乳洞が多い県だが、滝観洞もそのひとつ。映画『八つ墓村』のロケにも使われた洞窟内は狭いが、適度な照明で怖さはない。途中でウミユリの化石も見られ、こんな場所が大昔は海だったとはと想像が膨らむ。
ハイライトは最奥に存在する巨大な滝。これは100年以上も前に洞窟探検に入った地元の青年が発見したものだ。“地元の青年”っていうのが、いいよね~。
ところで、釜石で何度も目にした標語が「鉄と魚とラグビーの街」。港町なのに魚よりも鉄が先だとは。釜石は我が国初の官営製鉄所が明治時代に建設された日本の近代製鉄発祥の地で、鉄こそが最大の誇りなのだ。
なお、ラグビーも鉄と関係する。1980年代を中心に日本ラグビーフットボール選手権で7連覇を飾ったのは、新日鐵釜石製鐵所ラグビー部。その偉大な歴史を踏まえ、ラグビーワールドカップ2019年日本大会では人口3万人に満たない釜石も会場のひとつに選ばれている。
そんな釜石の象徴ともいえる存在が、「釜石鉱山」だ。一時は鉱山周辺が巨大な町として栄えていたほどだったが、今は研究用の鉱物を採掘する程度。だが旧事務所付近は開放されて見物でき、鉄や銅の選鉱場の跡などは廃墟マニアの心をくすぐる。それに加え、僕はズリ(利用価値がない鉱石の屑)で完全に埋め尽くされたふたつの谷の姿に心底驚いた。最盛期の釜石鉱山、どれだけの規模だったのか!
この地域は多様な鉱物を産出し、真っ白に見える「根浜海岸」の砂浜にも大量の砂鉄が含まれている。これは海岸に流れ出す鵜住居川上流部の鉱山に由来するらしい。なるほどね~。
今回は気仙沼と釜石しか見物できなかったが、三陸ジオパークの見どころは数限りない。さて、次回はどこに行こうか?
DAY.1 奇岩と地層を巡る
宮城・気仙沼 折石(おれいし)

この付近は約2億6000万年前に生まれた石灰岩や、石灰岩から変成した大理石の巨岩地帯。唐桑半島の中央東側の海岸にあり、駐車場から展望台までは遊歩道でラクにアプローチできる。
海食崖

アイコン的な存在の「折石」は、1896年の明治三陸津波のときに先端が2mほど折れてしまい、今は高さ16m、幅3mになっている。

折石のすぐ近くにある「水取場」という入り江。歩いて行くことができない奥にうまい水が湧いており、昔は漁師が利用していた。
御 崎
唐桑半島の先端部。海に向かって黒色粘板岩の層が長さ50m、幅30mもの大きさで広がっている。断層運動で地層が大きくずれて波打っている景観には見ごたえがある。
海食棚


御崎より一段高い場所に、かわいらしい御崎岬灯台が立つ。唐桑半島ビジターセンターからは500mほどの距離。

展示物が充実した唐桑半島ビジターセンター。キャンプ場もあり、1泊して一帯を散策するのもいい。
DAY.2 自然の産物を巡る
岩手・釜石 滝観洞(ろうかんどう)

総延長は5㎞を超えるともいわれている、石灰岩でできた巨大な鍾乳洞。いちばん奥には大きな滝があり、地底湖が点在する。内陸部だが、JR釜石線上有住駅から歩いて行ける場所にある。

滝観洞の入り口。橋の対岸に受け付けがあり、そこで料金1,100円を支払って入洞する。駐車場からは徒歩3分程度だ。
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内部はとにかく狭い! かがまねば通れない場所が多く、腰を痛めている人にはお勧めできない。
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奥まで880mも歩くことができる通路の横には延々と水が流れ、このように広い場所はわずか。
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鍾乳洞

これが落差29mの「天の岩戸の滝」! 洞内滝としては日本最大級だ。筒状の上部から流れ落ちるため、その全貌は写真に収め切れない。

洞窟サンゴと呼ばれる鍾乳石。空気の流れる方向に成長する。

3億年前の地層にはウミユリの化石。丸いものは茎の断面だ。
釜石鉱山
明治時代に開坑し、1993年まで大規模に鉄鉱石を採掘。メインは鉄だが、ほかに銅なども産出し「鉄の町 釜石」を作り出した歴史的存在だ。JR釜石線陸中大橋駅から徒歩10分ほど。

現在は「釜石鉱山展示室 Teson」として使われている旧釜石鉱山事務所。入館料は300円で、親切な係員さんがいる。
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展示室にあった当時の釜石鉱山概観図。多様な施設が点在し、労働者の子供が通う釜石鉱山学園も併設されていた。
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釜石鉱山から採掘された鉄鉱石の見本。鉄鉱石の屑は展示室近くにも残っており、磁石を借りて探すこともできる。
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これは自然ではなく、人工的に造られた滝。ズリで埋め立てられた谷に流れ込む水を排出するための排水路で、最上部では土管から水が流れ出している。
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鉱山

薄い色の部分がズリで埋まった2つの谷

もはや現代的な遺跡ともいうべき“鉄選鉱場跡”。これはコンクリートの基礎の部分で、以前はこの上に赤い屋根の建物が並んでいた。
根浜海岸
釜石市街地から7㎞ほど北にある美しい白砂の浜。大震災の被害で面積が縮小したが、その点も含めてじっくり観察したい。

みちのく潮風トレイルの標識。八戸から相馬まで約1050㎞のトレイルは、ここを通っている。

2011年の東日本大震災による津波と海岸沈降で、一時は大半の砂が流出。現在は再生作業が進み、以前のような砂浜が戻ってきた。
移動は三陸鉄道とBRTで!
広大な範囲を見て回るためには地元の公共交通機関を積極的に利用。本数は少ないが、のんびりできる。拠点の街に到着したら、そこからはレンタカーやタクシーを利用すれば効率がいい。

三陸鉄道車窓から眺める巨大な防潮堤。

ジオパーク南側の気仙沼~大船渡間はBRT。

北側の大船渡~久慈は三陸鉄道。
※構成/高橋庄太郎 撮影/小倉雄一郎
(BE-PAL 2025年6月号より)
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※一部地域では発売日が異なります。
※電子版には特別付録が付きません。