ホーボージュンが修理してでも着続けたいアウトドアウェア「至高の一着」とは | アウトドアウェア 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

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2025.02.24

ホーボージュンが修理してでも着続けたいアウトドアウェア「至高の一着」とは

ホーボージュンが修理してでも着続けたいアウトドアウェア「至高の一着」とは
何年も着続けてきたウェアには、新品にはない"特別な力"が宿っていると僕は思う。これは僕が16年間も酷使し続けてきた愛用の一着についての話だ。

【ホーボージュンのサスライギアエッセイ・旅する道具学】第5話「16年目の寒い朝」

ウェア「patagonia / NANO PUFF PULLOVER」

さぶいさぶいさぶい。
 
震えながら寝袋を這い出し、そのまま頭からナノパフを被る。
 
さぶいさぶいさぶい。
 
震えながらストーブに火を着け、湯を沸かしてコーヒーを淹れる。これが僕の冬の朝のルーティンだ。
 
根っからの寒がりなので、冬の間ずっとナノパフを着ている。ナノパフというのはパタゴニアが作っているインサレーションウェアのこと。プリマロフトというパネル綿をナイロンシェルでサンドイッチし、レンガ模様のステッチで縫い合わせたシンプルな服だ。製品名の「ナノ」はナノレベルに極細の繊維を使っていること、そして「パフ」はフワフワの着心地を表わす。
 
でも正直いってフワフワでもないし、たいして暖かくもない。2008年の冬に初めてコイツを手に入れたときには「こんなんで果たして大丈夫なのだろうか?」と大いに疑った。
 
しかし、実際に雪山で使ってみて、僕はその使いやすさに舌を巻いた。プリマロフトは濡れても保温力が低下しないので、雪まみれになっても平気だったし、薄くてシンプルなデザインはビブの下に着込むのにもちょうどいい。またフリースのように嵩張らないし、風も通さない。重量は300gに満たず、どこにでも持っていけた。
 
同じサイズ感ならダウンやほかの化繊中綿のほうがずっと暖かかったが、ナノパフにはそれを超越した魅力があった。それは「なんにでも使える」という汎用性だ。頑丈だから使用状況を選ばない。ガシガシ洗えるので汚れても気にならない。
 
結局、僕はその後10年以上にわたり、激しく、本当に激しくこのナノパフを使い続けた。北アルプスの縦走登山も、泥だらけの残雪期登山も、海外の長期遠征も、シーカヤックでのアイランドホッピングにも。
 
瀬戸内海300㎞をシーカヤックで無補給横断したときには、七昼夜のあいだ一度も脱がなかった。汗と海水と冷たい雨でグシャグシャになった哀れなナノパフは、無人島に上陸するとグリグリ絞り上げられ、焚き火で燻され、強制的に乾かされてまた任務に戻った。
 
アウトドアだけではない。クルマの整備、鉄柵の錆取り、漁師の手伝い、大工仕事などにもガンガン使った。だから僕のナノパフはあちこちにペンキやオイルの染みがあるし、かぎ裂き補修のダクトテープだらけだ。それでも僕は使い続けた。そしてナノパフは応えてくれた。
 
しかし、使い始めて12年が経ったころ、ついに右手の表地が破れて中綿がむき出しになってしまった。もうそろそろ引退か。そんなことを考えていたのだが、そのタイミングで思わぬ機会が訪れた。子連れで参加したクライミングイベントに『つぎはぎ号』が来ていたのだ。
 
つぎはぎ号は、パタゴニアの移動修理トラックで、全国を回って出張修理をしている。僕はその日もナノパフを持ってきていたので、修理できるかリペアスタッフに相談してみた。
「さすがに同じ生地はもうありませんが、似たような生地で袖を作り直すことはできますよ」
 
担当の女性はそういって生地のストックを見せてくれた。色とりどりの端布の中から、ぼくは赤とオレンジのテラッとしたリップストップを選んだ。どちらも’90年代を思わせるようなビビッドなカラーだ。
「袖口のパイピングは何色にします?」と彼女はいった。
「もしできるならパープルがいいな。ナイキのACGが使ってたようなヤツ」と僕。
「いいですね! きっと似合うと思いますよ」と彼女は笑った。
 
その日の夕方に修理の終わったナノパフを受け取った僕は、その場で踊り出してしまいそうになった。あのくたびれたナノパフがなんだか光り輝いて見えたのだ。修理してもらったのは両袖だけなのに、まるで全身に特別な再生手術を受け、すっかり生まれ変わったかのようだ。
 
さっそく着てみたが、それまでのせんべい布団のようなペシャンコのナノパフが、まるで打ち直したばかりの羽毛布団のように暖かく感じられた。
「新品よりもずっといい!」
 
僕は思わずそう口にしてしまい、そのあとちょっと赤面した。なぜならそれはつぎはぎ号のキャッチコピーで、イベント会場にデカデカと貼り出されたバナーに書かれていた台詞そのままだったからだ……。
 
でもそれは僕の偽らざる実感だった。このとき、僕が味わったえもいわれぬ暖かさは、何年も一緒に過ごしてきてはじめて培われる信頼感のようなものだ。
 
それはどうしようもなく落ち込んでいるときに、古い友人がハグをしてくれたような、じんわりと心に染みる温かさだった。
 
さぶいさぶいさぶい。
 
今日も全国的に冷え込む朝となった。白馬や妙高ではもう三昼夜も大雪が続いていて、パウダースノー目当てのスノーボーダーたちが浮き足立っているのがSNSから伝わってくる。
 
そういう僕もダブルピンテールの勝負ボードにワックスをかけ、アバランチビーコンのバッテリーを新品に入れ替えた。
 
そしてもちろん今日も僕は黄色いナノパフを着ている。たいして暖かくない、愛用の一着だ。
 
これで16年目となるスノーシーズン。さぶいさぶいと悪態をつきながらも、僕の心は温かい。
生地

中綿にはプリマロフト社のポリエステル綿を採用。現行品は「プリマロフト・ゴールド・インサレーション・エコ」という素材を使用する。原料には消費者から回収されたリサイクルポリエステルを100%使用し、さらにパタゴニアとプリマロフト社が共同開発した新しい製造技術P.U.R.E(Produced Using Reduced Emissions)を導入することで、二酸化炭素排出量をこれまでの48%も削減している。

袖

袖口のパイピングは’80年代からフリースパイルなどに使ってきた手法。従来のゴムシャーリングのように手首周りが窮屈にならないし、ベルクロを用いたカフのように作業の邪魔にならない。普段は緩やかに手首周りを保持してくれるが、ロープワークをしたり水仕事をする時には簡単にまくり上げることができ、そのままの位置でぴたりと保持される。シンプルだが合理的なスタイルだ。

収納

ハンドポケットにたくし込むことでコンパクトに収納可能。隅にはカラビナをつけるループが付いていて、ハーネスやバックパックにぶら下げておくことができる。休憩時や行動中に急な天候悪化に見舞われてもすぐに着用できるのがいい。付属のスタッフバッグをつけることなく、自己完結で収納できる点が優秀。

ホーボージュン

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大海原から6000m峰まで世界中の大自然を旅する全天候型アウトドアライター。X(旧Twitter)アカウントは@hobojun。

※撮影/中村文隆
(BE-PAL 2025年2月号より)

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