英ロングトレイル「COAST TO COAST」ウォーカーの強い味方「無人店」

2019.10.10

DAY 11【Danby Wiske to Clay Bank Top 総距離34km】

「ハー!!!」もうため息しかでなかった。それはなんと、昨夜、ついに4本目のテントポールがポッキリ折れていたからだ。

テントが直角にへし折れているのをみると、同時に心も折れる。

ポッキリ、スッパリと折れたテントポール。

ただ、ここまでくるともう動揺などはない。しかも、黄色いテントポールであれば、完全アウトだったが、赤のスペアがあと一本残っている。あと、スリーブとして代用している分解した自撮り棒のパーツも余分にあるので、いざとなれば使える。ただ、作戦としては、これからはもし宿が取れる場合はできるだけ泊まろうということにした。それは万が一、本当にどうしても宿が取れなかった場合にテントポールがまた更に壊れるというリスクを回避するためだ。しかし、今夜の宿泊地はまだどこか決まっていない。とりあえず、どこまで行けるか、やるだけやってみてから考えよう! という無計画的な計画を立て、今日も安全第一で出発!

舗装路を歩く際は、結構なスピードを出す車にこちらが注意を払わなければならない。

カーブの手前に掲げられた「ウォーカー達に注意」と書かれた看板。

フットパスに入ってしまえば、車の心配がないので、一気に緊張感がなくなる。

歩いていると、住宅の隣に植わった木にこんな案内が出ていた。

「もしプラムが欲しい方はご自由にどうぞ!」という案内。

今朝は朝ごはんを食べずにテントサイトを出て来たので、もぎたてのプラムが朝食だ。甘酸っぱくとてもジューシー。

麦や大麦畑が続く。

一切お店がない農地が続く中、所々に無人店が設置されている。
ついつい中身を確認したくなり扉を開けてみる。

寄付金は、バケツの中へ!

疲れた旅人のための「タックショップ」と書いてあるが、Tuck Shopという言葉はイギリスやイギリスの植民地で使われ、学校内の売店や菓子屋を意味する。

それぞれの値段は記載されていないので、本当に好きな額を払えばいいというシステムのようだ。

無人店のすぐ横にはこれまで何度も飛び越えてきた、Stileと呼ばれる、人のみを通し、家畜を通さない仕掛けのある踏み越し段があり、ここのは特に趣向が凝らしてあった。

フクロウやネズミの人形で飾られ、 人が通過すると、自動的にフクロウの音が流れる仕掛けまであり、牧場主の遊び心に触れ、ほっこり癒された。

この線路を抜けると、昨夜から心配している高速道路とのご対面まであと少し。

ここにきて、彼岸花なぞが咲いていたら、ますます緊張したが、幸い咲いておらず、美しい花々を見て、心を精一杯なだめる。

さあ、いよいよA19のモーターウェイを横断する時がやってきた。
ガイドブックによっては、C2Cの中でも最も難所で滑落者が多いとされるStriding Edgeよりも危険度が高いと書いてある。それはなぜかと言うと、なにせ4車線の高速道路を走って通過しなければならないのだ。もちろん横断歩道も橋も、歩行者注意のサインも一切なく、ガチンコ勝負。

凄まじいスピードの大型トラックがビュンビュン走り抜ける。

昨夜、ヤング・ニールが通過した夕方のラッシュアワーの時間帯と比べるとおそらく交通量が少ないものの、歩行者優先ではないので、車は一切減速しない。幸いにも、中間地点に緑地緩衝帯があったので、とにかく、タイミングを見計らって1、2、3、まっすぐ前を見て、ダッシュ!!!
なんとか、第一関門突破で、緑地帯に着く。そして、また車の切れ目を狙って残りの2車線をダッシュ! クラクションを鳴らされることなく、無事に渡り終えることができた。ベタながら、アリーとベタベタ汗ばんだ手でハイタッチ。

歩いていると、対向車の運転手はやたらとみんな愛想良く挨拶してくる。まるで、「高速道路横断成功おめでとう!」と祝ってくれているようだ。

そんなハラハラドキドキした後の喉が乾く人間の心理をついて、「水をどうぞ!そして、パブとカフェがこの先にありますよ。私たちの村にウェルカム!」と書かれた箱が。

Ingleby Cross村に入ったところで、早速、カフェ発見!

高速道路横断成功を祝し、Joinersカフェで一息着く事に。

シナモンが効いたアップルオートミール。

Tumeric latte (ウコンラテ)。

ターメリック(ウコン)の主成分の「クルクミン」はポリフェノールの一種で、抗酸化作用が高いそう。毎日歩いて酸化した身体にはぴったりの飲み物。

店員さんは皆美人でフレンドリー。

エネルギーをチャージしたところで、長閑な村を歩き抜けていると、ガイド本にも美味しいと称されていたDiane’s Famous Yorkshire Flapjackの無人店を発見。

ホワイトボードには、本日のフラップジャックのメニューが記載されている。アプリコットとショウガ、ナツメとクルミ、そしてチェリー。そして、親切にも中身の詳細まで書いてある。

オートミールを使ったイギリスの伝統的菓子フラップジャック。

村を抜けてArncliffe Woodの中に入っていく。

このあたりはPheasant (雉)が沢山生息している。

森の南端で北上せずに、直進し、20分程行けば、Osmotherley村にお手頃なユースホステルもあることから、そこで一日の行程を締めくくる人もいる。しかし、ルートを一旦離れ、余分に歩かなければならなくなるので、私たちは先へ進むこととした。

高い木々に囲まれ、緩い登道を歩く。

遠くに先ほど渡った高速道路が見える。

Arncliffe Woodを抜けると、紫色のHeatherの花に覆われた開かれた景色が広がるScarth Wood Moorに出た。

入り口にはイギリス最大の環境保護団体、ナショナル・トラストの看板。
ちなみに、ナショナル・トラストとは、寄付金や会費によって、土地や歴史的建造物を保護し、年間費72ポンドでナショナル・トラストが管理している500もの施設、建造物の入場料が無料になるという特典などがあるらしい。

しばし、フォトジェニックで幻想的なヘザーの紫色に染められた世界が続く。

途中、ナショナル・トレイルであるCleveland Wayとしばらくルートが重複する。

Cleveland Way トレイルの案内板の前で地図を確認するアリー。

Cleveland WayのトレイルはNorth York Moors国立公園の淵を巡る約177kmに及び、こちらも人気トレイルとして知られている。

一瞬ケルンに見えるが、小さな案内には、紀元前2000年前の埋葬場所だと記載されていた。

他の人に一切会うことなく、湿原を歩くこと3時間ほどで、賑やかな宿泊、キャンプ、カフェが併設されたLord Stones Country Parkに到着。

足が重たくなってきたところで、Lord Stones Caféで休憩 。

体力的に、そろそろ限界を感じつつあったので、宿泊の状況について聞いてみると、連休ということで、部屋は満室。キャンプサイトは一張り分なら空いているということだったが、少しせわしない雰囲気であったのと、更にこれ以上テントポールが折れてしまうと窮地に立たされてしまうので、そうした自体を回避する意味でも、ダメモトでこの先のClay Bank Topにある宿に電話をしてみた。
すると、奇跡的にも今晩、一部屋空いているということで、すでに17時を回っていたが、更に約2時間かかる距離ではあったが、もうひと頑張りをすることに。

低地を歩くルートの方が断然楽だよ、という地元の人たちの勧めでしばらく森の中を通るルートを歩く。しかし、木々の間から、山の斜面を歩く羊たちやパラグラーダーたちが気持ちよく天空で飛んでいるのを見ていたら、どうしても同じ高さに行きたくなり、高地を歩くルートへ変更。

青空の下、ヘザーの花々の間の草を食む羊たち。

気持ち良さそうに空を飛ぶパラグライダー。

疲れてはいたが、夕方の光も加わり、地平線まで見える景色は壮観で、やはり汗をかいてでも登った甲斐があった。

牧草ロールは俯瞰すると、まるでオルゴールに見えたり、点字にも見えたりもする。

Wain stonesと呼ばれる砂岩の上をえっちらおっちら登る。

ここはバイキングの長がこの尾根で戦いに破れ、 アングロサクソンの言葉  ”wanian”(嘆き悲しむ)から来ているという。

人口構造物が一切ない空は果てしなく大きい。

日が暮れてきて、足下が暗くなってきた。宿のオーナーが車で、山の麓を走る道路まで迎えに来てくれるので先を急ぐ。

10分程で、今夜お世話になるB&B Buck Innに到着!

宿名のBuckが雄鹿であることからか、部屋の便器も鹿模様!
しかとお尻を見られている感じがしてしまい、あまり落ち着けないお手洗いであった。

とにもかくにもお腹が空き、即座にB&Bの一階にあるパブに向かう。

トマトとハーブをふんだんに使ったラタトゥイユソースに絡められた5種類の豆とオーブンで焼いたジャガイモ。

他にも色々注文したが、写真を撮る間もなく完食。
今日は11時間近く歩いたのだから、コッテリ、どっぷりと砂糖とバターを溶かしたトフィーがかかったスポンジケーキを食べても許されるだろう! と、言い訳をぼそぼそ言いながら、自分へのご褒美にデザートを注文し、長くてハードな一日を締めくくる。

英国の人気の伝統的なスウィーツでキャサリン妃も大好物と言われているSticky Toffee Pudding。

テントポールが壊れたおかげで、切羽詰まることにより、今日ももうひと頑張り、根性を振り絞って宿に辿りつけ、デザートにもありつくことができた。まさに「歩く足には棒当たる」とはこのことだ。

さあ、明日はどこでどんな所に泊まるのかさえ決まっていない。
そんなページが真っさらな日々が送れることが何とも自由で心地よい。

(最終的に歩いた距離34.9km。万歩計55000歩)
写真・文/YURIKO NAKAO

プロフィール
中尾由里子

東京生まれ。4歳より父親の仕事の都合で米国のニューヨーク、テキサスで計7年過ごし、高校、大学とそれぞれ1年間コネチカットとワシントンで学生生活を送る。学生時代、バックパッカーとして世界を旅する。中でも、故星野道夫カメラマンの写真と思想に共鳴し、単独でアラスカに行き、キャンプをしながら大自然を撮影したことがきっかけになり、カメラマンになることを志す。青山学院大学卒業後、新卒でロイター通信社に入社し、英文記者、テレビレポーターを経て、2002年、念願であった写真部に異動。報道カメラマンとして国内外でニュース、スポーツ、ネイチャー、エンターテイメント、ドキュメンタリーなど様々な分野の撮影に携わる。休みともなればシーカヤック、テレマーク、ロードバイク、登山、キャンプなどに明け暮れた。2013年より独立し、フリーランスのカメラマンとして現在は外国通信社、新聞社、雑誌、インターネット媒体、政府機関、大使館、大手自動車メイカーやアウトドアブランドなどから依頼される写真と動画撮影の仕事と平行し、「自然とのつながり」、「見えない大切な世界」をテーマとした撮影活動を行なっている。2017年5月よりオランダに在住。

好きな言葉「Sense of Wonder」
2016 Sienna International Photography Awards (SIPA)  Nature photo 部門 ファイナリスト
2017 ペルー大使館で個展「パチャママー母なる大地」を開催。

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