ダムを撤去したら鮭が還ってきた! アメリカ西海岸を流れるクラマス川が示した希望 | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

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2025.12.19

ダムを撤去したら鮭が還ってきた! アメリカ西海岸を流れるクラマス川が示した希望

ダムを撤去したら鮭が還ってきた! アメリカ西海岸を流れるクラマス川が示した希望
アメリカ西海岸、オレゴン州とカリフォルニア州の州境近くを流れるクラマス川(Klamath River)に行ってきました。たぶん、この川の名前を知っている人はあまり多くないと思います。

アメリカ国内でもさほど有名な川ではありませんでしたが、アウトドア活動や自然環境に興味がある人たちの間では最近話題になっています。 この川を100年以上にわたって遮断していた4つのダムを撤去するプロジェクトが2024年に完了したからです。アメリカ史上最大のダム撤去プロジェクトとされています。

すでに上流まで鮭の遡上が確認されるなど、川の自然環境が再生しつつあることが分かっています。かつて流域に暮らしていた先住民たちも伝統漁業や儀礼との結びつきを取り戻しています。

その象徴的なイベントとして、2025年の夏には先住民族の若者43名が源流から海へ約1か月かけてカヤックで川を下ったことが各メディアで報じられました。
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野田知佑さんに見せたかった「ダムのない川」

山中から眺めるクラマス川(2025年9月撮影)。

ダム撤去、鮭の遡上、カヤックでの川下り、そして先住民族。故野田知佑さんのファンならきっとこれらのキーワードに反応するでしょう。

『BE-PAL』読者には珍しくないと思いますが、私は若い頃に野田さんから強い影響を受けました。ほとんど崇拝していたと言っても過言ではありません。

野田さんの初期代表作『日本の川を旅する』を初めて手に取ったのは、大学生の頃でした。何度も何度も読み返しました。やがて文庫本のカバーは破れ、あちこちのページに折り目がつき、まさにボロボロになっていったのですが、ずっと私にとって最高の本であり続けました。

本を読むだけにとどまらず、どうしても野田さんの真似がしたくなり、カヤックを買いました。テントを積み、四万十川や長良川へも行きました。野田さんがそうしろと言う通り、単独行にこだわりました。

野田さんは反骨の人でもありました。日本の川のほとんどがダムや河口堰で遮断され、かつて美しかった自然が汚れ、人々が川から背を向けていくことに対して、一貫して怒りの声を上げ続けていました。

そんな野田さんが聞けばきっと笑顔になるようなニュースを聞き、居ても立っても居られなくなりました。とくに用はないのに、クラマス川を見に行ってきたのはそのためです。

源流部に近いクラマス・フォールズという小さな町の外れでキャンプし、山中の林道のような未舗装の道を辿って、川岸では水に浸かってみました。それじゃ川旅とは言えないぞ、と野田さんには叱られるかもしれませんが、どうしても1泊しか時間がとれなかったのです。

若者たちが漕ぎ抜いた「新しい川旅」

ダム撤去を勝ち取った反対運動(2006年)。 “File:Klamath tribes dam removal demo.jpg” by Patrick McCully from Berkeley, United States is licensed under CC BY 2.0.

クラマス川は全長約410キロ、流域には先住民族が暮らし、鮭猟が彼らの文化と生活の中心を担ってきました。しかし20世紀初頭から建設された4基の水力発電ダムが流れを断ち、魚たちは上流へ戻れなくなりました。

それから約100年。先住民族や環境団体の粘り強い運動により、ついにダム撤去が決定。2023年から解体が始まり、2024年8月、最後のダムが取り除かれました。

そして同年秋には、上流部で100年以上ぶりに鮭の遡上が早くも確認されました。

翌2025年7月、クラマス川にさらなる朗報が届きました。先住民族の若者43人が、源流から太平洋まで約1か月かけてカヤックで下る冒険を成し遂げたのです。

野田さんはしきりに「若者が冒険しなくなった」と嘆いていました。北米大陸に住む先住民族たちに深い共感を示していました。野田さんに彼らの姿を見てもらいたいと心から思います。

▼先住民族の若者たちの川下りの様子


幸いなことに、クラマス川は都市部からは遠く離れています。流域に大きな町はありません。カリフォルニア側のサンフランシスコからは約550km、オレゴン川のポートランドからは約460km。私はもっとも近いメドフォード空港を利用しましたが、それから川を見るまでに2時間ほどのドライブが必要でした。

クラマス川流域では、ラフティング、川釣り、エコツアー、自然観察など、アウトドア活動を中心とした観光開発が始まっているそうです。それでも、このアクセスの不便さを考えると、オーバーツーリズムの心配はあまりしなくてよさそうです。まだしばらくは復活した自然がそのままの姿で保たれるのではないでしょうか。

オレゴン州Keno市中を流れるクラマス川(2025年9月撮影)。

日本の川に重ねて思うこと

晩年の野田さんはひょっとしたら日本の川をとりまく状況に絶望していたかもしれません。日本の川から目を逸らして、アラスカやニュージーランドの川に行く。それらしき表現がいくつかの著作の中で見られます。

それでも、100年近く続いたダムでも撤去することはできる。一度は汚れた自然を取り戻すことだってできる。クラマス川の再生プロジェクトはそのことを証明してくれました。

クラマス川のダム撤去は現時点でアメリカ史上最大ではあっても、例外ではありません。近年、アメリカではダムを撤去する動きが各地で活発になっています。環境保護団体アメリカン・リバーズの報告によると、米国の河川では1912年から2024年までに2,200基以上のダムが撤去されましたが、そのほとんどは過去20年間に行われたものです。[*1]

かつてクラマス川を遮断していたダム(2006年)。 “Link River Diversion Dam” by Bureau of Reclamation is licensed under CC BY-SA 2.0.

きっと日本でもダムを減らして川の自然を取り戻せるのではないでしょうか。けっして容易な道ではなくても、絶望するにはあたらない。私はそう思っています、と野田知佑さんの霊に伝えたいです。

参考文献:
*1. American Rivers Report: 2024 Tied for Most Ever Dams Removed in US, Underscoring Momentum for River Restoration

角谷剛さん

米国在住ライター(海外書き人クラブ)

日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員

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