映画『犬に名前をつける日』が希望をくれる | BE-PAL

映画『犬に名前をつける日』が希望をくれる

2015.10.29

動物愛護センターや震災で置き去りにされた犬や猫を救い出し、保護する人たちの活動を取材。4年間で200時間に及んだドキュメンタリー映像に、それを取材するディレクター(小林聡美)のドラマを融合させた”ドキュメンタリードラマ”。
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愛犬の死をきっかけに映画『犬に名前をつける日』に取り組んだ山田あかね監督に聞いた。

――映画を撮り始めた経緯から教えて下さい。

2010年10月に“ミニ”というゴールデンレトリバーを亡くしました。ガンで余命3ヶ月~半年と宣告され、絶対に助けようとあらゆる治療を施した結果、1か月で死んじゃったんです。死んだあとも原因を追及しようと、犬の亡骸を空輸して大学病院で解剖までしてもらいました。チーム・バ〇スタか! 並みの原因究明をしました。
ひどいペットロスに陥り、テレビ番組を作ったり小説を書いたりする仕事なんて虚業だ。なんの役にも立たない。犬の命を救う人になろう! とイギリスへ行きました。いま考えると半分逃げかもしれませんが。

――イギリスではなにを?

「Battersea Dogs & Cats Home」というロンドンで最大規模の犬猫保護施設を見学したり、有名な動物病院でミニの治療法が正しかったのか聞いたりしました、犬はもういないのに予約をとって。そこの院長先生にカルテを見せながら説明すると「日本の医療はさすがに進んでいるね。でも、ただひとつだけ最大の間違いをしている」と言われて。医療ミスですか!? と思うじゃないですか。
すると「獣医師は特にペットの場合、飼い主も一緒にみないといけない。この獣医師はあなたをみていない。これだけの治療をすれば、命が続く可能性はあるけどボロボロになることは予想がつく。これほど犬を愛している飼い主なら緩和ケアをして、あなたと一緒にゆっくりと最期を迎えられるようにするだろう。もしそうしていたらあなたは今頃イギリスまで来てこんな質問はしていないでしょう?」と。

――すごい!

そうなんです。それでますますイギリスで勉強しようと思って。スコットランドにグシカンというゴールデンレトリバー発祥の地があるんですが、そこへ行けばゴールデンの魂が、次になにをせよと指示してくれるんじゃないか? と半分本気で思ってました。真冬で、積雪6メートルくらいのなか3時間ほど歩いて行きました。途中に犬にいいというスプリングウォーターがあるというから、その水を犬のように飲みたい! と思って…ただ寒いだけでしたけど。
それで日本へ帰ってきたら震災が起きました。とりあえず福島へ行ってみたものの、このときは悲惨な現実を前に、撮影できませんでした。ただ犬の散歩をしたり餌をやったり、一ボランティアとして働かせていただいて。その後、2011年の10月から3か月、ロンドンへ行きました。Batterseaは6か月以上働かないと受け入れてもらえなかったので、もう少し規模の小さい「The Mayhew Animal Home」という保護施設でボランティアとして働きました。

――その後、映画の企画が動き出したのですか?

2012年に帰国し、一連のことを先輩の渋谷昶子監督に話したんです。すると、なにをやってるんだ? と。あなたがボランティアをやったところで救える命は1頭や2頭でしょう、でもあなたにはいちどにたくさん救える力があるはず。それは映像に撮って発表することじゃないの? 何十年映像の仕事をしてきたんですか? と言われて…そうか! と。
長くなりましたが(笑)、それで2012年3月に千葉の動物愛護センターへ初めて行き、5月から撮影を開始したんです。そのときにはまだ誰かがお金を出してくれるとかテレビになるとか映画になるとか“出口”は決まっていませんでした。

――最初の取材でもう、犬をもらってきちゃったんですか?

1匹目は撮影前に下見へ行ったときです。最初にセンターへ行ったとき、犬たちがかわいそうで泣いてばかりいたんです。「新しい子犬が運ばれてきました! あの犬どうなっちゃうんですか!?」とわーわー言っていると、「山田さん、落ち着いて!」と(笑)。「よかったらそこの犬を洗ってください」と言われ、取材に来たんですけど…と思いつつ、犬を扱える人だと認識してもらおうとがんばりました。
最終部屋(処分が決定した犬が収容される部屋)から出てきたボロボロの犬です、噛むかもしれないじゃないですか。一瞬ひるんだけど、恐る恐る洗い始めたんです。そうしたら、その犬がだんだんと「助けて下さい…」という感じで甘えてきて。もう心がキュンとなり、この犬を救わなくてなにが取材だ! と。洗い終えたときには「この犬、私がもらいます!」と言ってました(笑)。

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2匹目はある動物愛護センターにゴールデンの子犬が運び込まれて近々に処分です、という情報を得まして。“ゴールデン”と聞くと、わ~! となっちゃって写真を見たらもうダメで。そのまま飛行機に乗って飛んで行きました。空港からレンタカーを借りてセンターへ着くと、人気があって「抽選です」と言われて。抽選? と思いつつクジを引いたら当たりました。5匹の子犬に希望者が20人ほどいたんですけど。
勢いだけで手ぶらで行ったので、空港のカウンターでケージを借り、あとは抱いて家へ連れて帰りました。…この取材をしているとセンターで会う犬を全員連れて帰りたくなるけど、そういうわけにはいきません。長年ボランティアをやっている方たちは冷静に救えるものを救います。私も途中からそうなりました。

サブ6

 

サブ2

――「狂犬病予防法」と「動物愛護法」を法的根拠に犬猫は始末されている。つまり飼い主のいない犬猫は殺処分されることが法律で決まっていると初めて知り、自分がそんなことも知らなかったことに驚きました。しかもドイツやオランダには日本のようなペットショップがなく、保護施設で譲渡を受けるのが当たり前だということも。
ドイツでは殺処分ゼロで、新しい飼い主に引き取られる割合は90%以上だそうですね?

なんらかの理由で飼えなくなった犬や猫は施設へ連れていけば死ぬまで預かってもらえるし、新たに飼いたい人はたいてい保護施設へ行きます。飼い主がいないからという理由で犬や猫が処分されることはないんです。

――街中のペットショップに並ぶ子犬を見て、カワイ~なんて言ってたことに罪悪感を覚えました。

すべてのペットショップがそうだとは言えませんが、なかには「パピーミル」=子犬工場と呼ばれる劣悪な環境で、母犬が檻の中で一生を過ごしている場合もあります。ひどい繁殖業者にとって犬は“商品”で、問題は如何に効率よく子犬を産ませるか。交尾のとき檻に雄犬を入れられるだけで散歩なんてしたことがなく、外へ出されても歩けない犬もいます。本当に胸が痛いです。

 

――映画にもそうしたパピーミルのひとつ、資金繰りに失敗して閉鎖することになった繁殖業者が出てきますよね?

あのとき助けたのは46頭でした。全頭に新しい飼い主が見つかり、生活するうちに歩けるようになったり、表情を取り戻しました。散歩をしたり、ご飯を食べさせてもらうと、回復していくんです。それは本当に救われます。だからこそボランティアのみなさんはあきらめないでやっているんだな、自分もあきらめちゃいけないなと。
福島でもそう思いました。「犬猫みなしご救援隊」の中谷(百里)さんらが原発の20キロ圏内で助けた犬や猫たちも、最初は置いていかれてご飯もなくて追い詰められた目つきでしたけど、助けられて栃木につくられたシェルターにつれてくると、もう次の日から笑ってるんです。ご飯あった、やった! って。人間と違い、自分をひどい目に合わせた奴らを噛んでやる! なんて犬はいません。生きるチャンスをもらったら全力で生きる、という動物本来の生命力の美しさを目の当たりにして、撮影に行くのが楽しくなりました。
サブ5

――中谷さんには本当に驚きました。個人で野良猫の保護活動を始め、それをNPO法人「犬猫みなしご救援隊」とし、広島市動物管理センターに収容された猫全頭と譲渡対象外の犬全頭を引き出して殺処分機の使用を廃止させ、東日本大震災が発生すると2日後に被災地へ入り、福島原発20キロ圏内から1400頭を救出し、栃木に拠点をつくってそれを保護…って信じられません。

中谷さんは本当にすごい人です。「震災で変わった」と仰ってました。パートナーと二人でワゴン車に乗り、知り合いもいない東北へ駆けつけて犬や猫を助けるうち、手伝いましょうか? というボランティアが現れ、土地を提供してくれる人が現れ、近所の獣医さんが無償で診てくれるようになった。目の前の1匹を救おうと一歩を踏み出したら、800坪のシェルターができていた。やればできる、あきらめることはないと思った、と。

――広島にある「犬猫みなしご救援隊」の施設を訪れた感想は?

ビックリですよ。ひとつの部屋に1000匹もの猫がいるって、猫の海を泳いでいるようで。犬は個別管理なのでまた違いますけど。…4年間取材して200時間ほどカメラを回し、NHKで『むっちゃんの幸せ』という1匹の犬を主人公にしたドキュメンタリーを作りました。そのあと中谷さんという人間が面白かったので、猫の命をテーマに『ザ・ノンフィクション 生きがい 1000匹の猫と寝る女』を作りました。
映画の中に、20キロ圏内に置き去りにされた牛を中谷さんが泣きながら撮影した映像が入っています。ジャーナリストだったらより悲惨なものを撮りたくなると思うんですけど、中谷さんはあえてそうしたものは撮らず、助けようと思うもの、これから生きようとしている動物たちを撮っていました。視点が下品じゃないんですね。

サブ4

――一方で250人ものボランティアからなる動物愛護団体「ちばわん」のクールな活動も印象的でした。

「ちばわん」はシェルターを持ちません。例えば副代表の吉田さんは普段は薬剤師さんとして働き、週に1回センターへ行くと決めています。センターは不便な場所にあり、吉田さんは免許を持たないため、彼女をセンターへ運ぶ運転ボランティアがいます。吉田さんはセンターで救い出す犬を決める役ですが、収容された犬を撮影する人、犬の性格をレポートにする人、それらをHPにUPする人等がそれぞれいます。引き出された犬を預かるボランティアなど、すべて仕事を分担しているんです。ひとりが全部を引き受ける必要はなく、できることをやるというシステム。ふつうの人もちょっと参加できそうで、敷居が低くなりますよね。日本らしくていいカタチだし、合理的でもある。
ちばわんではセンターから救い出した犬や猫の家族を探す「いぬ親会」「ねこ親会」を定期的に開いています。飼いたい人が犬と猫に直接会えるのですが、里親探しも厳しいんです。少しでも多くの命を救うためには「ほしい」という人にどんどん引き受けてもらうのかと思っていたら、違うんです。いい加減な飼い主に引き渡し、その犬が人を噛むなどの事故を起こせば、それだけで「保護施設出身の犬は危険」というレッテルを貼られてしまう。犬自身もつらい目にあう。だから、とても慎重に新しい里親さんを探しています。

サブ3

――取材を始めて4年が経ったわけですが、動物を取り巻く環境に変化を感じますか?

とても感じます。殺処分数は例えば平成24年から25年の1年間で16万匹→12万匹に減りました。すごい数ですよね。私が取材で伺った愛護センターも大部屋だったのが個別管理も増え、ワクチンを打つようになって感染症が減り、ドッグランが出来て収容されている間にお散歩もできるようになりました。不妊去勢手術もするようになりました。
訪れるたびに変わっていくんです。なぜそれほど変わるのか? 職員の方たちに聞くと、ボランティアの方は無償で来て、明日殺されるかもしれない犬をキレイに洗ったり、うんちまみれの犬舎を掃除したりして最善を尽くし、譲渡に向く犬を救い出す。そうした姿を見て自分も犬舎を改善しよう、ワクチンの申請はできないか? と少しずつ変わっ ていったと。今年はもっと殺処分の数が減るのではないかと思っています。

――この映画も、観た後に具体的な行動を起こしたくなりました。

そう言ってくださる方が多いです。だから「泣いたり悲しい想いをするんじゃないかと怖がらず、まずは観て下さい。観終わったらきっと希望が持てますから」と言ってるんですけど。

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Profile 
山田あかね
東京都生まれ。14年「むっちゃんの幸せ~福島の被災犬がたどった数奇な運命~」(NHK総合)、14年「ザ・ノンフィクション お金がなくても楽しく暮らす方法」、15年「ザ・ノンフィクション 生きがい 1000匹の猫と寝る女」(共にフジテレビ)等のドキュメンタリーを手掛けるテレビディレクター、「461個のありがとう 愛情弁当が育んだ父と息子の絆」(NHKBSプレミア)等のテレビドラマ演出家、『すべては海になる』を発表した映画監督、「時効警察」「すいか」『クリアネス』『闘茶』等の脚本家、「ベイビーシャワー」「しまうたGTS」等を著した小説家と、多くの顔を持つ。

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『犬に名前をつける日』 (スールキートス配給)

監督・脚本・プロデューサー:山田あかね
出演:小林聡美、上川隆也、渋谷昶子、ちばわん、犬猫みなしご救援隊
撮影:谷茂岡稔
音楽:つじあやの
公式HP:http://inu-namae.com
10/31~シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
(c)スモールホープベイプロダクション

 小林聡美さんほか登壇予定の初日舞台挨拶も決定!
10月31日 シネスイッチ銀座 詳しくは下記リンクを!
http://inu-namae.tumblr.com/post/130803955327/

文/浅見祥子

 

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