にっぽん刃物語「クマ研究者のポケットナイフ」~鉈からメスまで携行するが最も活躍するのは多機能ナイフ~ | 刃物・マルチツール 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2019.07.17

    にっぽん刃物語「クマ研究者のポケットナイフ」~鉈からメスまで携行するが最も活躍するのは多機能ナイフ~

    刃物の持ち主
    東京農業大学教授
    山﨑晃司さん
    専門は動物生態学、動物管理学。奥多摩、日光をフィールドにクマの行動を研究している。ロシアでも合同調査を行なう。趣味は渓流釣りとハンティング。
    ※ 所属や肩書は取材当時のものです。

    さまざまなナイフを使ってきたが、使用頻度が高いのはビクトリノックスのハントマン。調査では細かい作業が多く、取り回しが軽くツールの多いポケットナイフは便利だという。

    人とクマの接近遭遇が増えている。クマの問題がシカやイノシシの場合と大きく異なるのは、被害の多くが人的なものであることだ。出没→恐怖→通報→射殺という不幸を断ち切るために、研究者は今日も森の中へクマを追う。

    罠で捕獲したクマは麻酔で眠らせ、その間に血液や体毛を採取したり、GPS付きの首輪を取りつける。放獣後は衛星から送られてくる位置情報を頼りに行動を追跡。そのクマが食べている植物の栄養調査なども行なう。

    日本に生息するツキノワグマの数は一説に3万頭。限られた手がかりから割り出されたものなので、実数ではない。1万頭から5万頭というかなり粗い値の真ん中あたりをとった、あくまでも目安的な頭数らしい。

    動物学者の山﨑晃司さんは、ツキノワグマはまだまだ謎多き動物だという。

    「3万頭は過少評価だと思います。なぜなら捕獲頭数が4000頭以上になる年もありますから。分布域は明らかに広がっています。茨城県北部のように200年間も目撃記録がなかったところに出始めていますし、奥多摩のような都市近郊でも人との接近遭遇が頻発している。

    一方で九州のように、事実上絶滅したというほかない地域もあります。クマの管理の議論をするとき、じつは日本全体で何頭いるかということはあまり意味がないんですよ。あるべき姿は、固有の遺伝子を持つ個体群が山系ごとに棲息すること。いま確立しないといけないのは、社会事情も考慮した分布域ごとの適正管理です」

    まだまだ足りない基礎情報を固めるために、山﨑さんは捕獲したクマにGPS首輪を取り付けたり、血液や体毛を調べ、遺伝子や季節ごとの餌を分析する。

    そんな調査に欠かせない道具がナイフだ。山にクマを追うときは、鋸付きの鉈からメスまで持って入るが、現場で最も活躍する刃物は、ビクトリノックスのマルチツールだそうだ。

    「重宝するのは、ブレード(刃)よりもハサミ、鋸、リーマー(錐)ですね。ドラム缶製の罠を設置したり、捕獲したクマに首輪を取り付けるときは、この3つの工具をよく使います。たとえば、首輪の素材は硬い樹脂なんですが、小さいクマだとはみ出すんです。そんなときは、鋸でガリガリやって長さを調整します」

    罠にかかったクマは最初に大暴れする場合がある。罠の隙間に爪や牙がかかるとダメージを受けるため、噛み木と呼ぶストレス発散用の木片を入れておく。腐蝕しかかった柔らかい針葉樹がよいそうで、その調達にもツールの鋸が活躍する。

    「最近、興味深いことがわかってきたんですよ。クマは秋に木の実をたくさん食べ、蓄えた脂肪で越冬するといわれてきましたが、その脂肪は夏越しにも使われている。つまり1年分の貯金になっているようなんです」

    人と野生動物が共存できる社会。そのシステムやマネジメント方法を模索するため、山﨑さんはクマの棲む森へ分け入る。

    文/かくまつとむ 写真/大槗 弘

    ※ BE-PAL 2016年6月号 掲載『フィールドナイフ列伝 23 クマ研究者のポケットナイフ』より。

    現在、BE-PAL本誌では新企画『 にっぽん刃物語 』が連載中です!フィールドナイフ列伝でお馴染みの『 かくまつとむ&大槗弘 』のタッグでお届けしております!

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