にっぽん刃物語『 ヨットマンの非常用ナイフ 』~ いざというとき海の上でわが身を守る “ 抜かずの宝刀 ” ~ | BE-PAL

にっぽん刃物語『 ヨットマンの非常用ナイフ 』~ いざというとき海の上でわが身を守る “ 抜かずの宝刀 ” ~

2019.02.20

刃物の持ち主
江ノ島ちょっとヨットビーチクラブ
小宮航さん
神奈川県鎌倉市生まれ。立教大学卒。クラブでは、マネージャー兼インストラクターとして、マリンスポーツの楽しさの普及に努める。
※ 所属や肩書は取材当時のものです。

ヨットマンのナイフは、いわばお守りだが、いざというときすぐポケットに手が伸びるよう、存在をつねに意識しておく。細引きのループに手首を通してから取り出す。

帆と艇のバランスで風を推進力にするヨット。その操作を支えるのは数10本におよぶロープだ。もし、そのロープがもつれたり体に絡んだら…。ヨットマンが携えるナイフは、そんな緊急時のツールである。

ヨットナイフと呼ばれるものには多機能型のものもある。陸上での整備には便利だが、海に乗り出す場合は、ロープが切れる刃が1本あればよいというのが小宮さんの考え。「軽いほうが取り出しやすいですし、じゃまにならない。手の中でも簡単に扱えます」

ヨットの世界におけるナイフの位置づけは“抜かずの宝刀”という言葉に近い。いざというとき頼りになるが、めったに使うものではない。出番がないに越したことはないという意味だ。

「ヨットでは、舵以外の操作はすべてロープで行ないます。帆を上げ下げするのはロープ。風の強弱に合わせ帆の張りを調整するのもロープ。これらのロープはある程度足元に整理されているのですが、ヨットがひっくり返ると、投げ出されてもつれたり、ときには海中で体に絡みつくことがあります。」

「危険なのはロープだけではありません。ウインドブレーカーが出っ張りにひっかかったのをナイフで切るケースもあります。僕自身、海上でナイフを使ったことはまだ一度もありませんが、乗るときは必ず携えます。ヨットではライフジャケットの着用と同じぐらいの常識ですね」

こう語るのは、江ノ島ちょっとヨットビーチクラブの小宮航さん(25歳)。仕事ではヨット、ウインドサーフィン、SUP、カヤックのインストラクターを務め、休日もよい波が立てばサーフボードを抱えて海へ出るという、根っからの海好きだ。小学2年生から始めたヨットは、第1回オープンビッククラス全日本選手権(2012年)で優勝したほどの腕前である。

小宮さん自身は今まで緊急事態に遭遇したことはないが、ひっくり返ったヨットが練習用のマーカーブイまで流され、錨を固定するロープに絡みついて身動きがとれなくなった状況を、間近で見たことがある。

「ヨットを起こせないんですよ。だいたいそういうときは風があって波も高いものです。僕らが乗っているディンギーという小型艇は、使うロープも直径10㎜以下と細いので、引っ張られるともつれた箇所がどんどん締まっていく。切断しか選択肢がないのですが、ハサミやカッターナイフでは力不足なんです」

ヨットナイフと呼ばれるものには、ロープの切断に特化した波刃のものも多いが、とくに形状や機能に決まりがあるわけではない。小宮さんがいつもライフジャケットのポケットにいれているのは、ビクトリノックスのスーベニアだ。大小ふたつの標準的な刃がついた、多機能ナイフで知られる同社のなかではシンプルなモデルである。

「ロープを切るのに過不足ない刃の長さと力、切れ味があればなんでもいいんです。これを選んだ理由は、軽くコンパクトであると同時に、いざというときに必要な機能的条件を満たしていること。もうひとつ理由があります。中学生のとき出場したヨーロッパのヨット選手権の参加賞にもらったナイフが、このブランドだったんですよ」

使わないことが最良だというナイフは、海という大自然と付き合うときの心構えを、あらためて私たちに教えてくれる。

刃物の持ち主
江ノ島ちょっとヨットビーチクラブ
小宮航さん
神奈川県鎌倉市生まれ。立教大学卒。クラブでは、マネージャー兼インストラクターとして、マリンスポーツの楽しさの普及に努める。
※ 所属や肩書は取材当時のものです。

文/かくまつとむ 写真/大橋 弘

※ BE-PAL 2014年12月号 掲載『 フィールドナイフ列伝 05 ヨットマンの非常用ナイフ 』より。

『 フィールドナイフ列伝 05 ヨットマンの非常用ナイフ 』掲載号
BE-PAL編集部
BE-PAL 2014年12月号

現在BE-PALでは新企画『 にっぽん刃物語 』が連載中です!フィールドナイフ列伝でお馴染みの『 かくまつとむ&大槗弘 』のタッグでお届けしております!

新企画『 にっぽん刃物語 』が読める最新号
BE-PAL編集部
BE-PAL 2019年3月号
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