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『BE-PAL』読者には連載「サラリーマン転覆隊」でもおなじみ、環境マンガ家の本田 亮さん。ひとコマ漫画やかるた、講演会などを通して、子どもにも大人にも分かりやすく環境問題や社会問題を伝え続けています。そんな本田さんが、平和への祈りを込めてつくったストーリー絵本『ダイダイジョーブ みつばちフローラ』を2026年2月25日に発売。改めて、本田さんのクリエイティブの源や今回の作品について伺いました。
数年に一度わき起こる“行き場のない感情”がペンを握らせる
もともと広告代理店でCMプランナーとして活躍していた本田さんは、漫画はもちろんイラストも描いたことがなかったといいます。環境マンガ家になったきっかけは、1988年のサハラ砂漠横断の旅です。

「サハラ砂漠は真っ赤な砂漠なのですが、赤い中を進んでいると、ある場所で白い砂が広がっていたんです。近づいてみると、それは砂ではなく貝殻でした。地元の人の話では、かつてそこに湖があり、漁師も住んでいたそうです。ところが湖が干上がり、村は滅び、膨大な貝殻だけが残されていたんですね。これには衝撃を受けました。
日本にいると世界の砂漠化は遠い出来事のようですが、じっさいに目の当たりにしたことで危機感を覚えました。そしてこれは砂時計のようなもので、今の日本は上のほうで豊かに暮らしているけれど、下の砂がどんどん崩れて、いつか日本にも大きな変化がやってくるのではと感じたんです」
この状況を、どうしたら伝えられるだろう。思い浮かんだのは、ヨーロッパで人気の風刺が効いたひとコマ漫画。ユーモアのある一枚絵なら、 地球で起きつつあることを分かりやすく伝えられます。
「CMプランナーは、ひとつの商品に込められた多くの情報から取捨選択して、こういう形で伝えると15秒のテレビCMでよさが伝わるんじゃないか?って考える人です。その商品を環境問題に置き換えて、ひとコマで表現してみようと描き始めました」

最初は絵を学ぶところからスタート。湾岸戦争をきっかけに描いた『アメリカの正体がわかる絵本!』、群馬の八ッ場(やんば)ダム反対運動に寄せた冊子、東日本大震災で起こった原発問題にまつわる漫画など。社会で起こるさまざまな事象への、行き場のない怒りにも似た感情がエネルギーとなり、本田さんはひとコマ漫画を描き続けているそう。
「サハラ砂漠での出来事をきっかけに、数年に一度、とっても腹が立つことが起こるんですね。その時に、このままじゃいけない。何か自分にできることはないか?とペンを握る。その繰り返しです」
やさしく・楽しく・明るく伝える
本田さんが描くテーマは、きびしく深刻なものです。それゆえニュースや新聞で目や耳にすると、重く感じたり、近づきがたいと思う人もいるかもしれません。だから本田さんは「やさしく・楽しく・明るく伝えること」を大切にしているといいます。
「僕は、環境問題や社会問題に対するハードルを下げて、多くの人が考えられるようにしたいと思っています。だから僕の描く絵は、明るいトーンのインクを使って、可愛い主人公になっているんです。そして基本的には、泣いている登場人物はいません。
だって、環境問題や社会問題をありのままに表現したら、見たくない!って拒絶する人もいるかもしれないでしょう。やさしく・楽しく・明るく伝えることで、まぁとりあえず見てってよと間口を広げたい。そのうえで、作品に隠されている事の重大さはそれぞれで受け取ってねと、見る人に委ねています」

どんな時も一生懸命な姿が戦地で生きる人たちに重なった
この春、発売された『ダイダイジョーブ みつばちフローラ』は、たくさんの子どもを育てる女王ばちのフローラが主人公です。フローラたちは、毎日一生懸命はたらき、はちみつたっぷりの豊かなお城を築きます。でも、たくさんの動物たちがはちみつを奪いにやってきて・・・・・・。どんなにツラい時も、フローラは「ダイジョーブ、ダイダイジョーブ」と子どもたちを元気づけ、“しあわせな明日”を願います。

まず、なぜ主人公をみつばちに?
「ずっと、身近にいるみつばちの話を描きたいと考えていたんです。みつばちって、僕がそばに寄っても刺すこともなく、ただただ一生懸命にはたらく。そして、しょっちゅうオオスズメバチに襲われたり、クマや人間にはちみつを取られたりするんだけれど、いくつもの困難の中でも挫けずに蜜を集めつづけます。
そういう姿を見ていたら、人間の世界の縮図と重なって。これをベースにストーリーを描きたいと考えていたところ、最近のパレスチナとイスラエルの問題だとか、ウクライナとそれからロシアの問題だとか、トランプ大統領の異国主義だとか、世界中で続く軍事衝突にだんだんだんだん腹が立ってきたんです。自分だけが豊かになりたいと考える人間って、なんて欲張りなんだろう!
そこで、人間たちが分け合う心や、弱者に寄り添う心を考えるきっかけを作れればと描き始めました」

本田さんが嘆くように、ニュースをつけると、毎日どこかの国で誰かが泣いています。その現実から目を背けたくなったり、遠い国のできごとで自分ごとにするのがむずかしかったり、子どもにどう伝えたらいいのだろうと悩んだりする人もいるでしょう。
『ダイダイジョーブ みつばちフローラ』は、そういった地球に漂う“よくない空気”を親子で話し合うきっかけにもなれば、と本田さんは続けます。
「この作品が、これまでのひとコマ漫画とちがうのは、大切なものが壊されちゃったり奪われちゃったりと悲しいシーンがあるところです。でも、苦しい中でもフローラたちは、誰を恨むでもなく平和な未来だけを願って生きています。
この絵本を通して、巨大な権力の下で苦しんでいるたくさんの人たちの存在に気付いてほしいですね。絵本の印税はすべて、国連WFP協会を通してガザの食糧支援に寄付するので、世界のほんとうに困っている人たちに手を差し伸べる思いやりも持っていただけたら嬉しいです」
何があっても「ダイジョーブ、ダイダイジョーブ」
本田さんのインタビューを前に、筆者はわが子と一緒に『ダイダイジョーブ みつばちフローラ』を読みました。そして感想を共有したのですが、意外だったのは子どもが「この本に出てくる人は誰も悪くない」と言ったこと。大人の筆者からすると、はちみつを奪いにやってくる動物たちは悪者以外の何者でもないけれど?

「そうなんだよね。別のお子さんも、同じような感想を言ってましたよ。はちみつを奪いにやってくる動物たちだって生きなきゃならないし、それぞれ事情があるわけで、誰が悪いというわけではない。それは世界中で起こっている社会問題にも当てはまるかもしれない。いろいろな考え方で受け取ってもらえればいいのかなと思っています」
さらに本田さんは、常に前向きに生きていこうというポジティブな気持ちを届けられたら、とも。

「フローラは『ダイジョーブ、ダイダイジョーブ』という言葉を繰り返しているんだけど、あれはお母さんが子どもに言うおまじないの『ちちんぷいぷい』のようなもの。ツラいことや悲しいこと、何があっても大丈夫。きっと明日はいいことがあるよ、またがんばろうね。そんなふうに、読む人の背中を押せたら」
愛らしいフローラをはじめ、たくさんの動物たちが描かれた『ダイダイジョーブ みつばちフローラ』。本田さんの、やさしく・明るく・楽しいタッチとことばで綴られた、誰もが平和について思いをめぐらせることのできる絵本です。ストーリーにはふりがなも振ってあるので、ひらがなが読めるお子さんなら一人でも読めるでしょう。また、読み聞かせをして親子で感想を語り合うと、新たな気づきがあるかもしれません。
必死にはたらき、集めたはちみつを分け与えてくれるフローラたちの姿から、あなたは何を思う?
『ダイダイジョーブ みつばちフローラ』の詳細はこちら!

撮影/小倉雄一郎







